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155.轟雷

メイリーはスキル≪検眼≫でもって、即座にエイヴィルの身に起こった事象を把握した。


このスキルは、元々メイリーがもっていた性質に由来している。

いつも他人に興味を持ち、それでも拒否される恐怖から距離を保ち、

そうして周囲の人を、ある種の執着でもって観察するような癖があった、


それがハイクラス、スイーパーへ覚醒した時にスキルとなって顕れたものだ。



同じように≪魔覚≫も、その執着でもって人を見続け、道行く人さえ覚えようと努めていた結果習得したスキルだが、

特に当時は、結局人の本心を推し量るような事は出来ずに、

目の前の人が発する、表面を取り繕うような表情や言葉に一喜一憂していた。



それでも、今はきっと違うはずだ。


仲間はいつも自分を気に掛けてくれている。


時々おかしな事を言ってしまったんじゃないかと反省する事はあっても、

それを咎められた事はないし、それどころか笑顔で受け入れてくれる。


声を出したら聞いてくれる。

出さなくても、暗い気持ちになっているだけで気に掛けてくれる。

歩いているとき、少し遅れて一番後ろを歩く私に、

時々視線を向けてくれるのが嬉しい。


3人と出会ってから、それ以外の人達ともうまく行っている気がする。

どうしてだろう。心が寄りかかれる場所があるだけで、こんなに嬉しい。



戦いなんてしたくはない。

命を懸けて暴力を振るい合う、それはとても悍ましく、緊張で頭の奥が痛くなる。

戦いが終わった後は、その安心感で泣きたくなる。


でも、それでも頑張りたい理由があるんだ。


いけない。今はそんな事を考えている場合ではない。



自分の能力では、今のエイヴィルを倒す算段が思いつかない。

だから≪羅刹胎慟・黒縄≫を解除し、逃げる様に飛び出した。


≪魔覚≫によりエイヴィルが自分を追って来ているのが解る。


(よし…ユリちゃんとテフラちゃんの方へは行っていない。それならこのまま!)




