22.アルカンダル
気まずくなったり、軽口叩き合ったりしながら歩き約5日経った。
道中、やれ寝床が最悪だとか、トイレは風呂はと言われた時に、
それでもある程度の準備はしているため、ママルが一人で歩いて来た時よりは快適だったので、
ついいつもの感じで煽ろうとして、覚悟が足りてないんじゃないですか~、
とか言ってしまったときは、我ながら流石に反省し謝った。
(ちゃんと寝れない日が続くと、やっぱりなんか判断が鈍るよなぁ)
進行方向はママルが度々ジャンプし、世界樹を目印に確認していて、既にアルカンダルは視認済みだ。
「もうちょいで着くね、明るい時間に着けて良かったかも」
「わしゃまず風呂に入りたい」
「解るわ、その気持ち」
ほどなく森が開け、城門が見えて来た。
「お~~~!!」
「お~~っ!……ん?」
「どうしたの?」
「お主、目はよいか?なんか、アレ変じゃないか?」
「んん~~~??」
よくよく目を凝らすが、何が変なのだろう。
「門が全開で、門衛がおらん」
「あぁ~、まぁ、確かに?」
(常識があんまり解らないけど、言われて見ればそうなのかも)
「もうモンスターの巣窟になってたりしての」
「ま、まさかぁ…」
更に近づいてみるが、確かに門衛はどこにもいなく、
中はボロ屋が沢山並んでいる。
「入っちゃって良いのかな…?」
「まぁ……、行くしかなかろ……。お主、先に行っとくれよ」
「お、おう…」
ユリがママルの背中に隠れるようにして付いてくる。
もっとも背丈の関係でユリは全く隠れられていないのだが。
「お、お邪魔しま~~す」
「その挨拶は変じゃないか?」
「な、なんでも良いでしょ!」
そのまま数分歩いていたら、右手方向の奥からコソコソ声で、
でもそれなりに大きいボリュームで声をかけられた。
「おい!お前ら!何してんだ!!どっから来た!」
「え、あ、どうも、こんにちは」
「こっち来い!なるべく静かに!」
ユリとアイコンタクトをした後、男の元へ歩きつつ、その背へアプライを唱える。
●人間:斥候 Lv22 その他不明
「レベルとクラス以外何も解んないな」
「意味ないだろやっぱ」
「いや、モンスターじゃないのが解るだけで充分」
などとコソコソ話しながら、一軒のボロ屋の中へ入り、促されるままテーブル席に座った。
「なんでこんな所を女と獣人が歩いてんだ?どっから来た?」
そう聞く男は、精悍な顔立ちと鍛えられた筋肉とは裏腹に、どこかやつれて見える。
「えっと、森の、シェーン大森林の方から」
「あぁ、世界樹の方か?よく無事だったな」
「無事とは?」
「は?いや、森は野生モンスターが多いだろ」
「あぁ、まぁ俺たち結構強いので、大丈夫でした」
「ほお……で、何しに来た?」
「えっと……観光?」
「は?お前、知らないのか?」
「えぇっと…はい、多分」
「この街、いや、この国はもうダメなんだよ!悪政で市民は搾り取られ、理不尽な理由で殺され、まともじゃない」
「えっ!まじ…、じゃあ、その、あなたは何故ここにいるんですか?」
「逃げられねぇ、ここは大体円形の城壁に囲まれた街で、中央に城があるんだが、
北と南に分断する壁が出来てからおかしくなっちまった。
反対側は、こっちよりは多少マシらしいが、行くには門番がいるし、
こっち側から外に出ても行く当てがねぇ」
「門は開いてましたし、城の外周沿いに反対側に行くのは?」
「監視塔が立ってる、大きく迂回しようとすると、結局野生モンスターがいる森に入っちまうし…
ここの城下町で生産されたものは殆ど持って行かれちまうから、
何か食い物とか探すのに門は開けっぱなしになってんだ。
飯は貧しい配給だけで、あからさまに量も足りてねぇからな。
命がけで森でも探せってこった。そもそも門衛すらこっちに来ねぇしな。
城の奴らも、どうせ逃げられねぇって高を括ってやがんのさ。
ギリギリまで搾りたい、でも別に死んだってどうでもいい、あの門一つとってもそれが見て取れる」
「野生モンスターはここには来ないんですか?」
「たまに来るぜ、だがそれは城から兵隊が来て退治し、死体はそのまま持っていくんだ。
ま、急いで駆け付けるような感じじゃねぇから、犠牲者が出ることもあるがな…」
「なるほど…」
「な、世界樹の付近にも町があるんだろ?そこまで俺達を案内してくれよ!」
するとユリが応答した。
「ならん」
「なんでだよ!」
「このママルが、その城を壊滅させて見せよう!」
「ちょ!まぁ、やるけどさ」
「……は?!出来るわけない!俺達だって何度も国王暗殺を試みてるが、仲間の数が減るばかりだ!」
「む…、お主、やはり何か、反抗組織とかのグループか。もう少し話を聞かせてくれ」
「あ、あぁ…」
ある日、北西と南東に分断する壁が出来てから、
こちらの南東側はスラム化して行き、
そのどちらでも、反抗的な者、税を納めきれなかった者、
もしくは単に運悪く目をつけられた者たちは、
どこかに連れ去られて行ってしまっているらしい。
そのため自宅と仕事場以外で外出する人は殆どいない。
そして時々このスラムに、新たに人が投入されている。
話を聞くと、元北側の住人だったり、別の土地から来た人だったり、奴隷として売られて来た人達だったり。
反対側には貴族の家もいくつかあり、そちら側の市民は一見平和に暮らしているが、
貴族や城の連中に目を付けられると、南側に【引っ越し】させられるので、常に張りつめているんだとか。
それでこちら側で反抗の意志がある者を集めてレジスタンスを結成している。
「ふむ……面倒だな」
「何が?」
「連れ去られとると言う話だ。正直、あの城ごときならお主の魔法で瞬殺かと思ったが、中に奴隷等にされた民が居る可能性を考えると難しい」
「確かに」
「それに王都を二つに分断したのはどういう理由があるのか解らん」
ママルとユリが話していると、ジョシュと名乗ったレジスタンスの男が口を挟む。
「やっぱ無理だろ。世界樹の方の町に連れて行ってくれよ、何か安全なルートとか知ってるんだろ?それを教えてくれるだけでも良い!」
「すまんな。詳しい場所は言えんが、わしらは世界樹の方から来たわけではない」
「そんな!じゃあ!まさかシェーン大森林を丸ごと抜けて来たのか?!」
「悪いが、それ以上は話せん」
「で、でもよ、町の位置が解らなくても、世界樹の方に連れて行ってくれたら良いんだ!」
「お主たち20人近くを連れて、未開の地を歩けと?レジスタンス以外の人も含めると何人になる?」
「ぐ…」
「ならん、ママルもわしも、そんな大勢を守れる類いの強さではない」
ユリの結界術はあまり広範囲には作用しない。
シイズ村全体を囲えていたのは、社にある祭壇の力を使っていたためだ。
「うん、それにそもそも、ここのモンスター共をやっちゃわないといけないからね…」
「…ジョシュよ、一度そのレジスタンスの拠点とやらに連れて行って貰ってよいかの。そこで作戦を練りたい」
「あ、あぁ、解った…」




