28.就寝
ユリ達が来賓用通路を抜け、エントランスへ出ると、
外から多数の悲鳴が聞こえてくる。
「な、なんだ!何があった!」
そんなミルコの声を聞き、兵士の死体がそこかしこに転がる凄惨な光景を横目に、
正門から外へ出ると、北側の市民達が見ている目線の先に、ママルはいた。
「ど、どうなってんだ!」「これは一体」「何が起こってる」
レジスタンスの面々が困惑していると、
悲鳴は次第に、ざわつきや喜びの声に変わって行った。
ママルはユリ達を視認すると、下まで飛び降りる。
「お主…何をしたのだ…それにその様相は」
「それを見たら、ユリちゃんなら想像つくよ…」
そう言いつつ、正門脇に捨てられている肉塊を指さす。
少なくとも、国王が身に着けていただろう王冠やマントはどう見ても本物だ。
皆が言葉を失っていると、ママルの心は、勝手ながら少しだけ寂しい気がした。
「皆は無事だった?」
「あ…、お主から貰っとったポーション、役に立ったでな、無事だ」
「良かった、じゃあ、帰ろうか」
「そ、そのまま?」
「あっ」
言われて、地味な装備へと着替えると、ミルコが声をかけてくる。
「ママル、本当に、本当に、ありがとう…、感謝する…。
ユリも、力を貸してくれてありがとう、2人がいなければ成し得なかった…」
「いえ、その、じゃあ後何日か、あのアジト使わせてもらえます?」
「いや、もうその必要はない…北側には宿がある、案内しよう」
「そっか、お願いしますっ!」
「おえぇっ」
(あ、ユリちゃんが吐いた、ごめん…)
――アルカンダル北側の宿に着く
「そんでな、まじのまじでやばかった、死ぬかと思ったわい」
「まじか…地下にもそんな戦力があったなんて…無事で良かった…」
「皆のおかげだ」
2人は宿の部屋に備えつけられている風呂を順番に使うと、
一息ついた後に談笑している。
個室にユニットバス付き、なんてかなり良い部屋だと思われるが、
二人共食事をとる気にはならなかった。
「それで、その時の状況から察するに、まぁあくまでわしの推察なのだが……」
「うん?」
「そのテフラという娘に起きた事は、精神による肉体の変化そのものだったように思う」
「ふむ…詳しく」
神様の話の解釈については、よく2人で話し合っている。
「まず起きた事象としては、明らかに圧倒的な力を手に入れておった。
もし元よりあの力があったのなら、1人で逃げ出す事など容易な筈なのでな」
「おぉ~~」
「要因として、もしかして、精神に強力な負荷がかかった時、というのは考えられんか?」
「…………ありえるね……いや、ちょ、ちょっと待って、なんか」
「何か思いついたか…?」
(何か、目隠しでパズルをしていて、ピースがハマっていくような感覚)
ママルは暫く考えたのち、ユリにその考えを話す。
「同じく、ただの俺の推察だけど、その、モンスター化についての話ね。
精神に強い負荷がかかった時に、肉体に変化が起きる。
その変化量と、精神負荷の強さの因果関係は解らないけど…。
盗賊のボスが変質してモンスター化したとき、状態異常耐性が増えてた。
おそらく俺の魔法を受けて獲得したんじゃないかな…。
変化とは、抗体のような物なのかも、精神が望んだ形に近づける。
例えばスキルを覚えたりとか…」
「なるほど…」
「で、モンスターになる要因は、悪感情エネルギーだとか聞いたでしょ。
これがどれだけ溜まってるかを、えっと、カルマ値呼ぶこととして、
この値が仮に100を超えてる時にこの肉体変化が起こると、モンスターになる。
逆に99以下の場合は、モンスターとはならないし、
もしくは100を超えていても、肉体変化が起こるまではモンスターにならない。
…そういうラインがあるんじゃないか。
だから、悪い奴でも、モンスターとそうじゃないのがいる。