しばらく宙を高速で駆けたメイリーは、勢いそのままに賢王ワイズの元へと着地した。


周囲は大小様々な氷塊や、血痕が散らばっている異様な景色だが、

それを無視してワイズの元に近寄る。


「!!なっ……、き、君は…メイリー殿…」

「お、王様!!王様は!色々!沢山魔法使えるのよね!!」

「…あ、あぁ、そう、だが…?いや、ママル殿!ど、どうしたのだ!!」


メイリーが抱えるママルを注視したワイズが声を荒げる。


「敵のスキルか何かで寝ちゃってて…その敵も、どう倒したら良いか解らなくて!」

「寝て……なるほど…まさか連絡のつかない軍の者達も…。それに、敵だと…?」

「攻撃で触れないの!ど、どうにかなりませんか!王様!」

「さ、触れない?どういう…」


それからメイリーのたどたどしい説明を聞いていると、

空を飛行して来たエイヴィルが追いつき、声を張り上げる。


「おいおいおいおい!!賢王様を頼るとはねぇ!…でもいいさ、私はもう、無敵になったんだ」

「!!!こ、こいつか…!」


ワイズは王笏を構え、空中に居るエイヴィルと対峙すると、

遠巻きに見ていた兵士達が慌ただしく騒ぎ出すが、

エイヴィルはそれを無視して、なんとも怪しげな口調で賢王に話しかけた。



「賢王様…、私が誰だかお解りになって?」

「………まさか……、エイヴィル…、エイヴィル=メルエットか?」

「うふふ…流石だわ、賢王様、私がこんな姿になっても、ちゃんと解るだなんて」

「…顔、表情の作り方、声色、その抑揚…、十二分に、面影がある…」

「……ありがとうございます。……さて、それで?」

「……?…何が望みだ…?」


「今、魔王は寝ているわ。私のスキルに加えて睡眠薬も飲ませたからね、まだ暫く夢に沈んだままのハズよ」

「……………………何が言いたい」




「………今なら、殺れるでしょう?」




賢王は弾かれた様に、再びママルに視線を送る。

それを受けて、メイリーはママルを強く抱きしめて後退した。


「………………………………」

「私は、エイヴィル=メルエット。メルエット孤児院で育った…。親の愛情を受けられなかったと涙する日もあったわ。

それでも、院長先生は優しかったし、私は、この国が大好き!愛しているのよ!」

「………………………………」

「国を想う国民と、伝説の厄災、魔王。どちらを選ぶか、本当はわざわざ聞くまでも無いのでしょうけど」

「………………………………」



「お、王様だって、もし!酷い事するなら…っ!」

「メイリー…、メイリーや。お前は本当に馬鹿なんだね」

「な、何が…どうして…、別に、私が馬鹿だって、構わないわ…」

「はぁ…、まぁ、開き直ってちゃ仕方ない。今はね、賢王様の意見を聞いているのよ。まずは、その返答を聞かなきゃ。そうでしょう?」

「…………」



ワイズは、あらゆる物事を観察する。

あらゆる事象を考える。

あらゆる記憶を掘り起こす。

未来を、想定する。


そして。



「ふっ………はっはっはっは!!」

「?…何か、面白い事でもありましたか?」

「いやな…、私は………私の判断は、正しい。重要な切っ掛けは得ていた」

「…つまり?」

「自身の直観に従い、単身で会っておいて、良かった」

「何?」


すると、ワイズは遠く背後に控える兵達に聞こえる様に声を張り上げた。

「コードL!!≪パーマフロスト:氷棺≫!!」



王笏から亜音速の冷気が放たれた。

それは一瞬でエイヴィルを包み込み、周囲一帯を完全に凍結させると、

巨大な氷塊となったエイヴィルが地に落下する。


「捕らえたぞ!!!本体に触れられなくとも!目に見える体があるのなら!

逃げ場を完全に遮断したと言う訳だ!!そして!≪キュムロス:積乱雲≫!!」



氷塊の頭上に、雲が沸き上がった。

そして先程伝えられた作戦コードにより、兵士達の準備も万端だ。


雲に向かって、兵士達が各々、魔道武具や魔法を使い、

雷系魔法を次々と打ち込んでいく。


「もっと溜めるんだ!!例え肉体を攻撃することが出来なくとも!

強大な魔力は、相手の魔力に、そして精神力に干渉し消耗させる事が出来る!

全員の魔力を全て集める気で撃ち込めぇ!!!!」


「「「「うおおおおおおぉぉぉ!!!」」」」



「……私は、何が敵かを間違えない…。だが、会ったタイミングも、ギリギリだったかもな…。おそらく、不信感を持たれる直前、そして、この内乱が起こる直前…。運が良かったと言うべきか」



雲はチカチカと稲光を発生させ、今にも爆発しそうに蠢いているように見える。



ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…………



「終わりだ!エイヴィル!!悪魔に堕ちたその身を!国王として焼き滅ぼす!!

≪トールハンマー:雷鎚≫!!!」




凄まじい爆音が周囲に轟いた。

眩い稲光が、宵闇を白に照らす。

エイヴィルを包んでいる氷塊は一瞬で蒸発し、水蒸気が辺りに舞った。



「はぁ……はぁ……、ど、どうだ…っ?!」


ワイズが目を向けた先には、エイヴィルが先程と同じ姿で立っていた。


「……そう、解ったわ。賢王様も、私を攻撃するのね…」

「なっ!む、無傷!!?」

「…受ける時、魔力防御を切ったのよ。肉体のみで受ければ、当然なんの効果も無いわ…。賢王様…。ワイズ!!どうして!私は!少なくとも!お前の判断、裁決は信じていたのに!!」


「…………………ふ、ふふ、ははは……。信じてくれていい。良いんだ」

「い!今!私を殺そうとした口が何を言ってんだ!!!」

「私は、私が思う事を絶対だとは思っていない。だから、人に頼りたくなる事もある。……そんな私の判断は、間違っていると思うかね」

「あ?……何を言って…、お、お前が決める事だろう!この国の!善悪も!生き死にも!その責任を放棄するのか!」


ワイズは、とても苦しそうな表情で答える。

「…そうだ。委ねる。先程のトールハンマーは、もう一つの意味がある…。

状況から判断した。ママル殿も、プロテッドの軍も、おそらく一般民に至るまで。

おそらくただ、寝ていた者の目覚めを阻害しているな…。この範囲、貴様なら国の結界を利用していてもおかしくはないが、それでも、その効果は完全な昏睡状態に至る程な筈がない。…そして、うまく行った様だ」



ワイズの視線の先では、トールハンマーの轟音に目を覚ましたママルが周囲を見回していた。

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