26.悪魔
「オイオイ!このままだと国王様のところまで行っちゃうぞ~~!!!」
次々と兵士をなぎ倒し、上階へと階段を登る。
(もう、何人殺したんだろうか…。いや、やると決めたんだ。俺が)
と、これまでの兵士とは一線を画す装備に身を包んだ兵士たちが待ち構えていた。
「我らが国王様の騎士団!!!ここまでだ!!大人しく捕まるか!死ぬか!
2つに1つ!我ら至高の騎士団13人が、貴様に選ばせてやろう!!」
(王国の、じゃねぇのか)
「………はぁ、しょうもな……」
ドゴン!!! ガラガラガラ………
ママルは、右手側の覗き穴から外が見える壁を、殴りつけて破壊した。
もっと多くの兵士たちに、ここにいますよと知らせるため、
そして目の前のこいつらをちょっと脅かしたくなったから。
「なっ!!!」
「騎士団?クズ共がイキんな、かかって来いよ」
すっかり思い出したヤンキー漫画の主人公を気取って、指をクイクイと動かし挑発する。
その小さい姿からは全然様になっていないが、効果はあったようだ。
「我は騎士団長!レインバラッド=アークである!貴様の無礼見過ごすわけにはいかない!皆の者!かかれ!!!」
号令と共に、高速で矢と魔法が飛んでくる。
「≪サンダーボウ:雷矢≫!!」「≪ファイアボール:火球≫!!」
「≪スラストショット≫!!」
ちょっと痛いのを我慢しながら、のっしのっしと歩を進める。
突っ立っていれば転がされるだろう衝撃だが、力みつつ腰を落とした前傾姿勢で前に進もうとしているママルは足で踏ん張れるため、
攻撃を食らうたびに少し後退するだけだ。
(俺の魔法は地味だ、もっと派手に暴れないといけない、【ヤンキー作戦】だ)
「くっ来るな!撃て!もっと撃て!!クソ!!ソード隊!突撃!ランス隊も続け!」
「≪スラッシュ≫!!!」「≪スライサー≫!!」「≪スタブランサ≫!!!」
「スラスラうっせぇんだよォ!!!」
攻撃を受けながらも、目についた者から殴って行く。
1人は振り下ろした剣ごと胸にママルの拳が突き刺さる。
1人はパンチを盾で受け止めたはずが腕ごと宙を舞い、続くキックで胴体が抉り取られる。
1人はランスを直撃させ吹き飛ばし、敵を壁面に激突させた思ったら、
すぐに飛び掛かって来られ、武器の先端が握られていて、そのまま壁に叩きつけられて内臓が破裂した。
気づけば8人の死体が転がっている。
騒ぎを聞きつけて、階下から多くの兵士が登ってくるが、こちらに近づけないでいるようだ。
そんな背後の兵士たちへ向かって魔法を唱える。
「≪サークル:魔法円範囲化≫≪シュート:魔法直線範囲化≫≪バニシック:燃焼≫!」
「「「ぎゃああああああ!!!!」」」
複数の兵士の悲鳴を聞きながら正面に向き直ると、騎士団長を名乗った男は尻餅をついていた。
「あと5匹」
「ま、待て!待て!!!待ってくれ!!なんだ!何が望みだ!!!話をしよう!!!」
「≪アプライ:鑑定≫」
「ひっ!!」
●モンスター:人間:騎士団長:レインバラッド=アーク Lv58 スキル:士気高揚 その他不明
サンロック国、国王騎士団の団長。その他詳細不明
騎士団長を見ると、攻撃魔法が来ると思ったのか、両腕で顔を隠すように覆っていた。
「話…。ねぇよ…、話なんか」
騎士団長以外の4人が、振り返り逃走を図った。
「≪シュート:魔法直線範囲化≫」
「た、たすけ!」
「≪バニシック:燃焼≫」
またもや絶叫が響き渡る。
レベルが半端に高いと、それだけ苦しむ時間が長くなってしまうようだ。
「……つまんねぇ」
(最悪な気分だ)
返り血や肉片、臓物によって汚れたママルの姿はあまりに醜悪だ。
装備は一度袋に仕舞って再び取り出せば新品の状態となるが、
あえてそのまま歩き出した。
(最悪な気分くらい、味わうべきだ、それに、丁度いい)
また階を上がると、大きな部屋がいくつかあった。
なんだか偉そうな奴らが兵士と共に沢山集まっていたが、
その中から、兵隊長!お前が行け!と声が聞こえた。
その瞬間、間髪入れずに範囲魔法を放った。
そして更にその上の階、一つだけある大きな扉をコン、コンとノックする。
「だ、誰だ!どうなっとる!騎士団は…っ!!!」
扉を開けて、ぬるりと出て来たママルの姿を見て、国王は戦慄した。
「あ……あ…悪魔…!」
「……そうかもな」
