23.ママルとミルコ
ジョシュは駆け出してから40分程してようやく戻って来ると、
レジスタンス拠点、廃倉庫の地下へと案内される。
ある程度の情報は仲間に共有したらしい。
(しかし、この旅を始めて改めて解ったけど、ユリちゃん賢いなぁ。
箱入りみたいな生活してた割りに、なんか色々知ってるし)
「俺がレジスタンス、【ヒポグリフ】を纏めているミルコだ」
(デカい…、190くらいある?筋肉モリモリマッチョマン…)
「あ、どうも、ママルです、こっちがユリちゃん」
「作戦を練る前に、まずお前ら二人で森を踏破してきたにしても、
そこの獣人が一人で城を落とせるという話は冗談にしか聞こえん」
ユリの方を見ながら、ママルを顎で指す。
「まぁ、そうですよね。どうしたら信じられます?」
「…何ができる?」
「広範囲魔法で一撃で殺せる、殴っても一撃で多分人は死ぬし、攻撃も基本的に効かないかと」
「はぁ?無茶苦茶だ…ガキの妄想に付き合ってる暇は」
「≪アプライ:鑑定≫」
●人間:拳闘士:ミルコ Lv36 スキル不明
レジスタンス、ヒポグリフのリーダー。その他詳細不明
魔法を唱えた瞬間、ミルコの拳がママルの顔面に直撃しぶっ飛ばされた。
「いきなり魔法とはな、城側のスパイか何かか?」
他のレジスタンスメンバーが武器を構え二人を囲む。
「いや、ちょっと話を聞いてくれよ」
転がされて、仰向けに寝たままママルが答えた。
「…言ってみろ」
「このまま好きにボコってみて。あ、ユリちゃんには手出さないでね」
「は?……お前正気か?」
「は~い、どうぞ~、何もしませんよ~~~」
「なんだこいつ!」「罠じゃないのか?」「頭おかしいぜ!」
そう騒ぐ周囲に、ミルコは声をかけながらママルに近づいてくる。
「お前らは手出すな…そっちの女見張っとけ。ママル、後悔するなよ?
人間ならまだしも、獣人を痛めつけるのにそこまで心は痛まないからな」
「むっ…。早くしろよ」
ミルコは挑発にのりマウントポジションの体制を取り、拳を乱打する。
ドドドドド!ゴンゴン!!ガガガガ!!!!
衝撃で石床が激しく音を鳴らす。
「まぁ、こんなもんだよね」
「なっ…!……≪パワード:筋力増強≫!≪拳撃≫!!!!」
ドゴン!!!!!!
ママルの頭の下にあった石床が砕ける音がした。
「今のは少し痛いな、んじゃ、次は俺の攻撃を見て貰いたいんだけど、いる?」
「………、や、やってみろ」
(ちょっ!まじかよ、引くに引けなくなってるってヤツか?どうしよっかな)
するとユリが仲裁する形で割って入ってくれた。
「やめい。もうママルの強さは解っただろ。無駄なことはするでない」
「くっ……そう、だな」
そう言って立ち上がったミルコは、拳から血を流していた。
「無傷!どうなってんだ!」「バケモンかよ…」
「でもコイツならマジでやれるんじゃないか?」
口々に言葉を漏らすレジスタンスの面々にミルコが口を挟む。
「お前ら、黙っておけ…」
「ふん、まぁ今のは流石にママルも悪いぞ、対面していきなり目の前で魔法を使うなど」
「まぁね、でも手っ取り早いでしょ」
(あの盗賊団のボスがLv66だったのを考えたら、強くても100を超えることはないと思っていたけど、いきなり殴られるとは、結構ドキドキした)
「わしがびっくりしたわい」
「心読んだ?」
「何の話しとんだ」
「…では、ママルとユリ。早速だが作戦を話そうか」
「待て、その前に、お主らは何だ、獣人を見下しとるのか?」
「俺達というか、それが常識だ、少なくとも俺の知っている世界ではな。だがママル、お前には敬意を払うつもりだ」
「その前に見下した態度をとった事、一言謝ったらどうだ」
「あ?あぁ、……すまなかったな」
ミルコがママルに向かって軽く頭を下げた。
「え、あ、はい」
「ふん。じゃあ、作戦を立てるで。まず、連れ去られた人がどこに行っとるのか、情報はあるかの?」
――長い会議の末、2人が寝られるだけの部屋に案内され、お互いベッドに腰掛ける。
「決行は3日後の朝だ」
「うん、良い感じに纏まって良かったよ」
「良い感じか?つまるところ結局お主頼りになっただろが。
まぁ、わしも最初はそういう風に言ったが…」
「ユリちゃんも結構大変だと思うけど…、でもまぁ、一人でやる方が気楽だしさ」
「…わしが居るとめんどいか?」
「あ、いや、まぁ荒事に関しては流石にね。でも普段はこうして事情を知ってて話せる人が居るだけで、めちゃくちゃ助かってるよ」
「…むぅ……」
「さっきも獣人がどうのって、俺はあんまりピンと来てなかったけど、ユリちゃんが怒ってくれたのはちょっと嬉しかったし」
「お、お主のためではない!くだらない差別意識が嫌いなのだ!
しかもあやつらヒポグリフを名乗っておるのに、腹立たしい」
「ヒポグリフってなんだっけ」
「グリフォンは鷲とライオン、ヒッポは馬、それらを掛け合わせた幻獣。つまり獣だ」
「へ~~、それも本で読んだの?」
「いや、知っとるか知らんが、ルゥの家族は、元々はシイズの出身ではないのだ。
外に興味があったわしは、度々話を聞きにルゥの家に通っていてな。
そこでルゥの父から聞いたのだ、どうやら居るらしいぞ。ヒッポグリフ」
「まじで!!…あ~、そういうのもっと聞いとけば良かったな~」
「まぁ、わしからの話で良ければ、いくらでも聞かせてやろう」
「良いね、楽しみだ」
「な、なんか、妙に素直だのう…」
「別に普段と変わって無くない?」
「………寝るで!」
「久々のベッドだ。ありがてぇ~~」
「風呂がないのは残念だったのぅ」
「水すら最低限の配給ってのもなぁ、この街は最悪だね」
「飯もまずかった」
「……なんか食べる?」
「よいのか?足せなくて減る一方と言うとったのに」
「まぁそうなんだけどさ、じゃあ諸々のお礼って事で、一個あげるよ」
「甘いのが良い!」
「ふむ、そうだな、これにしよう、チョコリングドーナツ!」
アドルミアで3度目のハロウィンイベントで配られたアイテムだ、
ちなみに使うと、ローポーションの効果に加えて、
専用のエフェクトとモーションが拝めるというだけ。
「く、黒いな…うまいんか?」
「どうぞご賞味あれ」
言いながら取り出すと、紙の容器に入ったドーナツが一つ。
食器類は、アイコンに描かれていたものはそのまま出てくる。
ナイフやフォークなどは出ないため、自分用のをシイズで用意して貰ったが、ドーナツには必要ない。
「…………」
ユリはドーナツを手に持ち、ジッと見つめて、匂いを嗅いでいる。
ここまでの旅の途中でもママルの食事アイテムを取り出して食べさせるたび、ユリの良いリアクションが見れた。
そしてそれを見るのがママルにとっても密かな楽しみになっている。
「あむっ」
(おっ、行った)
「んんん??!!!」
(これは、どっちだ……?)
「お!!!おいひ~~~!!!」
ママルはひっそりと右手の拳を握りしめた。




