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19.一か月

1か月間、ぐうたらとしているわけにもいかないので、

この村(シイズという名らしい)の周囲のモンスターを狩ったり、

村人にアプライで情報を見させて貰ったり(勝手に見るのはなんだか気が引けた)

スキルを実演して見せて貰ったり、力仕事等を手伝ったりしていた。


あくまで仮説だが、ここでスキルというのは体系化されていないのかもしれない。

村人は仕事や生活に使えるスキルを数個持っていたが、基本的にバラバラで、

逆にハンさんが父親のソウさんから教えて貰ったとか言っていたスキルは、二人とも同じ名称だった。


村の名前が解ったので、ベーススキルである≪ファストラ:空間転移≫で村の外からの転移を試してみたが不発だった。

アドルミアでは確か、龍脈に沿って自身のアストラルを移動させるだのなんだのって設定があった気がするので、

その仕組みが使えないのかもしれない。


ちなみにこの村の結界と言うのは、隠蔽と人除け、獣除けの効果があるらしいが、

俺は多分レベル差により、盗賊は看破のスキルあたりによって発見できたんじゃないかと思う。


それと、俺の呪術は魔力を消費していないようだ。

燃費の悪い呪術を連発してみたが、ベーススキルを連発したときのような倦怠感は襲ってこなかった。


加えて力の使い方も結構解って来た。

前世の体で言うところの、思いっきり力んだ状態から、さらに数段階力めると言った感じで、

100%から上の力を使う経験が当然無かったため、慣れていなかったのだろう。

これは数をこなして慣らしていくしかない。




一方ユリ達はと言うと、ユリの提案は村人に受け入れられて、

毎日リンに修行をつけていて、ルゥもよく様子を見に行っているみたいだった。


ついでにあの社はなんだか良く解らないらしい。

元々ここにシイズ村はあって、ある日散歩していた村長が「樹の中から赤子の泣き声が聞こえる」

とかなんとか言って社が発見されたと聞いた。結界が出来たのはその後の事だ。

そのためユリは村長のリッツを母のように思っているらしいが、

自分が一体何者なのかは自身も良く解っておらず、

神様に聞いてみた時は、社を差し、このような建物は随分昔に見た事がある。

それと神降ろしが出来る巫女という存在はかなり珍しい。

という程度の情報しか得られなかったと聞いた。

旅に出たいと言い出したのも、ずっと自分が何者なのかを知りたかったというのが主な理由らしい。




正直、俺はただ流されるままだ。

世界を救うみたいなお願いを、よりにもよって神様からされちゃったと来たら、

やらなきゃなって。

それに1人で旅するより、ユリちゃんみたいな子が一緒に居てくれた方が嬉しい。

ただそれだけ。


この世界に来てから、なんて言うか、ずっとふわふわしている様な、

自分自身の事を、真に自分事として捉えられてない様な…そんな感覚で生きている。

行った事のない県で起きた殺人事件を、他国で起きてる戦争を、ネットニュースで見る様な。

RPGを遊んでいるときの様な、そんな感覚だ。

でもその理由は解っている。


モンスターが現れても無傷で勝てる。衣食に心配することはない。

あまりにも非現実的な今の状況を、未だに自分自身の芯から受け止められていない弱さからだ。


思い返してみれば、前世の時からそうだ。

なんとかなるだろって、無根拠に思ってしまっている。

それどころか、なんとかならなくて死んでしまっても別にどうでもいい。

でも苦しむのだけは嫌だ。

そうやって、何かをやりつつ、何もしていないような日々を過ごした。あの感覚だ。


今ならせめて、肉体労働をしたときに疲れでも感じられたなら、もう少し違ったのかもしれない。



――そうして1か月が経ち、旅立ちの時が来た


「リン、昨日も言ったが、お主なら立派にこの村を守れる、

だがまだ幼いでな、ちゃんと周りにも頼るんだぞ」

「うぅ~~~……」

「リン。ちゃんと見送るって約束したでしょ」

「おねーちゃん…うん。わかった!ユリちゃん!じゃなかった、師匠!あたし頑張るね!」

「うむ!さすが我が弟子!」

「ユリちゃん、ママルさん、これ」

ルゥが包みを差しだして来る。


「これは?」

「お弁当!それとお守り!」

「あ、ありがとう!」

「いつか…いつか帰ってきてね」

「うん。もちろん。ここは俺にとって、なんて言うか、もう実家みたいなものだからね!絶対帰るよ」

「実家…。ふふっ、良いねそれ!」

「わしにとっては正にそのものだがの」

「ユリちゃん…」

「リッツ、いや、村長、それに皆。今まで本当にありがとう」

ユリは深々と頭を下げる。


「ほっほ!こりゃ珍しい!ユリがしおらしくなっとるなんて」

「あんだと!」

「…達者での」

「しおらしいのはどっちだ!案外早く戻るかもしれんぞ?」

「そしたら笑ってやるわい、いつでも帰ってくるんじゃぞ」

「おう!じゃあの!」

そう言ってユリは背を向け歩き出す。


「皆さん、短い間でしたが、ホントお世話になりました!本当にありがとうございました!」

ママルも深々とお辞儀をして、ユリの背を追う。


背後から、村人たちの声が聞こえてくる。

「ありがとな~!」「達者でな~!」「風邪ひくなよ~!」

そんな中、一際大きなルゥの声が響いた。


「頑張れ~~~~~!!!!!!!!」


ママルは振り向かず、天を見上げて叫ぶ。

「ありがと~~~~!!!!!!!!」

ユリも振り向かずに、右手をひらひらと振っていた。

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