151.魔人
深夜、居住区で夜間警備巡回を行っている兵士が居た。
彼、レナード=フォーゲンはいつもの様に定められたルートを歩いていると、
公園から物音が聞こえて来る。
「…はぁ、またか」
本来子供達の遊び場だったり、住民の休憩所として設営されているのにも関わらず、深夜となると、度々若いカップルが乳繰り合ったりしていて、
それだけであればよいのだが、トイレや倉庫、遊具等を汚されてはたまったものでは無い。先日も飲食物等のゴミが放置されていた。
レナードはなんとも苛立つ気持ちを押さえながら、公園の中へと足を踏み入れた。
すると、水気を帯びた音が聞こえてくる。
ペチャ…ピチャ…クチャ…
奥に人影が見える。
「チッ…」
そうレナードが舌打ちした途端、想定外の異音が響いた。
バキッ…ベキッ!
「…なんだ?おい、そこで何してる!」
懐中電灯の様な魔道具を、音のした方向へと向けた。
すると、しゃがんでいる男が居た。彼の目の前には、横たわった女。
そして、尻の下には横たわった人間がいる。
「おっ!おい!…お、お前は…」
よくよく見ると、その男の両手には、人間の脚が一本握られていた。
女は片腕と、片足が欠損している。
尻に敷かれている人間は、頭部がない。
何より、辺り一面が、真っ赤に染まっていた。
「ンだお前…邪魔すンな…よ…、あぁ、ウめぇなァ……」
そう言う男の口は大きく割け、全ての歯が鋭く尖っている。
一瞬混乱しかけたレナードは、血の気が引きそうになりながらも、即座にシーバーを取り出した。
「お、応援を!居住区西地区の、っ!!」
男は、手に持っていた骨を投げつけると、それが直撃したシーバーは破壊される。
「く、くそっ!!」
レナードは剣を抜いて構える。
「邪魔スんな、っつッテんの」
「な、なんだお前は!そ、その人達は、し、死んでいるのか?!殺したのか?」
「はっハ…、そリゃオ前、食ッテる物が動いてタラ、嫌ダろうが…、ヤっぱ特ニ若い女がウメぇわ…」
「に、人間、なのか?」
「半分な…?モう半分は…、喰種。最高ダぜ…、悪魔のチカラっテのはヨぉ…」
「は?…………はっ……はっ……はっ…………フ…≪ファイアブレイド:炎剣≫!!」
スキルによって、レナードの剣がパチパチッと火花を散らした。
プロテッドの兵士が扱う剣は、ワンドソードと呼ばれる魔道武具だ。
杖と剣の機能を一体化したもので、刀身に魔力を流し操作することが出来る。
攻撃スキルを予感した男は、手に持っていた脚を手放すとレナードに襲い掛かった。
右手が大きく振り回され、レナードに迫る。
その指先は、人間にしては太く、長く、爪が鋭い。
レナードが剣で受け止めると、金属音の様な物が鳴り響き、その剣から炎が上がった。
触れた途端に炎が上がったのは≪ファイアブレイド:炎剣≫の効果だ。
だが、問題はそんな事ではない。
掌を剣で受け止めたと言うのに、硬質な音と感触。
異様に伸びた指先が、鋭い刃物の様に尖り、先程襲っていた人間の血がこびりついている。
人間を解体するのに適した手である事を、レナードは嫌でも感じ取ってしまう。
「く、くそぉ!!」
男の胸部を狙って突きを繰り出すと、素早く、大きく後退されて躱された。
距離が開いた男に向かって、剣の切っ先を向ける。
「≪ショット:射出≫!!」
剣から炎の塊が発射されるが、男はそれを素手で弾き飛ばした。
公園を囲む木に着弾し、その痕は黒焦げになっている。
「し、≪ショット:射出≫!!≪ショット:射出≫!≪ショット:射出≫!!」
男はまた2度弾き飛ばし、都合4度目の魔法を躱しながら一気に距離を詰めると、
左右の腕で何度も攻撃を仕掛ける。
レナードはそれを必死で、剣で捌く。
20秒程攻防を続け、また互いに距離をとったが、
レナードは全てを捌けてはおらず、いくつも裂傷を負い、血が流れ出している。
「ハァッ…ハァッ……く、くそっ!」
「はッハッハ!…素手で兵士様とやりアエてるゼ!マじでスゲぇよ俺!…はぁ…、たマんねぇナァ!!おィ!!!」
そしてまた男は、レナードに向かって突っ込んで行くと。
第三者の声が公園に響いた。
「≪エレキシューター:電射撃≫!!」
バチッと音を鳴らし、発射された電力が剣から男に向かって奔る。
「い、いきなり攻撃してしまったが…な、なんだこいつは…」
「ホ、ホープさん!!!」
「君は…、レナードさん、だったか?状況を説明して欲しい」
「イッ…てぇ…なぁ…、クそ…、テめぇも…殺シテ…喰ってヤルゥ!!」
「≪ファストブレイド:速剣≫!!」
ホープはスキルで自身の剣速を上げ、男の攻撃を剣で受け切っている。
「あ、悪魔の力がどうとかって!まともじゃない!既に2人殺されています!!私のシーバーも破壊され」
そこまで言った瞬間、目の前にシーバーが飛んで来て、慌ててキャッチする。
「僕のです!使って!今すぐ病院に行けと言いたい所!だが!まずは!」
「わ、解りました!」
「ゥぶルぅあアアアアァァァッッ!!!!」
男の全力の一撃によって、ホープの剣の刀身が半分に折れて飛んでいく。
「≪エレキシューター:電射撃≫!!」
「ガッ!…く、オアアァァ!!」
男は一瞬怯むも、またもや突っ込んで来る。
―約3分の死闘の後
「はぁ………はぁ………はぁ………」
「応援の到着は、もう少しかかりそうですが…やれましたね…ホープさん……」
「あ……あぁ、レナードさんの援護のおかげですよ…」
炎と電気の魔法を受け、焼け焦げ、レナードの剣が心臓へ突き刺さり、男は屍となっている。
レナードとホープは全身に裂傷を負い、満身創痍だ。
「応援、ではなく……救急を…呼んでもらえば、良かったかな…はは」
そう言いながら、ホープはその場に腰を下ろした。
「い、今、改めて救急にも連絡しました…、それにしても、よくぞ、助けに来てくれました…どうしてここが…」
「たまたま、だったけど。散歩してたら、少し、魔法の、炎の明かりが見えたからね」
「そ、そうでしたか…」
それから数分経ち、ようやく誰かの足音が聞こえて来た。
2人は音のする方へと目を向ける。
辺りは暗いが、所々に設置された魔道具が、公園内を照らしている。
暗がりから照明の当たる場所へと足を踏み入れて来た者は3人だ、
その3人は、現場を見るなり会話を始めた。
「アぁ?…喰種のチカラを使っテ、負ケてる奴がイんぞ…」
「はッハ…、1人デ突っ走っタ馬鹿か。あイツも食っチまおう」
「魔人の味かァ、楽シミじゃネぇか…」




