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195.恥

夕刻。村人達から怪訝な目を向けられながらも、

クラストが身分を明かすと、滞りなく宿をとる事が出来た。


当然、3人とクラストは別の部屋となっている。

ママル達はベッドへ腰かけると、メイリーが心配そうな表情で言葉を発した。


「あの……、クラスト。さん。とは、仲良くなっちゃダメなのかしら…」

「……いや、駄目ってか…、まだ状況によっては敵対する可能性がある。

当人にはその意志が無くてもね…。仕方なく戦うって事になった時、…仲良くなってると辛いよ?」

「……そうなのね…………嫌だわ…」

「結局、兵士は兵士でしかない…、だからこそ、皇帝と話せるって言うこの機会。

うまいこと活用出来たら良いんだけど…」


「もしもアルタビエレからの話を聞けていたのなら、と言う前提ですが…、

ママルさんの懐柔が目的じゃないですかね?」

「やっぱそう思います?」

「アルタビエレを知っていたのなら、あいつの強さもある程度知っていたと考えられるし、その後倒されていたと知ったのなら、程度の考えですが…」

「ですよね。そしてもう一つは、俺をハメようとしてる。かな」

「…罠を張っているかもって事ですよね」

「そうです、弱点まで知られてる可能性がありますし」

「………今更ですが、危険じゃないですか?」

「いや俺は大丈夫でなので、2人が気を付けて…」


「…………ママルさん。やっぱり中央に引き返しましょう」

「え?」

「ちょっと平常じゃない様に見えます。勿論、あんな戦闘を繰り返した後ですから仕方ないとも思いますが…」

「……俺そんなにおかしい事言いました?」

「なんとなく、自暴自棄になってる様な…」

「……………………………………………………。

なるほど…そうか………………。

………そうかも……………………………。

自分が何とかしないとって、出来る癖にやらないって…。

いっそ…、ちゃんと苦しい思いが出来れば…とか。

何かを成し遂げないと…、責任があるんだって…。

神様から力を貰った事も、人を何人も殺してる事も。

…結果を出さないといけない。そうじゃなきゃ、意味がないんだ。

そうじゃなきゃ、ただのどうしようもない奴で終わっちゃう。

俺が、俺が……」


ママルは次第に声を落とし、小さく何かを呟き始めた。

その姿を見た2人は焦り、テフラがママルの肩を掴み揺さぶる。


「ママルさん?!」

「あ、あぁ、すみません…大丈夫です」

「本当に大丈夫ですか?精神が不安定になってるんですかね……?」



テフラは自分が発した言葉にゾワリとした。

この世界の仕組み、精神が肉体をも変えると言う事を知っている上で、

精神が不安定になるとは。一体どのような事態が起こってしまうのか。


「か、かなりマズいんじゃ…」

「やっぱり中央に帰りましょう?!心配だもの!ユリちゃんとも相談しないと!」


「いや、帰らない」

「ママルさん!」

「テフラさんが考えた事、多分あってます、

精神が不安定になってるからこそ、俺の脳までやられちまってるだけ…。

そしてその原因は明白です。この戦争に、俺が終止符を打つ。決着をつける。

それが出来れば、多分こんなにイライラしたり、フワつく事もなくなる…」

「………本当ですか?」

「そんな気がするんです」


テフラはまたママルの肩を正面から掴んだ。


「私の目を見て下さい」


ママルは元々、人と目線を合わせる事は苦手だ。

当然状況によっては人の目を見て話すが、

数秒も合うとつい目を逸らしてしまう。


「本当に、大丈夫なんですか?」

「………本当かは解らないですよ。この先どうなるかなんて…」

「今のママルさんの状態の話です」

「……………………」

「明らかに不調ですよね?……先日のママルさんの話を改めて思い返していました。自分がやりたくないと言ってる間に、私達にやらせるのも嫌だって」

「………はい」

「おかしいですよ。別にママルさん、何もしてない訳じゃないですよね」

「……まぁ」

「実は、ただの得手不得手の話なんじゃないですか?役割分担で良いじゃないですか」

「戦えるのに戦わない、殺せるのに殺さない。本当にそれで良いって、思いますか」

「思います。というか、今の言葉ユリさんの前で言えるんですか」

「な、なんでっ…」

「ユリさんは多分、自分の意志で人を殺した事ないじゃないですか。

でもきっと、やろうと思えば出来るんですよ。強いですから。

それでもやらないのは、やろうと思えないからです。

そう言う人だから…。知ってますよね。そのくらい」

「………はい」

「それを情けないと、サボってる人だと思った事も無いですよね?」

「……………はい」


「わかったわ!だからなのよ!やっぱりユリちゃんがいなかったから!」

