162.英雄譚
「なんか……有益な情報、みたいなのは特に無かったね。
まぁ、まだ全然、殆どは調べられても無いんだけど…」
「……………そうだな」
「…特にあの、書物が多かった部屋をもっとよく調べますか?」
「う~ん…、いや…、まぁ、そうですね、今日一日くらいは見てみましょうか」
「そうですね、そのくらいが良いと思います」
「じゃあ、まぁ、もっかい階段使うのも面倒だし、また転移して戻ろう」
「っ…お主、いや、なるほどな。確かにのぅ…」
4人はまたアルタビエレの服の魔法陣を使い戻った。
「じゃあ、手分けして適当に目についた物を読んで行こう。何を探してるって訳でもないし。各自の判断で適当に気になる物が無いか見る感じで…」
「…時間を決めておくで。外の明かりが全く見えぬからな」
「確かに、夜になったタイミングも解んなくなりそうだね」
「今は15時…、そうだな、20時に終わろうかの」
――
「時間だで、一旦、気になった物があれば持って、下の部屋にでも行くか」
「…あいつの寝室で寝るのか……」
「……まぁ、合理的にのう」
「まぁね…。でもベッドは使いたくないな」
「普通に野営する時に使う寝具で寝ようではないか」
全員がユリの元に集まるが、皆手ぶらだった。
「ま、なんも無かったよねぇ」
「魔法に関する物が殆どでしたね」
「だな、様々な魔法を事前に知っておくのは役に立つとは思うが、きちんと読み解くとなるとな」
「1日読み込んで、2、3冊くらいな気がするな。労力と見合う気がしない…」
「うむ……」
「何か、日記帳みたいなのだとか、悪魔についてとかあれば良かったのだけれど…」
「どこかには、もしかしたらあるのかも知れないけどねぇ…」
「あると確定しているのなら、例え数週間、数か月かかろうとも探したいがの」
「残念ながら、そういう訳ではないですからね。まぁ、寝ましょう、晩御飯の後に」
「あ、キッチンあったよね、使って温めよっと」
「わしもそうなのだが、ベッドは嫌なのに調理場は気にならない、と言うのもなんとも不思議だで」
「…確かに」
それから一行は、ママルが出したホットドッグとスープを温め、味わっている。
「そう言えば本で思い出しましたが、アレはどうだったんですか?…あの、プロテッドで読んだ魔王と勇者だのって言う」
「あぁ、そう言えばお主は、読むのを面倒くさがっとったな…」
「…だって、厚かったじゃないですか…」
「はは、確か、【英雄譚-魔王が生んだ混沌と、勇者が作った調和-】ですね」
「そんな奇妙なタイトルだったか」
「まぁ、流石にフィクションって感じがしたなぁ…、あと、あんま面白くなかった…」
その本の大筋の流れは以下の通り。
突如現れた魔族の軍勢。その王たる魔王が、配下を使い世界各地を混沌に陥れた。
そんな時、1つの小さな村で、勇者シストーが生まれた。
勇者は魔族をバッタバッタとなぎ倒しながら、各地で魔法士クヤビ。戦士ボゥホート。聖女エメリタの3人を仲間にして、
やがて魔王を打ち倒す。
世界に平和が訪れた。
それだけだ。
勿論、色々と細かい描写はあるが、その殆どは、
魔族によっていかに人々が残虐に殺されるか。
そして、勇者によっていかに人々が希望を与えられたか。
そう言った話ばかりだ。
少なくとも前世で様々な創作物を見た記憶のあるママルにとっては、退屈極まる物語だった。
「そもそも、魔族ってのが突然沢山現れる意味が解んないし、なんで世界を混沌に陥れたのかも解んないままだったからね。敵が何をしたいのかも解らないと、勇者側にもあんまり感情移入出来ないってか…」
「魔族は、人々を苦しめたかったのだろ?」
「それが普通に意味解んない……、何の意味が…。い、いや、ってか、まさかモンスター、って事?……魔族が」
「わしはそう思ったが」
「……史実って事も無いと思ってるんだけど、……いや、まさかな」
「……神様に聞いたら、解るんかのう……」
「…どうだろ。解んない気がするな…、ま、まぁ、次の機会に聞いてみよう、折角だし」
「そう……だな……」
星霊力は、ロォレストの神殿を破壊してからは、特に足りないと言った感じにはなっていない。
だから別に、本当は今日明日にでも神降ろしを再度行っても良い。
だけれど、何となく、今は神様と話をしようと言う気が起こらない。
少なくとも、今暫くは。
それは皆も同じ気持ちだった様だ。
「この伝説って、どのくらい伝わっているんですか?私は知らなかったんですが…」
「私は、似たような話を子供の頃に読んだことがあるわ。詳細は違ったけれど、大筋は一緒よ」
「ふむ…サンロックにも似たような話があったと…。わしもママルと同じくプロテッドで読んだのが初めてだったが」
「……伝説として伝わっている話…、神話とか、伝奇とかの類と考えるのが自然だと思ってたけど…」
「メイリーよ、お主が子供の頃に読んだ話は、どうだった?その、勇者の仲間について」
「え?っと…、確か、殆ど一緒だったわ。戦士はとってもタフで、聖女はお祓いが得意で、魔法士は何か、時空間魔法とか言うのを使うの」
「ふむ……」
「何が気になるの?」
「時空間、と言う言葉。【時】はさておき、【空間】とは、結界術が指す所と殆ど同じだろ?」
「あ~~、そう、か…?そうかも?」
「特定の空間内に効果を発動させるものが結界術なのだ。逆に言えば、
空間そのものに対して作用させる魔法と言うのが結界術と言うか……」
「空間に干渉する魔法って事ね…、う~ん……あの勇者の仲間がやってたのは、
確かにバリアみたいなの張ったりしてたけど…」
実際似ているっちゃ似ている。しかし創作物的に考えれば、バリアなんてのは良くある能力の一つだ。
「もしユリちゃんがその魔法使いと関係あったら、なんか嫌だなぁ」
「っ!な、何故だ?」
「いや、一応魔王ってつく俺とは敵じゃん…」
「え…閻魔については、以前お主が話してくれただろ。
閻魔王と魔王、字面こそ似ておるが、実際には別物ではないか」
「まぁ、そうなんだけどさ」
「ふふ、仮にその魔法使いがユリさんと、魔王がママルさんと関係あったとしても、お2人には関係ない話ですよ」
「そうだで!!!世の中には例えば、敵対国どうしの王子と王女が恋に落ちると言う本もあるでな!!!」
「へ、へ~」
「み、妙な例えをしてしまったが…、つまり、直系の親世代が敵対していたとしても、それですら、子らには関係がないと言う話をだな…、勿論、周囲の状況には関係あるのだろうが」
「いや、まぁ解ってるけど…」
「そろそろ寝ましょうか。明日は上を目指して行く事になりますが、
世界樹を登って行くと考えると、長い道のりになりそうですし」
それから皆は歯を磨いた後に眠りについた。




