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173.テンザン国

呪界だった森では、その半数以上の樹々は、殆ど樹皮のみとなっていて、

朽ちる様にペシャリと倒れている。

他の樹々は、逞しくもまた元の樹々として生きようとその姿を保っているが…。


そんな状況のため視界もそれなりに広く、他の小さな草花等も枯れているため、

怪我の功名と言うべきか、歩きやすい。



そのため、元呪界は想定よりも早く抜ける事が出来た。


子供を連れて歩けば1日以上はかかると思っていたが、

時間はまだ夕方に差し掛かるくらいだ。



視界の先に荒野が見える。

恐らく、ここからがテンザン国となる筈だ。



「国の中心へ向かうのなら…、このまま殆ど真東かのう」

「そうね、このまま進んでみましょ!村とか見えて来るかもしれないわ!」


ユリとメイリーは、コムラの事を意識しながらも、自分からは話しかけない。

何もしない事で、無害と言う事をアピールする作戦だ。



「コムラ、大丈夫ですか?疲れてない?」

「う、うん…平気だよ」

「そう。強いね」

「…………………」

「あ、ユリさん」


急にテフラに声をかけられ、ユリは焦る気持ちで振り返る。


「どっ!!どうしたのだ?疲れたんかの?」

「コムラとママルさんって、どっちが重いと思います?」

「…え?あぁ…どうだろうな…、身長は、コムラの方が少し高そうだが…」

「コムラが疲れたら、どっちかをユリさん負ぶって下さいよ」

「あ、あぁ、任せろ!!そのくらい容易い御用だで!!」


「あ、あたしはまだまだ歩けるもん!!」

「そう?じゃあ、ここからはもう少し速度を上げましょう。

お腹も減って来ました。夜までには、村を見つけたいので」

「へ、平気だから!あたしだって、早く戦士に会いたいし…」

「よし、じゃ、行きますよ」


テフラは、コムラと繋いでいた手を離すと、速度を上げた。

勿論、子供が全力疾走する様な速度にはならない様に、それなりの速さで歩く。


コムラは、その背に必死で食らいついていく。


更にその後ろから、ユリとメイリーも続いた。



「テフラ…あやつ、やるのう」

「…そうなの?」

「ただ甘やかすだけでない、必死で動けば、辛い記憶も多少遠ざかろう…。

それに、わしらの前に出る辺りも…、考えて行ったのか、後で聞いてみねば…」




日が沈もうと言う時、1つの村を見つけた。

先頭のテフラは、早速その中に足を踏み入れる。



すると、即座に1人のオーガの男がやってきた。


「おい!おい!!獣人!!止まれ!!」


声をかけられ、テフラはその足を止める。


近寄りながら、なおも声を上げようとしたオーガの男は、

後からついて来たコムラを見るなり、その声を落とす。


「何の用っ……お前、どこのもんだ?どうして獣人と一緒にいる…」

「あ……あたしは…コムラ……、南の、ノノ村から、き、来たの…」

「ノ、ノノ村?本当に南の端っこじゃないか!…………まさか…」

「人間達に、襲われて…」

「クソッ!!またっ!!……………………それで…?あんたは」


「テフラです。この子が呪界に迷い込んでいた所を見つけて、連れて来ました」

「じゅ、呪界だって?……」


騒がしい会話を聞きつけ、村の者達が徐々に集まって来る。

その中から、1人の老爺が前に出て来た。

老人と言っても、その背は真っすぐに伸び、精悍な顔つきをしている。



「旅の物、オーガの子を助けてくれた事、感謝する。私はこの、ナン村の村長、カハシだ」

「ありがとうございます。その、折角なので、色々とお話したいんですけど…、

その…、他にも仲間がいるんですけど、大丈夫ですか?」

「?……その背の獣人の子ではなくか?」

「はい、その、人間なんですけど」


瞬間、全員が殺気立ったのを感じた。



ユリとメイリーは、村の入り口前で、村を囲む柵に身を隠して貰っている。

やはり、一旦控えさせたのは正解だった。



改めてカハシが、先程とは打って変わった鋭い視線で問いかける。


「一応聞くが、その人間は、どこの者だ…」

「ど、どこって…、えぇと、サンロックですかね…」

「…………………エンパル帝国は知っているか」

「ま、まぁ、名前だけなら…、多分、ノノ村を襲ったのも、そのエンパルって事なんですよね?」

「ノノだけではない…一体、いくつもの…、一体、何人もの……」

「…………………」

「駄目だ、帰ってくれ…受け入れられない」

「…………それでは、何か食事を買わせては頂けませんか?外の硬貨になりますが」



すると、外野から声が上がる。


「ふざけるな!人間に食わす物など!何一つない!!」

「奴らが!テンザンへの宣戦布告と共に掲げた言葉!お前も知れ!獣人!

【人間以外は、人に在らず】だ!!」

「他種族を殺す事を、なんとも思っていない!」

「違う!むしろ正義と信じてるんだ!」

「いや!正義感であるはずがない!!それならばあの歪んだ笑みで!オーガを殺せるものか!」


次第に、女子供のすすり泣く声まで聞こえて来た。



そんな中、カハシは冷静にテフラに説く。


「ここナン村はな、命からがら逃げのびて来た者達も多い…、

テフラ、獣人のあなたに当たってしまっている様で申し訳ないがな、

もし、その人間が…、無害だったとしても、受け入れられない」


「……解りました。…………コムラ、戦士はいましたか?」

「いないと思う……」


「戦士?どうして戦士を探しているんだ」

「コムラが、戦士に会いたいと言ったからです。正直本当にいるのかも解らないんですが…、やはり中央に行けばいるんですかね?」

「………………当たり前だ。だが…、コムラ、来るんだ」


カハシに呼びつけられる様に、コムラは数歩近寄る。


「コムラ、お前は、ここに来れただけでも本当に運が良かった…、

ここは、まだ前線からは遠い…、大人しく、この村で暮らす方が良い」

「………………」

「家も食事も用意する。きっと養子にしてくれる人もいる筈だ」

「……………どうして……?」

「…何がだ?」


「どうして!皆!変だよ!!だって!!テフラはとっても良い人なの!!それに……」

「……………………それに?」

「………戦士がいなきゃ……結局、いつか、負けちゃう…、この村だって……」

「ち…中央は!!我々を見捨てたりはしていない!!!」

「だって!!助けてくれなかった!!皆だってそうだったんでしょ!!!」

「数が足りないんだ!!!戦士の数は少ない!!テンザンの全てを守れるわけがないだろう!!」

「どうして、どうしてノノ村にはいないの!!来なかったの!!」

「だからそれは」


カハシとコムラの言い合いを聞いて、

つい、テフラは口を挟んでしまった。


「戦士とは個人を指しているのだと思ってましたが。

確かに、少数とは言え、いるなら、それほど強いなら、前線に出るべきでは?」

「き、貴様…戦士が、…戦士を侮辱しているのか!!」

「いえ、そんな意図は全く…、でも、どうして前線に出ないんですかね?」

「…彼らには……彼らなりの理由がある」

「……そうですか。………では、私はここを出ます。お騒がせしました。

コムラ。あなたはどうしたいか、自分で判断して下さい」

「あ…あたしは……」


「コムラ、無駄にその命を危険に晒すんじゃあない!」

「………あたしは、戦士に、会いに行きたい………」

「コムラ!!!」


コムラは、村の外へと歩くテフラの背を追いかけて行った。

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― 新着の感想 ―
もうちょっと策謀張り巡らせて捻ってくるかと思ったのに、思いの外皇帝が脳筋だったw こういうのって分断工作から始めるものだと思ってた…
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