164.理屈
ママル達は、ガーゴイルが居た部屋を出た。
すると、景色が一変する。
先程までは石造りの建造だったが、更に硬そうな、金属の様な物で作られた階段が上へと続いている。
「何か、見た事あるような…」
ママルがそう言いつつ≪アプライ:鑑定≫で見る。
「やっぱり」
「どうだ?」
「オリハルコン、プロテッドで見た壁と同じ物だ…、賢王様~、技術流出しちゃってますよ~…」
「ま、まぁ、もしかしたら、こっちの方が先なのかもしれんでな…」
「あ~、確かに……。いや、でも合金だよ?そんな技術、絶対プロテッドの方が上だって」
やいのやいの言いながら、その階段を登り始めた。
踏み歩く度に周囲に光の線が走り、そこそこの明るさがある。
「どうして急にそんな物で建造する必要があったんですかね…」
「強固な守り、と考えると、出口が近いのかもな…」
「なるほど…、転移を除けば、侵入口は上からしかないもんね」
少しすると、異臭が漂ってきた。
「す、すみません」
そう言ってテフラは鼻を抑えると、何度も咳をする。
「テフラちゃん、これ使って」
「あ、ありがとうございます…」
メイリーに手渡されたハンカチで鼻先を押さえつけた。
「大丈夫ですか?しかし、実際進むほどに臭いな…空気が篭っちゃってるからか」
「これは、多分アレです。スライム…」
「?!あぁ~!確かに、あの臭いだわ」
「この上にスライムがおると…」
「じゃあ、俺が行って倒して来るから、ちょっと待ってて」
「いや、お主はさっきの戦いでっ」
「だ~いじょぶダイジョブ。ってか、多分俺じゃないとスライムは倒せないよ」
「ま…まぁ…」
「ほんじゃ、行って来ます」
ママルはマスクを装備すると、階段を一気に駆け上がって行った。
そして辿り着いた先の扉を開く。
「うおっ!!」
扉の先は、もう足場が無かった。
落下しそうになった自身の体を慌てて止める。
そうして改めて外を見ると、一気に景色が開けた。
上方は天高く、円筒状に突き抜けており、わずかだが枝葉の隙間から空が見える。
(これが世界樹の内側か…。かなり広い。そして、とてつもなく高い。
ってか、シンプルにデカい……)
そして下方、オリハルコンで出来た底面にスライムが居るのが見えた。
同時に世界樹の内壁に沿う様に作られた通路が見える。
ママルらはこれを登って来た様だ。
(これは…、そうか、上から入って来た者とか、落ちて来た物とかを、
あのスライムが消化する仕組みか…?そして、オリハルコンは溶かせないと…)
これならほっといても良いかとも思ったが、やはり悪魔は仕留めておくべきだろうと思い直し、上からそのまま最大強化した≪バニシック:燃焼≫を放ち、焼き殺す。
「なんか、木に挟まっちゃった動物を攻撃してるみたいで、ちょっと嫌だな」
「お主は、普段から拘束した上で攻撃しとるでは無いか」
急に背後から聞こえた声に、ママルは体をビクと震わせた。
「!!び、ビビった…、てっきりあの場所で待ってる物だと」
「スライムの討伐は任せたが、待機を聞き入れた覚えはないでな、意味がないしの」
「ま、まぁ、それもそうか…」
「外の空気が混ざって、いくらかマシになりました……」
「ここからどうしましょう?どうやって上に行けばいいのかしら」
「プロテッドの山を登った時の要領で、わしの障壁を順に飛んでゆくかのう」
「ってかさ、この階段は何だと思う?中途半端すぎない?」
「………うぅむ…、なんだろうな…、途中で建造を辞めたのか…。何か、転移出来ない物でも運ぶ必要があったとかかの?」
「転移出来ない物?」
「いや、知らんが。もしそう言う物質があったとしたら、入口は必要になるだろ」
「あ~………、てか、アイツがこれを作った時は、俺らが会った時より万能じゃなかった説もあるか」
「確かにな。だがそれを言うなら、本当にアルタビエレが作ったかの確証もないが」
「すみません、答えのない会話も好きですが、まずは今どうするかの話に戻しませんか?」
「あ、あぁ、すまん、そうだな」
「すっすみません、つい俺が…」
「理障壁を伝って上に行くのが簡単そうだが……しかし、高いのう…」
「だね……、一旦東京スカイツリーを想定すると、高さ634m……。一回のジャンプで、無理せず安全に、俺、いや、ユリちゃんを抱えたテフラさんが飛べる高さ…、大体10~20mくらいか…?間の15mで634を割ると…」
「なんだかよう解らん事をブツブツと…」
「ちょ、計算してるからっ………」
「う、うむ、すまぬ」
「………42辺り…。既に多少登ってるけど。てかスカイツリーの例えがどこまで合ってるかも…。いや、でもアレの2倍とかって事は流石に無いのは解るし……。そうだな…多分、4、50回も垂直ジャンプしたら、あの上の穴に辿り着くかも」
「は~ん。中々やるのう、実に、妙に理屈っぽい辺りがよい」
「…褒めてる?」
「勿論だでな」
「途方もない高さに見えますが、そう聞くと普通に行けそうですね」
「ママルちゃん凄いわ!!」
「あ、ありがと…、それじゃユリちゃん」
「……メイリーには素直なのだな」
「え?ごめ、…てか」
「…≪理障壁:物理結界≫!ほら、行くで」
ママル達は、プロテッドの山を登った時と同様の形で、
メイリーは潜り、ユリはテフラに負ぶさって、幾度もジャンプを繰り返す。
だがプロテッドでの時よりも、気温や風等の気候的に全然楽だ。
そんな中で、ママルは直近のユリとの会話を思い返した。
「あー、あの、ユリちゃんさん…」
「なんだ…」
「ちょっと、俺の反応、もしかしたら冷たく映っちゃってたかもって、
思ったので、反省しました、ごめんね」
「…………いや、そう言う事ではなく……」
「えっと…、じゃあ、どういう…」
「なんと言えばよいのか…」
「ママルさんが、ユリさんにだけ違う反応するからじゃないですか?」
「えっ、そ、そうですかね……」
「でもそれってママルさんが、ユリさんに一番気を許してるってだけな気もしますが」
「っ!」
「どうだろ、別に今更皆にそんな気を使ってるつもりもないですけど…、
でも確かに。ユリちゃんは特別気楽説、だから適当になってる説。あるな」
「も、もうよい」
「え?いいの?」
「…よい」
「怒ってない?」
「怒っとらん!!」
「ほ、ほんとに?」
「ふふふふ」