室内に目を配るとメイドが3人、目に入った。よく見ると所々に痣が出来ている。
「≪アプライ:鑑定≫」
●人間:メイド Lv8 その他不明
「な、何をしとる…!」
「≪アプライ:鑑定≫」
●モンスター:人間 Lv24 バルバリス=ド=サンロック14世
サンロックの国王 その他不明
「何をしとる!やめろ!!な、何が望みだ!お、お前が望む物!私ならなんでも用意できるぞ!!」
「…なんでこんな事をするんだ?」
「私が!お前に何をしたと言うのだ!!!」
「…なんで北と南に街を分割した?」
「きっ、競争心だよ!頑張る理由があったほうが、国は発展する!そうだろ!!」
「闘技場は」
「アレは罪人への救済措置だ!!キングになれたら恩赦が与えられる!!」
(そうか…、態度でなんとなく解った…)
そんな気はしていたが、きっと気のせいなんかじゃない。
虐げられる人。虐げる人。そういう場を敢えて作って、
そんな人たちを上から見下ろして、眺めて楽しんで、時には自ら手を下し、
それで自分自身の加虐心を満たしているんだ。
俺だって、むかつく奴を甚振る妄想くらいした事はある。
でもこれは現実で…。こいつも、もうダメなんだ。
「わ、私を誰だと思っている!!サンロック国王!バルバリス=ド=サンロック14世であるぞ!!!」
「なんだ急に…。メイドさん、この国王、どう思う?」
「ひっ……えっ…………」
「3人誰でもいいんだけど、正直に答えてね、嘘は解るから」
当然、嘘が解るなんてのは真っ赤な嘘だ。
「………………………」
メイド3人が目くばせしていたが、そのうちの1人が、意を決したように大声で叫んだ。
「はいあくでふ!!!!国王も!!このまひも!!!悪魔れも何れも良い!!!こいふをぶっこおひて!!!!」
そう叫ぶメイドの口内は、前歯が全て抜かれていた。
「きっ!貴様ァァ!!!!!騎士団!!どこへ行った!!!!早くこいつを」
「≪パラライズ:金縛り≫」
国王がその場に倒れ込む。
「おっけ~、今からぶっ殺してあげる」
国王の服、首根っこを後ろから掴んで歩き出す。
壁を蹴り破り、一階下の屋根にあたる部分へ躍り出た。
数度の城の破壊行為により、城下からは市民の視線が集まっているのが解る。
(これは、見せしめだ、こんな事、こんな最悪な事、誰がやりたいものか。
それでも、少しでも、例え恐怖と言う楔でも、こんな奴らが二度と現れて欲しくない。だから、俺がやる)
「悪い事をしているとぉ!!!!俺が!!!!
悪魔がやってくるぞお!!!!!!!」
城下へ向かって声を張りながら、国王を宙に吊るした。
「≪アンデス:不死≫」
アドルミアでは、ゾンビという状態異常を付与する魔法だったが、この世界では文字通り不死となる。
虫で試してみたとき、潰しても生きていて、最悪な魔法すぎていつ使うんだと思った。
「≪エンザ:不安拡大≫≪サッズ:悲嘆≫≪サニティ:正気持続≫」
次々と状態異常を重ね掛けしていく。
「≪フラルト:虚弱≫≪バニシック:燃焼≫≪コレプト:腐敗≫≪エイジール:老化≫」
「ぐォッ!!ごポッ!!エえ゛あっ!!」
パラライズは全身麻痺、本来声を出すことは出来ない筈だが。
内臓の形状変化によって、口から音が漏れている。
だが麻痺状態では痛みも緩和されているだろう。
城下からは多数の悲鳴が聞こえてくる。
(こちらからも、悲鳴を聞かせないとな)
「≪リリース:呪力反転≫≪パラライズ:金縛り≫」
「ンぐアアアあぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
絶叫がアルカンダルに響き渡った。
「ぉぇっ!ぅっ!だ、だず、げ!ごろ!じで!たずげ!ぐで!」
「≪ペイン:痛覚刺激≫。≪ペイン:痛覚刺激≫。…≪ペイン:痛覚刺激≫」
「あ゛あ゛あ゛ア゛!!ア!ア゛ァァ゛!!」
国王はジタバタと藻掻き苦しむと、右腕と左足がちぎれ飛んで行った。
「≪ワース:状態異常悪化≫」
「ぁっ…あ゛っ…ん゛ぇあっ…あ゛っ…あ゛っ…」
「…………………………≪バースト:状態異常爆砕≫」
発動と同時に、全ての状態異常は解除される。
もはや訳の分からない肉塊と化しているソレを見て、ママルは吐き散らす寸前で我慢する。
(胃酸の味がする…)
「……じゃあな…」
手を離すと、国王の死体は地上の石床へと落下していった。




