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168.クリフォト

(ありえない。…ハッキリ言って、クラレンドさんは俺なんかよりも絶対に、モンスター化する可能性が低いタイプの人だ)


何かがあったのだ。


モンスター化の薬と言うのも存在している。

記憶が無くなっている事とも関係がありそうだ。


そして何より、…本物なのか?


確かめるしかない。


「≪アカーラ:金縛法≫!!」


クラレンドの体から、数多の鎖が飛び出した。

近くにいたテフラは驚愕し、距離をとる。


「マ、ママルさん!!鎖がこれ程出ると言う事は…まさか!」

「解らない、今から確かめます!」


「…なんだ…この力は……、ママル、お前か…」

「悪いけど、覗かせて貰いますよ。≪ライフ:浄玻璃鏡≫」


ママルは対象の人生を、その中の罪を読み解く。



――



赤月。この星は、終わってる。


ずっとずっと昔は、悪魔達はあの青い星に居た。


あそこには、悪魔が好む魂がまだまだ山ほどある。


行きたい。いつか。



何かを考える様な知能は無いにも関わらず、

そんな欲望だけが言葉にもならずに、その体を満たし続けていた。


低級悪魔であるクリフォトは、小さな苗木の様な姿をしている。

優れた触覚で、骨伝導の様に周囲の音は聞けるが、

他の五感は存在しない。

強いて言えば、魂を喰らった時に旨いと感じる事は出来るらしいが。



そんなある時、この星にやって来た人間がいた。

あいつに選ばれた奴は、あいつの魔法で、青い星に転移させて貰っているみたいだ。


行きたい。行きたい。選んでくれ。俺を選んでくれ。

クリフォトが言葉にもならない願いを想い続けていた、そんなある日。


「なぁ、こいつはどういう悪魔なんだ?」

その男は、隣を歩くサキュバスに問いかけた。


「こいつはクリフォト。能力は、そうねぇ、成長、とでも言えばいいかしら」

「成長か…面白いな」

「それにこいつは植物の魂だって好んで食べるみたいよ」

「……低級で数も多いみたいだし、丁度良さそうだな」

「そうね、きっとよく働いてくれるんじゃないかしら」

「決めた。クリフォト、お前らをあっちで順次召喚するけど、良いか?」


クリフォトは歓喜に震え、その身を揺らした。




シェーン大森林東部の一角に根を張ったクリフォトは、

周囲の植物の魂を喰らった。


樹の幹に、自らの魔力の種子を植え付け、侵食させる。

そうして自身の活動範囲を広げていく。


範囲が巨大になるほどに、力が増している事が実感できた。


操る植物を使い、次第に動物までも殺せるようになった。

動物だろうと、殺せれば、魂まで喰える。



うまい。旨い。いくらでも食える。

だが、森全域を侵食してしまったら、動物達がいなくなってしまうかもしれない。


抑えなければ。


――これは理知的な判断等ではなく、クリフォトの本能による判断だ。

そうして忍耐と捕食の日々を、100年以上の月日を過ごした。


そんなある日、つい最近の事だ。急激に、付近の呪力が減り始めた。

感覚で解る。悪魔召喚ではなく、悪魔憑依がこの地で幾度も行われているのだ。

人と悪魔の融合は、周囲の呪力を大きく消費する。


呪力が薄い場所では、自分の能力も本領を発揮できなくなる。


ならせめて、今のうちに、出来るうちに、出来るだけ範囲を広げておきたい。

一旦、我慢は止めだ。広げる。広げて、呪界を広げて、自分の力を保持しなければ。


急激に拡大させていく中で、たまたま人が、オーガが呪界の中に迷い込んだ。


理由なんかしらない。


人だ。


人の魂だ。


喰ってみよう。


喰ってみたい。


出来る気がする。


そしてオーガを打ちのめし、魂を喰った。

それから、男の死体に魔力の種子を侵食させてみた。


動物相手では何故か試した事は無かったが、ふとやってみたくなったのだ。



すると、クリフォトは歓喜に打ち震える。

今までの自分は、眠っていた様な物だったのかもしれない。


視覚がある。声を出せる。知恵が回る。

楽しい。旨かった。もっと!!