で、モンスター化してしまったら、攻撃衝動が溢れ続けてしまうと。
むしろモンスター化さえしなければ、いくらでも自分の理想を実現できるという」
「ま、待て、そこについては、今は話すべきではない」
「な、なんで?!」
「精神負荷、と言っとるが。いや、わしが言ったのだが、
結局それがどの程度を想定した物か解らんからだ。
お主も言っとったが、変化量と負荷の強さの因果関係も不明だ、
理想を実現するという話には繋がらん。
要因次第によっては、自身の本質的な望みとはズレるからの」
「…まぁ、確かに」
「ただ、仕組みについては色々な意味で納得性が高い。
わし自身も、本からではないスキルを獲得した時の状況を思い返してみたが、
思春期特有の悩みで、勝手に自分を追い詰めておったように思う。
もちろん、テフラの環境、精神負荷とは比べ物にならんくらい浅いがの」
「……なるほどなぁ」
「それとテフラの状況的に、正に分岐点だったのかもしれん」
「と言うと」
「先ほどのカルマ値とか言う話だ。
精神負荷により何かしらの肉体変化が起こっておるとき、
既に100を超えていた所にわしらが助けに来て、
99以下に下回り、変化が完了した。
モンスターへの変質を回避できたテフラは、
盗賊の団長のような狂乱は引き起こさずに、
自身が望む能力を身に着けた、そう考えると辻褄が合う」
「元から99以下なだけだった、とかは?」
「なくはないが…、悪意は伝播する、あんな状況に居て、
殺してやりたいと、殺人衝動を抱かない者はおらんと思う。
それにテフラに出会ったときの取り乱し様がな…、まぁ、結局ただの想像ではあるが、闘技場自体、何らかの実験場も兼ねていたのかもしれん」
「………俺なんか、もう100超えてるかもなぁ…」
「………本気か?」
「……どうかなぁ」
「ちょっと頭が疲れたのぅ。まぁ、次に神様と話せる時が来るまでに、
聞きたい事が纏まるようにしようではないか」
「だね………ってかさ」
「………まだ何かあるのか?」
「いや……、ユリちゃんさ、まだ思春期だよね」
「だ!?だったら何だ!!!」
「いや、深い意味はないです」
「くっ!このっ!!」
「明日、テフラさんと話をしよう」
「…同意だが、誤魔化されてはおらんでな…」
「別にからかいたかった訳じゃ…ごめんて」
「もうよいわ、寝るで」
時間的にはまだ多少早いが、今日はとっとと寝てしまいたい気分なのは解る。
明かりを消し、それぞれベッドに横になった。
「ってかさぁ」
「なぁんだっ」
「城とか、国王とか無茶苦茶にして大丈夫だったのかな」
「まぁ、そこはのぅ、元々無茶苦茶だったのだし、民達に頑張ってもらうしかあるまいて」
「国がってなったら、多分他の国にも影響してくるよね」
「うむ…」
「良い国になったとして、国が弱体化したら、戦争とか仕掛けられそうだなって」
「それは昨日も話したではないか」
「そうなんだけどさ、今回の件で神様が言ってた、
もうこの世界は駄目なのです!って言葉がさぁ…、ほとほと理解出来ちゃったからさ」
「要は弱体化したと悟られなければよいのだ、数年誤魔化すくらい、なんとかなるだろ」
「数年?」
「お主が世界全部のモンスターを倒すまで」
「……いやぁ……重いよ」
「…頑張るのだぞ…」
「………頑張るよ……」
「……………」
「……………」
「ってかさぁ」
「んなぁ~~んだっ」
「ははっ、まじで何でもない、寝よう」
「お主は、…ははっ…あっはっはっはっはっは!!」
「くくっ…はははははははは!!」
読んで頂きありがとうございます。
このあとがきで、逆に興を削いでしまったら申し訳ないですが、
主人公の変な闇落ちとか、ウジウジ悩むのとかを書くつもりはないです。
あくまで一般男性並みにも、思う所はあるよねってだけの奴ですので。




