163.上がる
翌朝。一行は転移して来た最初の部屋から、上を目指す階段を登り始めた。
「な~がくね?…、下に降りた時よりも長い様な…」
「いや、むしろ長いのは助かるだろ。このまま世界樹の上まで続いておれば、むしろ楽とも言えるでな」
「あ~、まぁ、確かに。そりゃそうか…」
1時間程螺旋階段を登り続ける。
一方向へ曲がり続けていると、徐々に平衡感覚が解らなくなる様な錯覚に捕らわれたりする。
そしてようやく扉が見えた。
その扉は、こちら側から施錠されている。
何の気もなしに開錠し、扉を開くと大部屋が見えた。
そしてほぼ同時に、周囲の壁に設置されている燭台が明かりが灯す、
大きな円形の部屋は、左右にいくつもの石像が置かれていた。
入った時の直線状の先にはまた扉が見える。
「なんだ…?この部屋……」
「左右にある石像が気になるのう…、ちょっと見てみるか」
「ってか、入ったら明るくなる仕組みとか出来るなら、全部の部屋につけろよって…」
右側手前の石像に近寄る。
「……なんか、エイヴィルが魔人化した時の姿に似てるな……」
「魔人の姿を模した石像を作り、並べ立てたのかの…?」
「……どうだろう、そんな事する意味が解んない気がするけど…」
ママルはそのまま石像をジっと見つめる。
石像の主は、衣服の様な物は来ていない。だが、雌雄どちらと言う訳でも無い。
顔は何処となく犬の様に口が突き出しているが、
巨大な両翼が生えているためか、そのシルエットは鳥か蝙蝠かの様にも見える。
「流石に気になる、ってか、悪魔じゃねぇだろうな……≪アプライ:鑑定≫」
●モンスター:ガーゴイル Lv52
物理耐性(強)魔法耐性(強)状態異常耐性(極)
ママルがアプライで覗いた瞬間。
その石像は雄叫びを上げた。
「ギャオオオオオオオォォォォォ!!!!」
その声に反応する様に、室内の石像が次々と目覚め動き出す。
全て同じ様な姿形をしている。
ママルは反射的に、目の前のガーゴイルに殴りかかった。
顔面をぶん殴られたガーゴイルは、そのまま吹っ飛んで壁面に激突する。
「くそっ…、硬ってぇ…皆!やっぱ悪魔だ!!」
「くっ、何体おるのだ?!」
「10数体って所でしょうか…。やりましょう」
「これが…本物の悪魔なのね…」
「スキルは無かった!物理、魔法に耐性が高いけど、殴ったダメージは通ってる!
あと状態異常は無効っぽいから、俺の呪術は役に立たなそう!」
最初にぶっ飛ばされたガーゴイルは、首をガクガクと動かし、ふら付きながら立ち上がった。他のガーゴイル達は飛び上がると、この場で最も弱そうな者。ユリを目掛けて、一斉に飛び掛かる。
3人はユリを守る様に固まり、四方から襲い掛かるガーゴイル達を跳ねのけ続ける。
「≪ベイリアル:大地帰還≫!!」
ママルが閻魔王スキルを唱えると、ガーゴイル1体が瞬時に粉微塵となった。
(!!人でもねーのに、普通に通る上に、反動があるっ!)
ママルの体温が急激に上昇し、汗が噴き出した。
「くそっ、悪魔相手だとこうなるのか…。ごめん、想定外の反動が…」
「そ!そもそもこの数相手に使う様なものではなかろう!!」
「一応、悪魔相手でも通るって知れたのはデカくない?」
「ほ、本当に硬いわ…!」
「攻撃手段は乏しそうですが…」
「ママル!一瞬武器を貸しとくれ!」
「あ、あぁ、良いけど」
カース・ウルテマ・ウェポンを両手で掴んだユリがスキルを唱える。
「…≪攻勢陣:加動結界≫!!」
ユリを中心として、半径10メートル程度の結界が形成された。
「この中のわしが認めた者は、肉体の加動力が上がるで!」
「か、加動力って何!」
ママルはそう言いながら、突っ込んできたガーゴイルを殴り飛ばした。
「って、コレか!!」
全身が、明らかに素早く、滑らかに、力強く動く。
突っ込んできた相手にカウンターを浴びせるなど、普段のママルでは快調でも出来ない芸当だ。
「凄い…これなら…≪双牙砕≫!!!
3体のガーゴイルは双牙砕に巻き込まれた。
気力の牙はそのまま何度も噛む動作を繰り返すと、3対それぞれ体が切断される。
石像の様に見えていたその体から血肉が舞った。
「≪糸蜘血≫!!」
飛ばされたナイフは、2体のガーゴイルの頭部を貫通すると、2体とも地に落下した。
「オルァアア!!」
ママルが雄叫びを上げながらガーゴイルを殴りつけると、頭部がぶっ飛んでいった。
それから数分で、ガーゴイルを殲滅。
屍となったガーゴイルは、次々と霧が晴れる様にしてその姿が消え失せて行った。
「……はぁ……」
(悪魔は死体が残らないのは、精神衛生上良いな…いや、いない方が良いんだけど…)
「ふぅ、皆、無事か?怪我などしていないか?」
「大丈夫です」
「私も平気よ…、こ、怖かったぁ……」
「なんでこんなのが…、いや、万が一に備えての防犯的な奴か…?」
「…おい、お主は」
「え…、あ、あぁ、当然、怪我はないよ」
「……そうか…」
「ご、ごめんね、つい」
「いや、よい」
「ってか、攻勢陣だっけ、かなり強いじゃん、なんで今まで使わなかったのさ」
「いや、使いどころがあったか…?それに、お主の武器を介したからこその強さだでな…、強化幅も、範囲もな…」
「そっか、なるほど…」
「と言うかお主、反動は大丈夫なのか?」
「まぁ、動けない程じゃないよ、怠いけど」
「そんななのに、どうして体で戦ってたんですか?」
「ちょっと、試したい事がありまして…、まぁ、解ったら言うので」
「気になるではないか」
「いや、全然違ってたら恥ずいし、何より変な…間違った知識覚えちゃったら弱体化する可能性もある気がする…だから、俺の中で確信が持てるまで話さない方が良い気がするんだよね」
「ふむ……」




