表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/178

18.ママルとルゥ

ユリの元から引き上げ仮屋への帰路に就くと、無言の時間が続いていたが、

その静寂を破ったのはルゥだ。


「ママルさん、今からお風呂に行きましょう」

「あ、あるんですか!風呂!もうずっと入りたかったんですよ!」

「ふむ、それでは私は先に帰らせて頂きます。

ママルさん、今日はありがとうございました」

「?いえいえ、道案内ありがとうございました」

(ハンさんは風呂嫌いなのか?)


「私の着替えは…、まぁいっか、帰ってからで」

「いやぁ、楽しみだな」


少し道を反れると、浄化場で見たような太い樹の家が目に入る。

「ここですよ」

扉を開けると、右手は物を置く用の台座、隣がおそらく洗い場、

あとは樹木で出来た浴槽があるだけだった。

(植物系の魔法で作ってあるんだろうか…

それに湯が沸き出てる。天然の温泉かな)



「あっ!!」

(個室のバスタブとかじゃない!男女別の湯とかもないのか!

ってかあったとしても、どっちに行くのも変じゃん!

当り前だ!アホか俺は!!)

「どうしました?」

「あっ、その、ちょっと」

(どどどど、どうしよう、いや、でも…、いやぁ…)



永遠とも思える一瞬の葛藤の末、良心が勝った。



「すみません!その、俺は前の世界では男だったんですよ、

なので、ルゥさんが上がるの待ってから入りますね!」

「あ~、やっぱり、さっきの神託を聞いていて、なんとなくそんな気がしてました」

「と、いう訳なので!」

「別にいいのに、今は女なんでしょ?変に気にする方が変って言うか…

今のだって、言ったって変にややこしくなるだけなのに、ほんとママルさんって…」

「えっ、でも、その」

「いいからいいから、その尻尾洗いたかったんですよ~、ほらほら」


半ば押し切られるように混浴、ではない、入浴する事になった。

(ま、まぁ、アレが無いなら、セーフか。色んな意味で……)



装備を全部外そうというとき、その手が止まる。

アイテム袋は、装備ごとにデザインは違う物の、腰装備部分に必ずくっついているのだが、

これを外した場合どうなってしまうのか。

外した装備は瞬時に消えて、アイテム袋の中に入る。

ではアイテム袋を外した場合は?

今までベルトを緩めた事はあるものの、完全に外した事はない。

(全裸になろうとしただけで、所持品全ロスの危機…いや、でも、試さない訳にもいかないよな…)



ママルに緊張が走る。



左手でアイテム袋の感触を確かめながら、慎重に、ゆっくりとスカートからベルトを引き抜いていくと、

ベルトからアイテム袋が外れ、左手の中に落ちた。

即座に両手で包み込むように持ちながら、目の前にして眺める。

「セ…セーフ…」

(アイテム袋だけは、実体が残り続ける。覚えておこう)



全裸になって改めて思ったが、そもそもママルは自分の裸体すら初見だった。

もっとも鏡などは無いので、あくまで自分の視界での話だが。

(まぁ、とは言え何と言うか、こんなもんか…

ってか今更だけど、精神が肉体を作るって話と合ってるのかこれ?)


台座に置いてあった布と石を、ルゥに習い手に取る。

「この石は……?」

「お湯と布で擦ると、汚れを落とす成分が出るんですよ」

「なるほど~」

(要は石鹸か)


木の桶で湯を掬い、洗い場の椅子に座る。湯を触ってみると、結構ぬるかった。

石で少しだけ泡立った布で体と髪の毛をゴシゴシと擦る。


その間も出来るだけルゥの方は見ないように努めた。

もちろん、はちゃめちゃに意識しつつも。



(う~む、この耳!なんとも洗いづらいな、なんかお湯とか入っちゃいそうで…)


などと四苦八苦していると、背後からルゥに尻尾をワシッと掴まれる。

「ふぁ!」

「あははは!変な声!尻尾洗わせてくださいね~」

「あ、はい、じゃあ、お願い、します」

「す~ごいモフモフ、実は私、ずっと触りたかったんですよ」

「はは、もう、どうぞお好きに」

「なぁにそれ」

(なんか、やたらとくすぐったい。た、耐えろ…俺…)


などと勝手に何かと戦う事約20分


「はい終わり!結構汚れてたのに、ノミとかついてなかったですよ、不思議」

「ありがとうございます!」



そして浴槽で、少し離れて横に並ぶ形で入浴し、お互いに天井を眺めていた。

(やっぱぬるいな。でもまぁ、良い感じ)


「はぁ……」

ルゥの深いため息が聞こえた。


「なんか、すみません、ほんとに」

「あっ、いや、違うの、その、さっきの社での事…」

「あぁ…」

「ほんとはね、私も付いていきたいなって思ったんだけど…、

でもやっぱり、足手まといにしかならないし。

リンや、この村の皆を置いていくなんて、出来ないなって」

「うん」

「私はこの村の人たちと離れたくない…、

でも、ママルさんも、ユリちゃんだって、なんか、そうじゃないんだよね」

「……そう言われちゃうと、確かに薄情なのかもね…」

「ごめん、なんか嫌な子になってるかも。センチメンタル?

皆良い事をしようとしてるの、解ってるのに」

「そんなに真剣に寂しくなれるんだから、嫌な子なわけないよ」

「……ありがとう」

「…いや、…こちらこそ、そんなに考えてくれて」


ぐぅぅぅぅ~~~っ…

「っ!」

ママルの腹が鳴る音が、室内に響き渡った。


「あははははは!」

「いや、そういえば俺、今日まだ何も食べてないから!」

「あっ、そうだよね!でも、今のタイミング…ふふふっ、あははははははっ」

「ちょっ、ねぇ!まじ、はぁ、かっこつけたかったわぁ」

「ふふっ、なぁに、それ」

「…俺この世界に来てさ、1週間くらい誰とも会わなくて、

ようやく人間見つけた~!って思ったら盗賊で…

ルゥさんが、最初に優しくしてくれたんだ。だから、とっても感謝してます、ってこと!」


「…そんな、私、何もしてない」

「そうかなぁ…、でも、温かかったんだ」

「………………泣いちゃう」

ルゥを見ると、両手で顔を覆っていた。

(えっ、ほんとに泣いてる?、えっ、ど、どうしよう!)


「えっ、あ、あの、その」

と情けなくも動揺していると、ルゥがパシャっと水面に顔を付けた。


「ぶくぶくぶくぶく…」

「あの~、ルゥさん…?」

「…………っは~っ…!決めた!くよくよしない!!」

「おっ、おぉ…」

「リンを立派な結界術師にして、ママルさんとユリちゃんを笑顔で送り出すんだ!」

「まぁ、ユリちゃんの件は、村の皆と話してからね」

「むっ!水を差さないで!」

「あ、はいっ!」

「ふうっ、よし、上がったらうちで晩御飯食べましょ!今日はお母さんが料理してくれてるから、絶対おいしいからね!」

「や、やったあ!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