2.出来る事
現状を整理しようと脳を動かす。
(これは所謂、異世界転生?的な?
ゲームキャラになっちゃうパターンのやつか…。
いや、パターンのやつか、じゃないんだよ。
え?なんか説明してくれるキャラはいないの?
神様的なやつとか、ゲームマスター的なやつとか!
こんな状況になってもまだソロプレイってマジ?)
またもや、ぶり返したように混乱しつつも、一つ思いついたことがあった。
自分がこの姿ならば、ゲーム内の魔法が使えるはず。
腰にぶら下げている、呪術師の武器である水晶を手に取ると、
ふわりと浮き上がり、直接触れてもないのに、意のままに動くことを実感する。
(おぉ…すごい…いや、でもどうやって…マウスでクリックとか出来無いしな…)
「やっぱ口で言うしかないか」
呪術師、というか、マジックキャスターにとっての通常攻撃にあたる最弱魔法を、
なんだか少し恥ずかしい気持ちに気付かないフリをしながら唱えてみる。
「≪マジックスフィア:魔力球≫!」
何も起こらない。
(えぇ…嘘だろ…)
「ほかに何か方法、あるかな…、えっとゲームでは………」
もう一度水晶を構え、今度は狙いを定めてみる。
そう、ゲームでは基本的にターゲッティングしないとスキルは使えないのだ。
(とりあえず目の前の木を、練習用の木人だとでも思って…)
「≪マジックスフィア:魔力球≫!!!!」
水晶からスイカくらいの大きさの球体が飛び出し、正面の巨木に直撃。
巨木は円柱状にぽっかりと穴を空けたが、その奥の木は無傷だ。
(…出来た…でも威力高すぎ…、しかし後ろが無傷とは、貫通効果はないのか)
その後数度試して解ったのは、ゲームと同じ仕様という事。
目視して狙った場所に飛ぶ、基本的に1ヒットで消滅する。
射線上の別の物に当たった場合はそれにヒットして、狙った場所までは届かない。
(なら、他の魔法は。全部使えるのならかなり…いや、微妙か…)
色々自分のスペックについて思考を巡らせるが、大したことは浮かばなかった。
呪術師の特性上殆どは、言ってしまえば相手を苦しめるためのもの、
それ以外となると、そのデバフを解除するものはあるが。
飛んだり、消えたり、操ったりという、実社会でズルい事が出来そうなものは持っていなかった。
(あ、あのベーススキルは使えるかな…、試してみるか)
正直、グロいから見ないようにしていた、先ほどのモンスターの死体に目を向ける。
「≪アプライ:鑑定≫」
このスキルは、秘匿されていない情報を読み取ることが出来る、
全てのクラスが使えるスキルで、全プレイヤーがお世話になる魔法だ。
魔法名を唱えると、様々な情報が記憶として脳内に流れ込み、
一瞬でこの虎のような生き物についての詳しい情報を知ることが出来た。
●モンスター:バウタイガー Lv32 スキル:爪 牙 連撃 疾走 恐怖の瞳 バーサーク
森に住み木登りが得意、川を泳ぐこともできる 縄張りは持たず常に餌を求めて森を徘徊する
モンスター化している
弱点:炎、氷、雷
(死体にも効いた…。アドルミアでは倒したモンスターは霧散して消えるから、
そもそも死体が残り続けてるのも。どうにも嫌な感じだが、これはこれで助かるのかもしれない。
Lv32か…、俺が250だから、ワンパンで倒せたって事か、
しかし、こんなモンスターを見た事がない、そもそもどう見ても虎だし。
体の模様とかは、俺の知ってる虎とはなんか違うけど……。
どこまでがゲーム内と同じなのかが解らないな…。
モンスター化しているって文言が気になる、元の動物が変異したみたいな事なのか?
普通の生き物が何らかの要因によってモンスターになっている、とすると、元に戻すことも出来るのだろうか。
そう考えると、この死体に少し申し訳ない気がしてきた…。
いや、向こうから不意打ちで噛みついて来たのだ、
そんなもの、草食動物だって反撃する、当たり前の事だ。
俺は悪くない、よな…。
待て、そんな事考えてる場合じゃない)
とにもかくにも、状況整理だ。
異世界転生という、自分の知る言葉に縋ってはいるが、正直ほとんどが解らない。
そもそも元の世界に帰る手段はあるのか?
(いやその前に、急にここに来たのなら、急に戻ることもあるのか?
元の世界の俺の体はどうなってるんだ?
あっちはあっちで普通に生きてたりして…?)
まぁ、言うほど帰りたいとは思っていないが、
だからと言って今この状況で、この世界に居続けたいとも思わない。
(そう、この状況だよ、何だよコレ、未知の真っ暗な森の中、首無しの獣の死体の横に突っ立ってる。
攻撃魔法が使えるから何だってんだ。
別に俺に加害欲とか無いぞ、多分、おそらく…。
はぁ、何か笑えて来たかも、いや、実際には全然笑えないけど)
…何が解らないかも解らない。
だが、一つずつ、その解らない事を見つけ、答えを探していくしかないだろう。
「とりあえず………どうしよっかな」