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196.不快

ママルは翌朝、嘘のように胸の内がスッキリしていた。

だがその事を含め、なんとも言えない羞恥心が渦巻いている。


そして結局、このままクラストについて行くと言う事になった。

この機会を逃せば、皇帝などと言う人物と話す機会は二度と訪れないと思ったためだ。


何よりやはりモンスター化していたとしたら、見逃せない。



で、それはそれとして、ママルは変わらず、

クラストに対して不快感を覚えている。

その不快感が何なのかを、改めて考えてみる。


(なんだろうな…。全然悪い人じゃないのは解ってるのに。

弱きを助け、悪しきを挫くって…。そんな事が出来るならどれ程簡単か。

少なくとも、悪は挫けない。悪は反省出来ないから悪。モンスターなんだ…。

悪行を悪いと思える心があるなら、特別な事情が無い限り、最初からしないだろ…)



暫くして…………。

遠方に見える村から煙が立ち上っているのが見えた。

当然その程度なら珍しくもないのだが、よくよく見ると火の手が上がっていた。

その事に素早く気づいたのは、テフラとクラストだ。


「火事ですかね?行きましょう」

「先行します!!ロジャーソン!」


クラストはそう言いながら、脚で馬の腹部を圧迫する。

するとロジャーソンは嘶き、加速スキルを発動した。


あの2人が行ったならと、

ママルとメイリーは小走り程度の速度でその背を追う。



数分して辿り着くとそこには、村人たちと何かを話しているクラスト。

そこから少し離れてテフラ。その前には倒れている人達が10名程度いた。

燃えていた家も既に鎮火済みの様だ。


「あ、ママルさん、この人達、盗賊らしいです」

「は…。ど、どんな国でも、こういうどうしようもないのがいるもんですね…」

「ですね…。それで、私とクラストさんで全員気絶させて、捕らえたんですが…」

「……………気絶か…」

「そうしてくれと頼まれたので…」



クラストと村人は、盗賊達を後ろ手に縛りつけている。


「ふぅ…、それでは、私達はこれからパレルーアの街に行きますので、

そこからこちらへ囚人馬車を派遣します、それまでは近くの納屋にでも拘束しておいて下さい」


村人にそう指示を出すと、村の男達が総出で盗賊を順に引き摺りながら、

納屋の方へと移動して行った。


クラストは改めてママルの方へと寄る。


「失礼致しました。エンパルでこの様な、無様な物をお見せする事になってしまい…」

「いや、てか、あんなもんで良いのか…?」

「…すみません。どういった意味でございましょうか?」

「いや、殺した方が良いだろ」

「!!………いえ、十分でございます。奴らは牢へと移送されますので」


ママルは改めて周囲を見回す。

家屋の扉は破壊されており、

既に襲われ、命を落としている村人の姿が映る。


「………モンスター……って解るか?」



ママルはクラストに、モンスター化についての説明をした。



「そんな……事が…。人間が…………………、失礼ですが、信じられません」

「……まぁ、気持ちはわかるけど、事実だよ。ついでに言っておくと、

俺が会った、お前ら兵士達の多くは既にモンスター化していた」

「!!!…………あ、ありえません」

「……本当に、そう思うか?……あいつらを近くで見て来たんだろ?攻撃する時、喜んでなかったか?…何かと攻撃的な口調、態度をとっていなかったか?」

「………くっ………」

「…モンスターの…攻撃欲は止まらない。俺達が、腹が減ったら飯を食べる様に。

奴らは必ず攻撃を繰り返す」



正にその時、納屋から叫び声が聞こえた。


すぐに中から2人が姿を現す。

盗賊が村人の1人を羽交い絞めにし、その喉にはナイフが当てられている。

当然武器の類は全て外したハズだったが、どこかに隠していたのだろう。


順次盗賊を中へ運んでいた村人達が、納屋内で1人になるタイミングを見計らってこの盗賊は動いたのだ。

盗賊は自身に残っているダメージと興奮で、息を荒くしている。


「ふぅっ!ふぅ!はぁっ!!はぁっ!」



周囲の村人たちは後ずさる様に距離を離して行った。

そのまま盗賊はクラストに向かって声を飛ばす。


「おい!おい!!!」

「きっ!貴様…………」

「う、馬をよこせ…、そして見逃せ!!言うとおりにしないと、こいつの命はない!」

「どうやって抜け出した……」

「縄抜けのスキルがあんだよ!ざまあねぇな!だがお前ら!!誰か1人でも!気力波を感じた瞬間に殺す!!解ってるな!!妙な考え起こすんじゃねぇぞ!!!」

「………………………」


ママルは、アカーラならば即座に拘束出来るだろうと思い水晶を構えようとした。

だが攻撃行動に移りそうなママルに向かって、クラストは静止する様にと左の掌を向ける。


そしてクラストは自らの愛馬の元へ行くと、