「…どうしてそうなるの…」

「きっとユリちゃんがいたら安心できたのよ。人を殺せないユリちゃんが隣に居る事で、なんて言うのかしら…、こう、真っすぐになって…」

「真っすぐって……ん?……バランスが保てた、みたいな事?」

「そう!…だって、皆が出来てる事が出来ないと、不安になるもの。私とテフラちゃんが出来てて、その中で自分だけ出来ないと不安になっちゃうのよ…?」

「………あぁ、………まぁ、そう言うのも、あるかもしれないけど……」


テフラは思考を巡らせながら話す。

「バランス……なるほど。メイリーさん良い事言いますね」

「やった!」

「言葉にすると単純な事ですけど、実際結構核心な気がします」


「だ。だとしたら俺、めちゃくちゃ情けない奴じゃないですか?」

「そんな事ないですよ…。そうですね…じゃあ改めて言葉にしておきますが、

私はママルさんを信頼しています。もしもその力を失ってしまったとしても、

私はママルさんの味方でいます。ずっと」

「っ!!…な、なんで………」

「つまりその信頼と、ママルさんの今の強さは関係ないという話です。

…勿論、その信頼を築くに至った過程には関係あるんだとは思いますが、

今はもう、ママルさんの人柄に対して信頼がある。

ですので、既に強さとかは関係ないんです」


「私も!別に弱くなったって嫌いにならないわよ!絶対!」

「……俺が、強さ以外でそんな信頼して貰えるって、なんで…。

こんな、こんな面倒で。存在そのものが意味解らない奴…」

「そんな風に言っちゃダメよ…?あのね、自分で自分を責めていると、どんどん閉じ籠って行っちゃうの。だって、その攻撃はずっと終わらなくなるから。怖くなって、縮こまるしかなくなって行っちゃうのよ?」

「…………………」


「あえてここも言いますが、何に対しても、きちんと考える所。

様々な物に、線を引いて見極めようとする所。それが信頼に値しているんです。

ですからママルさんの判断を、間違っていると思った事はないんです。

本当は、ママルさんがすべきだと思ったのなら、このまま帝都にも行くべきだと思ってます。ですが、その考えがいつもの冷静な判断の元に下されたのかと心配で」

「…………………」

「そして最後にもう1つ言うのなら。ママルさんは私達を信頼できますか?」



(………そうか。そうだったんだ。確かに、神様の願い。そこへの責任感はある。

…それに、人を、閻魔王スキルでしか殺すことが出来ない。

それは間違いない。確かな俺の心だ。それは嘘じゃない……。

でも、実の所は…。それよりも…。

ただ単純に、仲間にガッカリされたくない。ただ、それだけだったのかもしれない…。だって今、凄く心が軽くなった気がする……。強さとは無関係に、信頼してもらって、ずっと、味方でいると言って貰えて…。メイリーさんだって、きっとテフラさんと同じように思ってくれていると、解ってしまって)



ママルは勢いよくベッドに潜り込んだ。

布団の中から、モゴモゴと声が聞こえる。


「自分が、情けない…」

「ママルちゃん」

「いや、は、恥ずかしくて………」


(なんか、なんだこれ。絶対そうじゃん!なのになんかカッコつけてたって事か?!無意識に、別の原因とすり替えるみたいにしてた……?しかも、しかも今の話の流れで考えると、結局俺だけが仲間を信頼しきれてなかったって話…。2人を、信頼しきれてなかったって?こんなに、俺の事を考えてくれてるのに!ガッカリされちゃうかも~って、期待外れだと思われちゃうかも~ってか!ば、馬鹿すぎる!あまりにも愚か!くそっ!!てか、もう、もういいだろ!気づいてしまった、…………もう、ぶっちゃけるしかない!!)


ママルは布団で丸まったまま叫んだ。


「し、信じます!皆を!敵を大勢相手にするのは、2人に任せます~~!

今の俺は、なんか出来ないんです~~!だから、俺がへっぽこになっても嫌いにならないで下さい~~ッ!!」


「!!…………ぷっ……ふふ……あっはっはっは!!」

「うふふ、ママルちゃん今日は一緒に寝ましょう!」


メイリーがママルの布団の中に潜り込もうとするが、

ママルは必死に抵抗する。


「ま、待って!待って!一旦!顔見れないから!」

「どうして?…………あっ!私のおっぱい触ってもいいわよ?」

「は、はあッ?!!!な!何を!!」

「前、エイヴィルと戦った後抱っこして帰ってた時ね、ボーっとしながら触ってて、なんだか嬉しそうだったから…、そうしたいのだと思っていたのだけれど…。自分から言うの恥ずかしいものね?」

「!!!ま!!待って~~!!し、死ぬ!!!恥ずか死ぬ!!!!」

「ママルちゃん!死なないで!生きて!!」

(し……しぬ!!!)



「一件落着。で、いいんですよね……?」

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