この時のクリフォトは、既に中級悪魔を凌ぐほどの力を手に入れていた。

植物に侵食する能力が人にまで作用出来たのは、蓄えた力まであってこそだった。


そして、クリフォト本体の樹を守るための力も手に入れた。


クリフォトの能力は3段階に分けられる。

魔力の種子による侵食。侵食した物を操る。

それによる、自身の拡張。呪界の範囲や、己の力を拡張する。

その結果として成長し、力が増す。


この拡張の能力を使い、本体の周囲を、自身の肚と同義にした。



植物に胃袋など無い。

だが、人に侵食し、操った事で、その概念を理解した。


悪魔の肚とは、生き物の魂を。生命のエネルギーを喰らう物だ。


これでもう、虫に体を這われる事も、虎に引っかかれる事も、熊に小便を引っかけられる事もない。


オーガの体で、クリフォトは大声で叫んだ。


「ここが!!俺の世界だ!!!!!」





それからたった数日後に、また呪界に足を踏み入れて来た人を見つける。


引き摺り込まれたクラレンドは、オーガと対峙した。



「ふ、ふはっ…、な、なぁ、会話ってのも、してみたかったんだ、な、何か、話してくれ」

「…お前がこの呪界の主か…?」

「そうだ。……そうだ!!…そうだ!!はっはっは!そうだ!!」


人に応答すると言う奇妙な感覚を面白がり、クリフォトは自身の言葉を反芻する。


「なぜオーガが呪界を…妙だな……」

「た、戦うか?戦うのか?」

「……お前は、それほど強そうには見えないのだが……、呪界の拡大を止めてはくれないか」

「い、嫌だ!駄目だ!!出来るだけ広げる必要がある!!急いでるんだ!焦ってるんだ!!」

「………何を」

「で、出来れば、世界樹まで届かせたい!!アレを!自分の物にしたい!!」

「………すまないな。やるしか無い様だ……≪練気≫!」


クラレンドは、自身の気力を高めた。

だが、即座に全身からその気力が抜けていく。


「何っ?!…なんだ…」

「こ、ここは、ここは俺の、肚の中、エネルギーは喰う!」

「ちいッ!」


クラレンドは駆け出した、

精神力や、自分自身の肉体エネルギーを喰われた感覚は無い。

あくまで、気力へと出力した際にそれを喰われる。

それであれば、自身の肉体のみで戦う。


走る勢いのまま、オーガに拳を振るった。


それは見事にオーガの顔面にヒットするが、

不自然に後ろに仰け反った姿勢のまま、何故か倒れない。

まるで足に根でも生えている様だ。


そう感じたクラレンドはチラと視線を落とすと、

あろうことか、実際にその足裏から根が生えていた。


「こ、これはっ!」


オーガは、既にオーガでは無いナニカへと変異してしまっている。


驚愕するクラレンドに向かって、全方位からツタが伸びる。


「はっはっは!!お前の魂は!どんな味がするんだろうなぁ!楽しみだ!!」

「ま、まずい……何か…策は」


クラレンドは伸びるツタを迎撃し続ける。

気力を使った動きをしても無意味だ。

自身の肉体能力のみで、数多のツタを破壊し続ける。


「お前…お前、強いな…は、はは…よし…よし…いいぞぉ…、次はお前だ」

「…っっ!!くそ……」

「喰らわせろぉ!!!」


オーガが両腕を振るうと、更に多くのツタがクラレンドを襲い、その身を包むと、

口内に一本のツタが伸び、その体内へと侵入する。


だが、体内に魔力の種子を放っても侵食出来ない。

クラレンドの強靭な精神力が、侵食を阻みながらも、

そのツタを噛みちぎり、吐き飛ばす。


「ははっ!!なんて…やはりまずは殺す必要があるか…?いや、精神を衰弱させればいけるか…?」

「ぐっ……く………」

「死ぬ前に俺の種子を植えられたその肉体で…、俺とお前、どちらの精神が勝つんだろうな?色々試したいんだ、付き合ってくれ!」

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