174.共有
ナン村から、いくらか離れた場所に岩場を見つけると、そこにテントを張る。
それらの道中や作業中に、テフラはナン村での出来事をユリとメイリーにも共有した。
そしてその後。テントの中に皆が入り落ち着いた時。
コムラが独り言をボヤいた。
「お腹減ったな……」
「…ママルさんが起きれば食糧問題は解決なんですが…、一応、もう体温は平熱にまで落ち着いてるみたいですが」
「ママルって、この子?ずっと寝っぱなしの…」
「え、えぇ…そうですよ…」
コムラは、一日歩き通して当然かなり疲労しているが、
自分と同じくらいの歳だろうママルが、ずっとテフラに背負われているのを、
少し妬ましく思ったりもしていた。
「……叩いたら起きるかも、えい!」
寝ているママルの頭をペシっと叩く。
「ちょ、な、何をしとる」
「……だ、だって…この子が起きたら良いんでしょ?」
「そ、それはそうなのだが…」
「………やっぱり…」
ペシペシペシペシペシ
「や、やめてやるのだ、可哀そうではないか…っ」
ユリがそう声を上げた瞬間に、ママルの声が聞こえる。
「ぅ……ぅぅん………ユリちゃん……ヤメテ……」
「……寝言ですね…」
「……なぜわしなのだ………」
「…ど、どうして起きないの?」
「そ、それはだな…」
「ママルさんは、呪界で敵を倒すために頑張ったからですよ…」
コムラは少し考えた後、テフラの言葉の意味を理解した。
自分の両親の仇を、この子が討ってくれたんだ。
「ご、ごめんなさいっ…!あたし……」
「いや…まぁ、冷静に考えてみれば、子供の手で叩かれてどうにかなる訳もないのだが…」
「食事は…、今から狩りに出ますか?この荒野では、あまり目ぼしい成果は得られなそうですが…」
「い、行くなら私も手伝うわ!私のスキルの≪好餌掃骸≫なんかだと、敵をおびき寄せる効果もあるし…」
そうこう話していると、急にママルがガバっと目覚めた。
「な!!何日経った!!!?」
「お!!おお!起きたか…」
「ママルさん!良かった…」
「ママルちゃ~~ん、心配したわぁ…」
「お主が寝ていたのは、丁度丸一日くらいじゃないかのう?」
「そ、そうか…そんなもんか…よかった……」
「今の状況、現在地諸々含め共有したいが、その、寝起きですまぬが、食事を用意してくれないかの…」
「おっ…、飯に困る様な状況なんだ…了解……どうしよっかな…、あぁ~っと…コムラちゃんは何が好き?」
「え?……あ、あたしは………」
「とりあえず好きな食べ物言ってみてよ」
「……………スイカ」
「スイカか…、野菜カウントじゃなくて、果物系で考えた方が良さそうだな」
そうしてママルは、フルーツの盛り合わせと、そのサッパリ感に合いそうなステーキとパンを取り出した。
「美味しそ~~、ママルちゃんありがとぉ~」
「肉は温める?」
「そうですね、一旦外で火を起こして来るので、待ってて下さい」
テフラはそう言うと、リュックから火を起こせるいくつかの魔道具を取り出して、外に出て行く。
そんな光景を見るコムラは、何が起こっているのか理解が出来ない。
「何…?どうして急に…食べ物が…」
「あ~、まぁ、深く考えないで良いよ…、実際食えるし、味も保証するから」
「…………………………………」
「ママルの食事は絶品だで、わしもいつも楽しみにしておるのだ」
「私も~~!」
「………あ、あたし…テフラのトコ行って来る…」
コムラはそう言うと、テントから外に出て行った。
「………テフラさんが好かれてるんだ?」
「そうだな。いや折角だ、今のうちに諸々共有しておくで」
――
「まじか~~!もうテンザンに入ってたか」
「すまんな」
「?…それって、何に対して?」
「何となく、国境を跨ぐ時とは少しワクワクするからのう、お主も好きだと思ってな」
「ははっ、流石、良く解ってる…、けど、ありがとね」
「…それは、何に対してだ?」
「いや、俺ならこうするって思って、動いてくれた事」
「と、当然の事をしたまでだで…」
「しかし、コムラちゃんの事はなぁ…」
「とりあえず戦士とやらに会わせれば、一旦心は落ち着くんでないかの」
「まぁそれはそうなんだろうけど…、人間に対する不信感がさ…。テフラさんに懐いてるのも、今さっきテント出てったのも、多分同じ理由じゃん?」
「まぁ、そうだろうな……」
「私は、仲良くしたいんだけどな……」
「…………いや、ってか、もっと前ステして良いんじゃない?」
「…マエステ?解らん言葉を使わんでくれ」
「ご、ごめ。ちな前ステップの略。自分から距離縮めて良いんじゃない?ってコト…」
「そう言う事か………、だが、怯えられておる者に、急に寄られたら、怖くないかの?」
「さっきチラっと見た程度の印象だけど、怯えてるって程じゃないでしょ、多分」
「そうかのぅ………」
「一応、俺の実体験ってか、感覚だけどさ。単純に解らないんだよ」
「人間がか?」
「ってか…、ユリちゃん達がどういう人か」
「まぁ、そうだろうが……、だが下手を打って怖がらせたくはないでな」
「てか、一緒にいるのも嫌だったら、流石にさっき寄ったって言う、ナン村だっけ?そこに留まるんじゃない?」
「そ、それは、戦士に会いたいと言う気持ちが上回っただけではないかと」
「い~~や!それは無い」
「…何故だ」
「戦士ってのに、どれほどの夢や希望を抱いてるか知らないけどさ、
……そう言うのって、結局目の前の恐怖に勝てる訳なくない?
有り得ないよ。リアルじゃない」
「恐怖…………、つまり、わしらをそれ程恐怖しておらんと、そう言う事かの…」
「そう言う事。……だからさ、ユリちゃんとメイリーさんが、良い人だよって見せたら、多分大丈夫だよ」
「…………お主は人間じゃなくて良かったのう」
「そ、そう言う意味で言ったんじゃ」
「なんだか、いつもより発言がお気楽では無いか?」
「……まぁ、そうかも…いや、でも、間違っては無いでしょ」
「まぁ、そうだの……、と言うか、妙に厭味ったらしい言い方になってしまい、すまんかったな」
「っ…はは、気づいて謝れるのが、ユリちゃんの良いトコだね」
「私も!ユリちゃんとママルちゃんの良い所沢山言えるわよ!!」
メイリーの怒涛の褒めを聞いて、流石に照れくさくてママルとユリは顔を赤く染めた。
正にそんな時にテフラが戻り、余計に恥ずかしさを覚えたのだった。




