159.どこか
(…ま、真っ暗だ…、完全に、何も見えない…もう転移したのか?)
「み、皆!」
「おるで!」
「うっ!うっ!ママルちゃん!!」
「私でも全く見えません!完全に光が入っていない…」
ママルは自身の体から、皆の感触が伝わる。
尻尾が特に強く握られている。
「だ、大丈夫そうか…、ら、ランタンを灯すから!」
そうしてママルのランタンの明かりで周囲を照らした。
光量はそれ程強くはない。薄らボンヤリと景色が輪郭を映し出すと、
足元に魔法陣が書き記されているのが確認出来たが…、
「なんだ…?」
視界に捕えた数々の者は、用途不明のナニカばかりだ。
それに何より、棚が多く全景が全く解らない。
「と、とりあえず大丈夫そうだで…」
「…不必要に、不気味に見えますね」
「た、ただ暗いだけなら…良かったわ…」
3人はママルから離れ、しかし明かりからは遠ざからずに周囲を探索して行く。
「マズったか…?シンプルに真っ暗でよく見えないとか…想定外…」
「い、いや、待て、天井にライトの魔道具の様な物が…」
「…あ、ほんとだ、って事は、どっかにスイッチがあるんじゃ…」
皆が恐る恐ると言った具合に探索すると、テフラが声を上げた。
「な、何かスイッチの様な物が、今触れてるんですが。押して大丈夫ですかね?」
「…ま、まぁ、暗闇に人を入れた上で、見えないスイッチを押させる罠とか、
流石に無いと思いますし…、お、お願いします」
「で、では……」
次の瞬間、テフラが押したスイッチがパチッと音を鳴らすと。
室内の照明が次々と明かりを灯していく。
「っ!」
皆はそれぞれ、目を手で覆った。
急な明るさに眩んだ瞳を徐々に慣らして行く。
そして目にした光景は、皆が思っていたよりもとても広い空間だ。
解らないナニカだと思っていた、散乱している物も、
よく見るとその多くは理解できるものだ。
例えばトカゲの尻尾(の様な物)を乾燥させた物。
例えば蝙蝠の羽(の様な物)を引き延ばした物。
何かの動物の目玉。
何かの臓物。
何かの骨。
血。
そういった物が透明な容器に入れられてたりしている。
それから数多の書物、メモの様な用紙や書きかけのスクロール。
それらを置く棚は、大人の人間3人分はありそうな高さにまで続いている。
「こ、これがあいつの、……アルタビエレの拠点か?…らしさはあるけど…」
「おそらくのう……。しかしこの書物の数………、千年だったか?随分集めたと言うか…」
「全部読むのは無理そうだね」
「だな、何年かかるか解らん…」
多すぎる情報は、逆に1つの情報さえ得る気が無くなる。
「なんか、気になる物を探そう」
「だな」
「解りました」
「変な物を探せば良いのよね!わかったわ!」
そうして、それぞれが散開しようとした足をママルが止める。
「あ、いや、てか…」
「なんだ?」
「……まぁ現在地は不明、にしても、この部屋を出る方法を探すのが先かも?」
「確かにのう。何か扉等も見つけ次第共有しとくれ」
それから約30分後。
上に続く階段と、下に続く階段が発見された。
どちらも深く長い螺旋階段になっており、その先は解らない。
上下どちらへ行くか、もしくはまだこの階を調べるか、
ママルに3択が迫られる。
「ま、まぁ、とりあえず探索範囲を広げよう、いつでも戻って来れるわけだし」
「つまり?上下どちらへ行くのだ?」
「……手分けする、のは、良くないか。うぅん…1/2………」
「いや、状況を考慮すると、そうもいかんと思うで…」
「つまり?」
「現在地の高さが解らんだろ?つまり、わしらがこれまで立っていた大地より、今は上なのか下なのか」
「そうよ、だから1/2じゃん」
「だが、アルタビエレの拠点だとすると、上下どちらにせよ、
生活空間があるはずだで。少なくとも、どれだけズボラな人間だろうとも。
寝床や食料を保存しておく空間などは特にな」
「まぁ、そうね、確かに」
「そして、いや、ちょっと妙な言い順になってしまってすまぬが。と言うか、1/2に引っかかっているのではなく、その生活空間は近いと考えるのが妥当ではないか?そして、そもそも出入り口が無い可能性もあるのではないか?」
「っ………、なるほど……いや、ちょ、ちょっと待って、てか、なら、この壁よ。
こいつを一回ぶっ壊してみよう」
「あぁ、確かに、地下であれば土が露出するはずだし、上階であれば外が見える筈だでな、それが一番よいな」
ママルは適当に、広く壁が露出している場所まで歩き、狙いを定めた。
「ほんじゃまぁ…、≪マジックスフィア:魔力球≫!」
発射された魔力の塊は、壁に着弾すると、石の様な物で出来ていた壁に半球状の穴が空く。だが、まだ先は見えない。
マジックスフィアの半径よりも深い壁になっている様だ。
「…厚いな…、≪マジックスフィア:魔力球≫≪マジックスフィア:魔力球≫≪マジックスフィア:魔力球≫」
適当に連射した、都合4発目のマジックスフィアが弾かれた。
石の様な壁は除去出来た物の、その先にある木材の様な壁を破壊できなかったのだ。それどころか、その壁には一切の傷もつけられていない。
「あ?…ま、まじかよ…」
ママルがちょっとショックを受けていると、テフラが前に出た。
「ちょっと失礼します……、≪尖裂爪≫!」
伸びた爪先で、穴に向かって突きを繰り出すが、
気力の刃は砕かれた。
「……魔法耐性とかでもなさそうですね…」
続けてママルは≪ファストラ:空間転移≫でぶつかってみたが、案の定弾かれた。
「………なんだ?この壁……妙に歪と言うか…」
「気になるなら、アプライで調べて見ればよかろう」
「た、確かに…≪アプライ:鑑定≫…………………」
「どうだ?」
「……………駄目だ、何も解らない」
「解らない?そんな事があるのか?」
「なんだろう、そもそも不発って言うか、発動は出来てるんだけどな……届いてない感じと言うか」
「ふむ…、何か、妙な細工がしてあるのか………?」
「や、やばくない…?これ、まじで、出入り口なければ詰みじゃん…」




