165.世界樹
世界樹の内側を、ただ垂直ジャンプを繰り返し登り、
目視できる範囲で半分の高さくらいまで来た。
「あ、ちょっと、一瞬待って下さい」
「どうしました?」
「ちょっと試したい事があるので」
ママルはそう言うと、改めて外壁に狙いを定めて≪アプライ:鑑定≫を唱えた。
●ヨトゥンスカブ(ユグドラシル) Lv312
多重世界を貫通した穴を塞いだ。
神聖力により形成され、結界魔力を吸収したためにその姿を保っている。
「おぉ、やっぱそうか、最初の時は中心点が遠すぎて届いてなかっただけっぽい」
「なるほどのう、何か解ったか?」
「なんか…名前の形式が良く解んなかったけど…」
情報を共有した。
「ふむ…、そうか…、神聖力と、おそらくツバキの魔力が混ざって、ここにあると言う事かのう…」
「なるほどね。結界魔力って、そう言う事か…」
「巫女の…人間の体を触媒として使うなんて、実際どうやるのか知りたくもありませんが、ツバキさんのおかげで守られたのかもしれないですね」
「そうだな………。アルタビエレ…死してなお、なんとも嫌な奴だで…」
「この場所もさ。結局、考えられる限り一番安全な住処を作ったって感じじゃん。そう言うとこもなんかムカつくわ。わざわざ悪魔まで配置して…」
「そうですね…、自分は好き勝手やっておいて、そして自分の力にも自信たっぷりな癖に、こんな堅牢な場所を家とするなんて…」
「何かに怯えていたんかのう?」
「いや、別にそうじゃないでしょ。人から恨まれる事をしてる自覚だけはあったんだよ、きっと」
ママル達は、再び頂上を目指した。
――
世界樹の幹、中心の空洞、その頂上へと辿り着きそうだ。
近くの壁に大きな窪みを見つけ、一旦そこを足場にした。
理障壁が展開出来るのは1枚だけだ。
ジャンプした後、空中で再度展開を繰り返さなければならない。
そのため、こういった足場を1つ挟むだけで、ユリは心身共に大分気楽になれる。
「ふぅ…、あそこを越えたら、次は降りるだけだな…」
「そうですね…」
「お主ら、大丈夫か?大分風も出て来た。外に出たら、更にこの比では無いと思うが。一旦ここで暫く休むか」
「おっけ~。でもここ、ゆっくりするには流石にちょっと狭くない?」
「お主の武器を借りて理障壁を張れば、十分な広さと強度の物が出来ると思うで」
「ほう…、じゃあ一回試して貰って良い?」
ママルは武器をスイっと指先で操る様に、ユリの元に寄越した。
「ふむ…≪理障壁:物理結界≫!!」
パキパキと音を立て、空間そのものが凍結する様に、
分厚く広い理障壁が顕現した。
「やば……、凄いね」
「こ、これほどとは…」
「この厚さ…、私が本気で殴っても破れるか怪しいくらいですね…」
「だ、だが、発生があまりにも遅くなっておった…、通常なら瞬時に展開出来るのに、障壁が完成するまで何秒かかった?」
「5秒くらいかな…?まぁ、いつもみたいな使い方は出来なそうだね」
「では、一旦ここで休みましょうか。大分空気も薄くて、流石に私も疲れが…」
「了解です、っと、メイリーさん呼ぼう」
4人は世界樹の内側、とは言え、地上数百メートルと言う場所で、
理障壁の上でくつろいでいる。
ちなみに理障壁は、魔法陣の様な紋様が流れているものの、
所々透けて下方が見えたりもしている。
そのためママルとユリは、なるべく下は見ない様に気を付けているが、
テフラとメイリーは平気な様だ。
「出たらどうしようか」
「東のテンザンを目指すのが良さそうだが、一旦シイズにでも帰るかのう」
「あー、良いっちゃ良いかも…、でもまた森を、2、3日は歩かないといけないか…」
「いや、世界樹の天辺から外に出たら、そのまま空中を移動しながら南を目指す。と言うのはどうだ」
「…なるほど、確かに、真下に降りる意味はないか…。どうせ降りるなら階段状の軌道で降りれば、あの歩き辛い森をある程度飛ばせる…、いや、でもやっぱ、夜になる前に下には着きたいから、どのくらい速度だせるかかなぁ。今何時?」
ママルにそう聞かれたユリは、懐中時計を取り出して確認する。
「……16時頃だな」
「微妙な時間だなぁ…」
「すみません、これ、私が休みたがったせいですよね?暗くなる前に、一気に外に出ましょうか」
「いやぁ…まぁ…、なんならここで一泊しても良い気がします…」
「こ、ここで!理障壁の上でか!」
「そ、そうだけど…」
「も、もし、寝ている時に消えてしまったら…と考えると、わしは寝れそうにないわい…」
「えっ…消えるの?」
「いや…、消えないとは思うが…何せこんな規模の者は初めてなのだ…」
「……まぁ、なるほどねぇ…」
「あ!じゃあ!ユリちゃんをおんぶしてるテフラちゃんを、私がおんぶするわ!」
「え…」
「そ、それは流石に難しいのではないか?」
「そうなの?2人くらい支えられると思うのだけれど…」
「重心がズレすぎるので、難しいかと…、いや、メイリーさんがユリさんを背負って貰えれば、それで行けると思います」
「………わしは、そんなに重いか?」
「い、いえ!ですから!!重心がズレるだけでも、肉体疲労は大きく変わって来るんですよ!」
「はっはっは!解っとるわい。はっはっは、珍しい物が見れたのう」
「確かに、焦ってるテフラさん珍しい。良いな」
「い、良いってなんですか!!」
「す、すみませんつい…、って、てか、そもそも普段の理障壁の大きさとかさ、ジャンプタイミング合わせる点とか、それで2人の方が全然楽だって話だったじゃん?3人で行ける?」
今度はママルが焦って、会話を逸らす。
「ちょっと上がれば、後は下りだ。行けると思うでな」
「そ、そっか」
「……ママルさん、なんで私が焦るほうが良いんですか?」
「いっ!いや、…ギャップが見れて良いなってだけで…」
「可愛かったものね?」
「そう!それ!」
「かっ…」
必死にメイリーに合わせたママルの返答を聞くと、
テフラは押し黙った。