盗賊を睨みつけたまま馬の尻を数回軽く叩き、

そのまま押し出す様にして前に行くよう指示をした。


ゆっくりとロジャーソンが盗賊に近づいていく。


すると盗賊は、目についた村人の男に向かって叫んだ。

「お前!!乗れ!!」

「は?いや…」

「お前が次の人質だ!!早くしろ!こいつがどうなっても良いのか!!」


困惑した男は、助けを求める様にクラストを見ると、

クラストはゆっくりと頷く。



男は怯えながらロジャーソンに跨る。


その瞬間、盗賊は捕えていた男の喉を切り裂いた。

そして飛び上がると、ロジャーソンの上、男の後ろへと乗り移る…。


筈だったのだが、それをロジャーソンは躱した。

同時にクラストはスキルを発動すると。

突風に背を押される様にして急加速する。

「≪テールウィンド:追突風≫」



盗賊は不意に、乗る筈だった場所が無くなり地面に転がった。

そして起き上がる隙すら与えないほど一瞬で間合いを詰めたクラストは、

鞘を付けたままの剣で盗賊の腹部を強く殴打する。


「ぐっ………う……」


続けて喉を切られた男に近寄る。

「≪キュアリー:治療≫!」


喉の傷は塞がり、やがて口から喉に残っていた血を吐き出した。

気を失っている様だが、命に別状は無さそうだ。



「大丈夫な様ですね…良かった……」

そう独り言を漏らすクラストの元にママルは歩み寄る。


「手際良いな…。何よりロジャーソンが凄い……。でも駄目だろ」

「な、何が…ですか」

「なんでトドメを刺さない」

「…………………」

「………本当に良いんだな?」

「な、何を仰りたいのですか…?」

「縄抜けのスキルがあると言ってただろ。どうやって拘束するつもりだ?」

「…………きちんと、口を塞ぎます」

「俺の知り合いに、無詠唱でスキルを使える人がいるが…あいつもそうかもな?」

「………………………」

「今回はたまたま上手く行ったかも知れないけど、

少なくともあんたが居ないとこで、もしまた抜けだしたら、人が死ぬぞ」

「そ、それは…そういう可能性は、あるかもしれません…が……」

「……………………………………気持ち良いか?人を生かすのが」

「な…………何を…………」

「今こいつを殺さないのはな、あんたが気持ち良くなりたいからだろ。

もしくは、殺して気持ち悪くなりたくないからだ」

「そ!そんな!私の快、不快で人の生死を決めている覚えはありません!!!」


「…何もこいつに限った話じゃない。

こいつら盗賊を、今たまたま止められたから、一件落着だって思ってんのか?

止めなかったらどうなってたと思う。想像してみろよ。

戦いも知らない一般人が何人死んでた事か、少しは考えてみろ」

「…………………」

「そういう行いをする奴を、生かす。それが通る理屈があるなら教えてくれ」

「わ、私は、…秩序を持って、人々を…、人は!法の元!許す心、改心を願う心!

そう言った物を信じてこそ我々は!」

「チッ…、もういい…、結局かっこつけって事ね。しょうもない…」

「これは…!矜持だ!!私のプライドが!」

「≪ジャッジ:業秤≫≪インフェルノ:煉獄焦熱≫」


ママルは蹲る盗賊へ向かってスキルを唱えた。

盗賊の肉体は激しく燃え上がる。


「きっ!貴様!!」

「うるせぇ!!だからかっこつけんな。てか、矜持だ?そんな事のために、人の命を危険に晒してんのか?」

「ッ!!!しかし!私刑がまかり通る様な世の中であってはならない!」

「でも最初から殺してれば、この人も喉を切られる事も無かっただろ」

「…それはっ……」

「こいつらはただのモンスターだ。自らの意志で、自らの欲のために人を攻撃する。そんな物を生かすな。同情するな。不幸をまき散らす種を見つけたら、消すしかないだろ」

「き、極論が過ぎると言っているのです!」

「……大切な人がいるか?家族や、友人、恋人がいるんじゃないか?」

「…………なぜ、そんな事を」

「その人達が、考え得る限りの酷い目にあわされても、相手の改心を願うのか?

あえて、正に極論を話してる…。でも絶対にあり得ないと思うか?……想像してみろよ。……ふざけてんじゃねぇぞ。どこまでも他人事…。

あんたがやってるのはな、全部自分本位の理屈なんだよ。

人を思いやっている様でいて、実際は自分がどうしたいかしか無い。

俺の言ってる理屈が解るか?言いたい事が解るか?

解った上で、それでも言いたい事があるなら聞いてやる」

「……………………」

「…クラストさん。あんたは強いし、何より優しいよ。信じられないくらいにな。

だからこそ、やりたくない事でもやるんだ。守るべき者と、そうでない者に線を引かないと…。もし人を手にかけることが出来ないってんなら、俺達でも、村人達にでも頼めよな…」



クラストは、ただその歯を強く食いしばっていた。

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