29.次
アルカンダルに来て約4週間が経過した。
城を落とした後は、死体の処理。そして北側に住む貴族たちの対応。
ミルコを中心に市民たちの訴えを聞き、この国の法を半ば無視しながら対処し、
武力が必要な時はママルやテフラが手を貸していた。
何人かの貴族連中がアルカンダルの外から、
王子と共に私兵を連れて束になって来た時はびっくりしたけど、
ある意味手間が省けたようなものだった。
元ヒポグリフのメンバーを中心に、頭がまともな残りの貴族と、
なんとか手探りで政を行っているらしいが、色々と苦戦しているみたいだ。
悪いけど、そこに関してはママルもユリも知識は無い。
それでもユリの知恵は時々借りているようだ。
奴隷販売所は潰し、少なくともこの国で取り扱う事は禁止する方向で動いている。
街中では、国王が悪魔召喚をして失敗したんだ、とか、
小さい化け物が、黒い悪魔が、等々の噂が流れていたが、
幸いママルがそうであるという事は、ヒポグリフのメンバー以外には知られていない。
装備を切り替えるタイミングは、ちゃんと考えて行おうと思う。
そんな折、ジョシュから連絡が入った。
城の中にあった書類を調べていた時に、気になる点があったようだ。
そこには【薬品と呪術による兵士作成について、ハルゲンでの実験経過。順調】とだけ書かれていた。
ハルゲンというのは村の名前で、サンロック国内、アルカンダルから更に北西、トワイトという村の先だそうだ。
既に関わってしまった問題、それに呪術。確かめない訳には行かない。
「あの」
最近よく行動を共にしているテフラが声をかけて来た。
「どうしました?」
「私も、行かせてください」
「い、いいんですか?!」
「元々行く当てもありませんから…、
ママルさん達が行っているというモンスター退治、
私も手伝えたらなって思っていたんです」
「ふむ、戦力としても申し分ないしの」
「あ、でも、この街は大丈夫かな…」
「もう大分落ち着いて来たし、ミルコ達でなんとかなるだろ、それに、テフラも別にこの街の者でもないしの」
「むしろ、この街は未だに嫌いです」
「まぁ、解ります」
(シイズ村に比べたら色々便利だ、食事処や生活用品も色々あるし、
様々な魔道具によって、火を起こしたり明かりを灯したり水が流れたりと、
生活水準も結構高い。それにもうモンスター達も殆どいない。
それでも、ここにはあまり良い思い出がない)
「では、行くとするかの、ハルゲンとやらに」
「ありがとうございます、ユリさん、ママルさん」
「いや、心強いです。行きましょう」
テフラの状況は本人から聞いた。
4か月ほど前に村自体が滅ぼされ、仲間も殆どは死ぬか奴隷として売り払われ、どこに行ったのかも解らないと。
親友を手にかけてしまったこの爪で、盗賊共を絶対に殺してやりたいと言っていた。
それでも、自分1人の目的よりも、モンスター退治を手伝う事を優先した。
これはきっと、彼女の心が少しは回復しているという表れなのだと信じたい。
自身が強くなった時の事に関しては、魔法薬で意識が朦朧としていて、
はっきりと覚醒する直前の出来事は、ぼんやりとしか覚えていないようだった。
それでもユリの優しさに触れた事は覚えていると言って、
それを聞いている時のユリは、なんだかやたらとモジモジしていた。
ミルコ達に事情を話し別れを告げると、
それぞれ必要なものを買いだして来ると言って一度散開した。
今はアルカンダルの北側の門前で待ち合わせしている。
金はポーションをいくつか売り、大分いい値になったが、
ママルは特に買いたいものがない、布のカバンと、紙とペン、
それと水が出る魔道具だけを買って、突っ立っていた。
(女子の買い物って、時間かかるって言うからなぁ)
40分程度経っただろうか、大きめのリュックを背負ったユリがやって来た。
「待たせたの」
「いや、いいよ、テフラさんまだだし」
「そうか……。のぅ、お主」
「何?」
「テフラと話しとる時、なぁんかデレデレしてないか?」
「そっ…んな事は、ない!…何っその目は!」
テフラは、実際スタイルが良い。高身長でスラリとした手足と締まった筋肉。
今いる二人と違って胸もある。
歳は19で、獣人の寿命は殆ど人間のそれと変わらないはずなので、この世界では酒も飲める。
皆といつか飲み交わしてみたいと思っているが、ユリは14、あと1年必要だ。
ママルがついつい目で追ってしまうのは、そう言った理由でもあるにはあるが、少し違う。
本物の獣人だからだ。全身を短毛が包み、顔立ちからして骨格が人間のそれとは別物だ。
そして何より動く耳や尻尾にどうにも心を惹かれてしまう、
自分自身のキャラクリエイトが正にそれを証明している様に。
「よく目で追っておるではないか」
「い、いいでしょ…別に」
「ふぅ~ん…」
「な、なんだよ…」
「そういえば、さっきアプライで覗いておったな」
「覗いたって…ちゃんと先に言ったよ。パーティーメンバーなら知っておきたいからね」
本当はもっと早く見るべきだったが、中々タイミングが掴めなかった。
「どうだった?」
「レベルは98。この世界で見て来た中で、一番高い。それに魔法薬耐性を持ってた」
「ふむ…なるほど…。わしが35、とかだったか?どうしたらそれ上がるんだろな」
「ちょっと、もっかい見てみるね≪アプライ:鑑定≫」
●人間:結界術師:ユリ Lv38 スキル:先眼 詠唱破棄 魔弾 理障壁 魔障壁 守静陣 攻勢陣 人避けの守り etc…
使者ママルのパーティーメンバー、神をその身に降ろす事が出来る
弱点:雷
「ちょっと上がってるわ、38だって。敵倒したからかな」
「ふむ…そういうものなのか…」
「解んないけっ、詠唱破棄っ?!前からあった?」
「あぁ!そうだった、戦闘中に高速で魔法を連発していたら、なんか出来るようになっとったんだった」
「ま~~じか!」
「ただ、魔法の強度が落ちるから、基本は詠唱した方が良いがの」
「言ってよ~~」
「いや、言われて思い出したのだ、そういやあの時!っとな。
しかも破棄だ、何か完全に新しい事が出来るようになった感じではないから、
殆ど無意識だったのだ、許しとくれよ」
「先眼と同じ、常時発動型スキルか。確かに、特に気にしない限り意識から漏れるかも」
「そうだろ?」
「許す!」
「寛大な御心に感謝致します」
「…なんかそれ嫌だな」
「お主がたまにやる奴の真似だ」
「そいつは失礼致しました」
「ふふんっ」
「お主、カバンの中全然荷物入って無さそうだの」
「まぁ、そうね」
「じゃあわしの荷物も持っといとくれ」
「はいはい、構いませんよ」
「どうせ後で感謝するでな」
「まじ?」
(何か、買った方が良い物あったっけ)
「おっ、来たぞ」
テフラがこちらに手を振りながら近づいてくる。
(お、装備整えてる、…てか肉球が気になる…正直触ってみたい)
「お待たせ致しました、行きましょう」
「はいっ、では、次の街、じゃなかった、村に向けて、出ぱ~つ」
「なぁんか張り切っとるのぅ…」
読んで頂きありがとうございます。
王都アルカンダルはとりあえずこれで終わりです。
次から、ようやくまともに旅が始められます。
もし宜しければ、ブクマや評価等して頂けると励みになります。
よろしくお願いします。(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾




