21.覚悟
シイズ村を出た直後はある程度道があったが、
そのどれもが石材や木材、植物等の採取地点へ往復するために、
村の者達が植物系の魔法で作った道であるため、
途中からはその道を無視し、歩きやすさを度外視して、一直線に目的地へ進む。
この森は樹木の背が高く葉が多いためか、
地面の草などはあまり大きく成長していない。
そのため地面は土を露出している程度で、歩くのにそこまで苦労する道程ではないが、
やはりその道の起伏は中々に険しいものだ。
「すまん、疲れた、休憩にしとくれ」
ママル自身は疲れを感じていないので、早いなぁとか思ってしまったが、
そこでふと閃いた。
「おんぶしてやろう」
「はぁ?…いや、まぁ、お主がそれでよいなら、それが効率的かもしれんが…」
「おっと?恥ずかしがってるのか?」
「わしよりチビにおんぶされるのは恥ずかしいだろが!」
「ちっ、チビ?!言葉を選べ!ガキめ!!」
「あぁ?!なんつった!!おんどりゃ~~!!!」
ユリがママルの腹にパンチをする。
「効かん!」
「オラオラオラオラ!」
「よわよわ~~!!!」
旅を始め、初日にして何度目かの喧嘩。
それでもママルは楽しさを感じていたが、
ユリがどう思っているのかは少し不安に思ったりもする。
「あっ、てかポーション飲んでみたら疲れも癒されるかも」
「あ~、お主のそのよく解らん巾着に入っとるとかいうやつか」
「ルゥのお父さんが畑仕事中に怪我したって聞いて、あげたらたちまち治ったからね、村長さんのところに結構置いて来たよ」
「売ったら一財産築けそうだの」
「なるほど、金に困ったら検討しよう」
「アルカンダルに行ったら絶対困るぞ」
「そりゃそうか、道中どうやって売るか考えよう」
「うむ」
「てことで、飯にしよう」
「賛成~」
適当な場所を見つけて座り、ルゥから貰った包みを広げた。
「おお、パンに肉と野菜が挟んであるぞ!豪華だ!」
「うまそ~!っと、これが言ってたお守りか。ちゃんと二つある」
(前世の神社とかでめちゃくちゃ見た事があるような形だな)
「幸運のお守りだな、中は絶対開けるでないぞ」
「了解、折角だから、首から下げておこう」
言いながら首から下げる様に着けて、服の内側へ入れた。
「わしも真似しよう」
「これうまっ!」
匂いに釣られてか、数匹のハエが飛んでいる。
ユリがいるので、殺虫剤代わりの【バニシックバラまき作戦】は使えない。
「魔障壁ってあったよね、それで俺の魔法防げるか試したいんだけど」
「もぐもぐ、あ?もし防げなかったら、わし死んじゃうだろうが!」
「さすがに攻撃魔法は使わないよ」
「うむ…まぁ…、試しておいた方がよいか、来い!≪魔障壁:魔法結界≫!」
「≪レティス:沈黙≫」
水晶から薄く青い霧がゆらりと立ち昇り、ユリに向かって動くと、
バリンッ!!!と音を立て魔障壁は破壊された。
「あっ。一応聞くけど、しゃべれる?」
ユリが口をパクパクとさせた後、ぶんぶんと顔を横に振る。
「≪リリース:呪力反転≫≪レティス:沈黙≫」
「あ~~!!あ~~!!めちゃくちゃ焦っただろ!どういう魔法か先に言え!!」
「こい!って言ったからつい」
「はぁ~、なんかちょっと自信無くすわい」
(呪術は魔力消費ではないのに、魔法判定にはなってそうだな)
「ごめん、俺の魔法ほんと不便なんだよなぁ、虫嫌いだから追っ払いたかったんだけど」
「あー、そんな事か、ほれ、≪守静陣:不可侵結界≫」
ユリを中心に半径5m程の半球状の結界が形成された。
「お、これはどういう効果?」
「外からこの結界への生物の侵入を防ぐのだ。ついでに結界形成時に、わしが認めた者以外を外に押し出す」
「おー!めちゃくちゃ良いなコレ!」
「ふふんっ。まぁあまり強度は高くないがな」
「どこでこんなん覚えたの?」
「社に結界術についての書物があってのぅ」
「ん?本読んだら覚えられるの?!」
「適性があればな。それと未成熟なほど覚えやすいのだと思う。
ただ、書物はわしが習得した先から崩れてチリになったわい」
「まじかよ…、全部本から?」
「いや、いくつかはいつの間にか使えるようになってたな、気づけばこれが使えるという確信を得る、あの感覚は不思議なものだ」
「うぅむ…。スキル習得の仕組みちゃんと知りたいな…」
「なぁ?それ食わないなら貰ってよいか?」
「え?いや!食べるから!!」
「ちっ」
「自分の分も食い終わってないのに、食い意地張りすぎだろ…」
「なくなりそうな時が一番、もっと欲しくなるんだよ~」
「へいへい、あ、ポーションどうぞ」
「うむ。…うえっ、変な味っ!」
「体力回復した感覚ある?」
「…………。ある!気がする!」
「そいつは良かった」
「あ、そうだ、お主よ、わしは言っておきたいことがあるのだ」
「え、何…?」
「……アプライとか言う魔法、近ければ流石に魔力波で感じ取れるが、
遠くから使えばそもそもほぼバレない類いの魔法だろ、なのに村の者にはわざわざ聞いてから使っておった」
(魔力波…?)
「ん、まぁ、そうだけど」
(なんか、例えるなら他人のスマホを覗き見るような感覚?
見れるからと言って勝手に見る気には、なんかなれないんだよなぁ)
「お主のそういう配慮はよい事だとは思うが、やめろ」
「え、あぁ…」
「理由は言わなくても解るよな?非効率だ」
「言ってるじゃん」
「言っとらん。じゃあ言うが、それってなんか優しさとか、そういう奴なのかもしれんが、今後お主はモンスターを見つけて殺していくのだぞ?相手が人間でも」
「うっ…」
「いちいち会う人を全員確認していくつもりか?」
「う~~ん……殺すからこそ、確認が…」
「例えば、盗賊はあの団長以外はモンスターではなかったらしいが、あんな奴らどうせモンスターになる、遅かれ早かれな」
「まぁ…、そうかも」
(全員を確認したわけではないけど…、特にあの魔法士なんか怪しいもんだし)
「だから、甘えは捨てて、悪い奴だと思ったら…こ、殺してしまえ」
「……めちゃくちゃ過激発言するなぁ」
「…解り易く言っとるだけだ、それこそ村に来た盗賊のような奴ら、やる以外の手があるか?
皆が攫われそうになった…ジールは死んだ。わしはな、言うまでも無いが、
シイズで長年暮らしてきた。お主からどう見えてるのか解らんが、ちゃんと怒っているのだ。
それに、どうにもお主は、腑抜けておる所があるからの」
「………………」
(俺なりには色々最善を尽くそうとしてたのに、こんな風に思われてたのか…。
いや、違うな、結局必死ではないんだ、なんとかなるだろって。そこを見抜かれてるんだな…。
それに、ちゃんと怒ってる、かぁ、そりゃそうだよなぁ。
俺の方が周りを見れてなかったのかもな…)
「すまん、…ちょっと言いすぎたな。だが間違ったことを言ったつもりはないでな。もうやるしかないという段階まで来とる、と言うのは知っておるはずだで」
「…いや、そうだね、実際俺には覚悟が足りてないんだと思うよ」
「何も躊躇いなく人殺しを出来るようになれとは言わんが、その覚悟は決めておいてくれ」
「…うん。…わかった」




