160.下る
「…と、とりあえず、上か下に行こう…」
「…………どちらへ向かう方が、より良い結果を得られるか。全くヒントがないでな。お主が決めとくれ」
「そもそもこの上下階層に長い家?がどこまで続いているのか不明だ。
でも、解らないくらい縦に長いとしたら、その殆どは地下に埋まってる可能性が、高い、気がする。でっかい塔みたいなのがどっかにある可能性もあるけど……、それだと目立つからね、一応隠れ家っぽいし」
「だな、まぁ、階段先が丁度見えないだけで、実は大して長くない、
つまりそれほど大きい物でもない、とも思うが」
「…………………」
「す、すまん、上下どちらかに行く理由を、あえてつけているのだよな…、つい…」
「…まぁ、良いけど……、で、地下に埋まってる長い建物、とすると、
出口は上。何かを隠すなら、下。勿論、ただの憶測を元にした憶測だけど…」
「それでよいと思うで」
「なので、下を目指そう」
「了解だで」
「では、早速向かいましょう」
4人は螺旋階段を下る。
螺旋階段と言っても、吹き抜けの様な物は無く左右は壁だ。
つまりは単純に、一方向へ曲がり続ける階段。
道幅は横に2、3メートルとまぁまぁ広い。
明かりは無く、ママルのランタンのみが周囲を照らす。
10分以上歩いているが、まだ階下へ辿り着かない。
「長いな、まじ…」
「そもそも奴は転移出来たのだからな…道が続いているだけマシと思おう…」
「それはまぁ、そうなんだけど…、いや、そう考えると、本当に大事な部屋は、外部との出入り口が無い気がして来た」
「それならば、この家自体をそうするのではないか?さっき話した事だが」
「あぁ…まぁ、そうか、そもそもここが破壊不能なアレで覆われているなら、それが手っ取り早いか……」
「改めて聞くと、破壊不能とは意味が解らんな」
「まぁ…普通に考えたら、絶対壊れないものなんて無いと思うけど、解り易いかなって思ってそう言っただけで」
「例えば金属は高温で熱する事で加工できる。そう言った何がしかの弱点があるのかも知れぬな」
それからもう5分程歩くと、また広い空間に辿り着いた。
入り口付近のスイッチで明かりが灯る。
乱雑だった上階と比べて、物が少ない。
ベッドや保存食の他、金品や美術品が特に飾られる訳でも無く一か所に置かれている。
更に同階の別室には水回りが完備されていた。
「まぁ、ただの生活空間って感じだね」
「一切外も見えず、音も聞こえぬこの空間…、こういう場を望んで作ったとしたら、中々だのう…」
「まぁ、らしいっちゃ、らしい気がするな」
「ママルちゃん、まだ下に行く階段があったわよ?」
「……更に下か……、まぁ、行こうか」
「だな、行ってみようではないか」
4人は歩きながら、ママルが皆に問いかけた。
「ってか、結構皆落ち着いてるね…、俺わりとビビってるんだけど。今の状況」
「び、ビビるでない…」
「………何それ」
「お主を頼っておるのだ。なんとかしてくれるとな」
「まぁ、そうですね。ママルさんなら結局なんとかしちゃう気がするので」
「そうよね~、一緒にいれば、安心安心」
「と言う訳だ。そんなお主が不安がっていたら、…崩れるで」
「……わ、解った。…………よし、大丈夫、進もう」
それから、先程よりもずっと長い時間、階段を下り続けた。
いつまで続くか解らない閉鎖的な空間と、殆ど変わらない景色に、
やはり、いよいよママルには不安が募って行く。
そして辿り着いた先は、とても広い空間になっていた。
特に天井が高い。先程居た階層まで一気に空間が抜けていそうだ。
その広い空間の中央に、ポツンと一軒の社が見え、薄っすらと明かりが灯っている。
そんな光景に、一行は息を飲んだ。
「や、社だ……、これまで、巫女と社はセットだったよね、ユリちゃんとシイズ村の。サクラさんと、ロォレストの……」
「ま、待て、整理しよう……、神様が言っておった巫女は、あと、300年前のツバキ、それから1000年前のキキョウ。どちらかの社が、これ、と言う事になるのか…?」
「あくまで、同じくセットで存在するならね…、
そして、アルタビエレは1000年前の巫女の存在は知らなかったっぽい。つまり…」
「ツバキさんの社の可能性が高いと…、行ってみましょう」
「待っ………、いや…………そうだな……」
「ユリちゃん大丈夫?」
「何か、神様に聞いておいた方がよい事があるか、思案したのだが………、
それに、何だったか…、アルタビエレが語っていた言葉、何か…」
「えっと……」
すると、意外にもメイリーが語り始めた。
「1回目、両世界を開通した…、理論は間違っていなかった…。
巫女の肉体は、結界術を宿した魔力で満ちていたので、
星霊力で貫通させた道を固定するため触媒として使った………。
だが、うまく行ったと思った瞬間、星の免疫機能とでも言うべき事象で穴は塞がれた、だがあまりにエネルギーが大きい。何度も出来る事ではない筈だ。
次の巫女の出現を待ち、世界を監視し続けた」
「メイリーさん、よく完璧に覚えてるね…すご」
「あ、あの時は、とても気を張っていたし、とても集中していたからかしら…、
間違っていなければ良いのだけど…」
「いや、合ってる筈だで、そうだ、確かにそう言っておった。
つまり、ロォレストの件と合わせて考えると…………、
これがツバキの社であるならば、この社を利用して異世界との通路を開き、
その道を安定させるためにツバキの肉体が…使われた…。
だが、星の免疫機能でその穴は塞がれた」
「星の免疫機能で穴を………まさか、覆ってるこの建物全体がそうか?
ってか、建物じゃないのか?…そうか、あの破壊不能の壁は、星の免疫機能で作られた物…、だからあんなに硬いのか…?世界の穴を塞ぐほどに……。なんだ、ここは…」
「それこそ、神様に聞いてみるのが良さそうだでな………」
「確かに…、いや、でも聞き方ムズくない?」
「待て…少し考える……、いや、違うな。やはりまずは、社を見てみよう…。
何か、もっと聞きたい事が増える可能性がある気がするでな…」
そうして一行は、社の中に足を踏み入れた。




