3.絶叫
頭では解っているが、
まずは生物としての基本を整えなければどうしようもないと気付いた。
つまり、腹が減ったってこと。
とりあえずは≪アプライ:鑑定≫をとにかく唱えまくり、
周囲の動植物が食べられるかどうかを調べ始める。
いくつか野草を手にし、調理法を考えつつ、
あの死体の肉も食えそうだけど嫌だなぁ。
とか考えたあたりで、ふと思いついた。
(所持アイテムってどうなってるんだろうか)
色々と考えを巡らせた後、腰にぶら下がっている小さい袋を、
その大きさから全く期待できない眼差しで。
しかし、生涯したことが無いほどの祈りとともに開けてみる。
真っ暗で何も見えない。手を突っ込んでみる。
すると、この袋の中に入ってる物を一瞬で理解した。
ローポーション901個、ミドルポーション912個、ハイポーション903個。
マジックローポーション、マジックミドル、ハイ等々。
その他、バフ効果を受けるために買いこんである食事も大量に。
それぞれ900ちょいなのは、黒井太一のクセだ。
アイテムは1スタックにつき999個まで持てるが、逆にそれ以上は入手しても破棄されてしまうため、
貧乏根性からほとんどのアイテムは900個になるようにしていた。
「やった…!アイテム!!」
(でも倉庫のアイテムは流石に無さそうだな…ま、それでも一旦大丈夫だろ。
バフとか言ってる場合じゃないし、これ食えば良さそうだな…、と、その前に)
とりあえず、食事の前にランタンを取り出してみることにする。
アドルミアを始めたら、序盤の洞窟ダンジョンに行く際に貰える、
全プレイヤーが持っているアイテムだ。
「うおっ!ちゃんと出て来た…」
ランタンは袋よりもデカいのだが、にゅるっと出た。
そして早速点灯。
ランタンの灯し方など知らないが、スイッチ一つで点けることが出来た。
「おぉ…明るい……」
なんて当たり前の事を口にしながらランタンを地面に置く。
安心感と喜びから、様々な不安が霧散していく。
とりあえず、しばらくは餓死なんて事にならずに済みそうだ。
早速、どれを食べようか考え始める。
ゲーム内の飲食物はどれも旨そうで、しかし素材がゲーム世界の物なので、
実際食べることは不可能だった。
(見た目を似せた料理は何度かSNSで見たものだが、本物が食えるぞ!)
期待しながら思案していると、また新たな問題が、恐怖とともに押し寄せてきた。
「うおわあああああああああああああああ!!!!!!!」
絶叫とともに飛びのく。
ランタンの明かりに寄せられ、様々な虫が寄って来たのだ。
黒井太一は虫が大の苦手だった。
ある意味しょうもない事なのだが、
元々虫が苦手な上に、見た事もない色、形、大きさだったのだから、
人によっては、仕方がないと思うだろう。
「≪アーリーマジック:魔法詠唱高速化≫!!!
≪マジックアッパーⅥ:魔法最大強化≫!!!
≪マジックテールⅥ:魔法ヒット率超大幅上昇≫!!!
≪セカンドマジック:魔法ヒット数+1≫!!!
≪サードマジック:魔法ヒット数+1≫!!!
≪ファストマジック:魔法効果超高速化≫!!!
≪コンテマジック:魔法効果連続発動≫!!!
≪レジデントマジックⅥ:魔法常駐化最大延長≫!!!
≪サークル:魔法円範囲化≫!!!
≪ラージマジックⅥ:魔法範囲超拡大≫!!!」
可愛さのかけらもない必死の形相で複数の魔法を一息で唱える。
不意打ちでモンスターの群れを仕留めるべくアドルミアで練習した、ワンパン用魔法コンボだ。
「≪バニシック:燃焼≫!!!!!!!!!!!!」
発動直後、ターゲットした虫の周囲半径約20mにやや赤みがかった薄い気体が舞い、
範囲内の虫たち、更に動物たちまでもが、瞬時に絶命した。
「ふ…ふざけんなよ…まじで……クソが!!」
言いながら大量の虫の死骸に身震いしつつ、
明らかに過剰な魔法を連続して唱えた影響で、急激な倦怠感に襲われる。
これがMPが減るという事なのかと、なんとなく理解したので、
さっそくマジックポーションを飲み、その効果を実感した。
バニシックの魔法効果は暫くこの場に留まるはずだ。
気持ちを落ち着けて、飯を食おう‥‥。
なんでこんなサバイバルめいた事してるんだろう、絶対俺に向いてないのに。
誰に言うでもなく、またもや独り言が漏れた。
「こんなんじゃ先が思いやられるな……、てかバニシックの見た目、ゲームと全然違うじゃん…」