20.ママルとユリ
「さて、これからどうするのだ?」
「え?アルカンダルに行くって話したでしょ」
「それはそうだが、そこまで直進するんか?世界樹を見ようとしてたとか言っとったが、そこに一旦寄るとなると、アルカンダルまでの距離は1.5倍くらいになりそうでの」
「あ~、そうか、どうしよっかなぁ」
「考えてなかったんかい!言うまでもないが、世界樹もアルカンダルもわしゃ全然知らんでな」
「う~ん、じゃあ一回、世界樹寄っとく?」
「それをわしがお主に聞いとんだ。あくまでこの旅の主導はお主だろが」
「う……ユリちゃんはどっちがいいとかある?」
「まぁ、どっちでもよい、村の外の事は、人づてに聞いた話でしか知らん、
つまり全然知らんが。全部を知れるとも思ってないからのぅ」
「ほう、賢い」
「うざ…、世界樹なら北上、アルカンダルなら北西の方角、解っとるんか?」
「流石にそのくらいはね。え~っと、じゃあ、まぁ、アルカンダル行くかぁ」
「了解。一応聞くが、理由は?」
「まぁ、世界樹つったって、木だし」
「はっはっは、確かに」
「あと、これまでの感覚から、結局一番警戒するべきは人な気がするんだよね」
「何故だ?」
「モンスターがいたとして、まぁ目についた奴を殺すとか苦しめるとか、
そういうのが殆どになると思うんだけど」
「ふむ」
「もしそこに理性が働くんだとしたら、より悪意を伝播させられるのって、人じゃないかなぁって」
「あの盗賊の団長の件を聞くに、理性があるようには思えんかったがのぅ」
「まぁ、そうなんだけどさ、変異した直後って、やっぱ心と体がうまく馴染まないんじゃないかなって」
「お主自身の経験か?」
「いや、俺は全然そんな経験無いけど」
「はぁ?……いや、まぁ、言わんとすることは解らんでもないがなぁ…」
「まぁ、全部解んないからさ、勘で動くしかないってワケ」
「それはその通りだな」
軽快に話していたと思ったが、気づけば会話は止まり、黙々と歩き続けていた。
(なんか、いや、良いんだけど、なんか、話さないといけない気がしちゃうっ)
「お主よ…」
「な、何?!」
「もうルゥに会いたくなったんか?」
「えっ?!いや、まぁ、寂しさは当然あるけど」
「元は男だったのだろ?」
「?…まぁ、そうだけど、それあんま言わないでよ」
「……好きだった?」
「…………はぁ!!!!!?」
「あっはっはっは!!めちゃくちゃ動揺しとる!!はっはっは!!」
「おい…!」
「くっく…すまんの、なんかお主が気まずそうにしとったからな」
「…………」
「怒った?」
「……いや、ありがとね」
「お、おう」
「ってか、そうだよなぁ…、…そうかもなぁ………」
「…何が?」
「自分事で考えてみ?急に性別が変わった、ってさ。自分でもよく解んねぇよ…」
「あぁ~…」
「…はぁ~あ……………」
「……神様の話、覚えてるかの?」
「え?まぁ」
「精神が肉体を作る。そう考えると、同性でも子を成すことはできそうな気がするがの」
「え゛っ!!!!!!!」
「物理的な情報よりも優先されるものがある。まぁちょっと思っただけなのだが」
「え、あ…、ま…、そ…、そうね…、なるほどね…」
「あっはっはっはっは!動揺しすぎ!!」
「は?!お前、マジで!!!」
「はっはっはっはっは!すまん!っはっはっは、でも別に適当を言ったつもりはないからの!っはっはっは!」
「そ、そうか…………」
「………お主、わしを襲ったりせんだろな?」
「……いい加減ぶん殴るぞ」
「きゃー!怖~~い!!!」
わちゃわちゃと騒いでいたからか、木々の奥から巨大な蜘蛛が姿を現し、
尻の先端からユリに向かって糸を吐き出した。
「≪理障壁:物理結界≫!!!」
糸とユリの間に光の壁が現れ蜘蛛の攻撃を防ぐ。
「あ、あっぶな!!」
「≪パラライズ:金縛り≫!≪バニシック:燃焼≫!!」
虫系モンスターは≪エイジール:老化≫の効果が見て取れないため、この手に限る。
あれ?…、蜘蛛は8本足で昆虫ではないから、虫とはまた別なんだっけ、
まぁ、どうでもいいか。
「ふぅ、流石に焦ったな」
「お、おう…………。お主の魔法、気持ち悪いな」
「おい」
「いや、すまん。助かった」
「ユリちゃんの魔法は良いな、カッコよくて」
「そこはどうでも良くないか?」
「どうでも良くなかったから、気持ち悪かったんでしょ」
「あ、いやスマンて」
「ははっ、いやでも実際、あの反応速度と魔法は結構驚いたし、安心だな」
「んだろ?わしゃ天才かもしれん」
「まじ天才」
「いくらでも褒め称えよ」
「天才凄いかわいい生意気口が悪い」
「こいつ!!」
言いながら、ユリが魔法を発動するときのように掌をこちらに向けてくる。
あくまでポーズとは解ってはいるが、少し興味が湧いた。
「攻撃魔法って使えるの?」
「?…アプライとか言う魔法で見たのだろ?≪魔弾≫が唯一の攻撃魔法だ」
「スキル名は解っても効果は解らないんだよ…。魔弾、ちょっと俺に撃ってみて」
「はぁ?」
「まぁまぁ、どうせ効かないから」
「む…前に聞いたレベル差と言うやつか…。良いだろう、
その身で受けよ!≪魔弾≫!」
当然、ユリとしては結構手加減して魔法を発動すると、
ユリの掌の前に魔法陣の様な物が形成され、
そこから黒と紫が入り混じったような魔力の塊が、
弾丸のように回転しながら飛び出しママルの左腕に直撃した。
「あだっ!」
「だ、大丈夫か?」
「うん、全然平気、ついあだっ!って言っちゃったけど、全然痛くない」
「それはそれで癪だな…」
「やっぱ魔法の見た目がカッコいいなぁ…」
「そこはどうでも良くないか?」




