150.武器
「ママル殿、武器を見せてくれないか。あのゴーレムを倒した時の物を、是非改めて見てみたくてな」
「え、まぁ、良いですけど…」
そう言ってママルは水晶を取り出し、両手で持って見せる。
「持っとかないと、意識で勝手にフワフワ動いちゃうので」
「?!い、今!無から…転移か?」
「いえ…まぁこれは、そう言う物だと思っといて下さい…」
「う、うむ…そうか…、それで、何故、水晶なのだ?」
「えっと…、何ででしょうね?」
(ゲーム作った人にしか解らん)
「一般的に、魔法士が武器を持とうと思ったら杖の類になるだろう?」
「まぁ、そうかもしれませんけど……、逆になんで杖になるんですかね?」
「それは、自身の魔力を扱いやすくするためだな。樹や石等が原材料になる事が多いため、杖の様な形が取りやすい。だが真球の水晶では、魔力を押し込む力が強く、指向性も持ちにくいだろう?」
「……えっと、魔力の扱い?」
「魔力操作だな、至高な武器ほど、より精度が高く自身の魔力を扱える」
「魔力自体を高める効果はないんですか?」
「…武器自体を触媒とする、つまり言い換えると、杖を持っている事が発動条件となった魔法は、素手よりも強力になる傾向はある。魔法では無いが、剣のスキルを想像して貰えると解り易いと思うが」
「杖自体に、魔力を高める効果は無いんですかね…」
「武器で、魔力を高める…、そんな事が出来たら、現在の魔法体系は根本が覆るな」
「……俺の武器は、出来ると思いますが」
「……は?」
賢王は、カース・ウルテマ・ウェポンをガッと掴むと、その瞳を近づけた。
「す、少し、私が魔力を流してみても良いだろうか…?」
「え?あぁ、構いませんけど、出来るのかな?他の人に触らせた事はないんですが…」
「たっ、試すだけ!試させてくれ!!」
そう言うと、賢王の魔力が水晶へと流れ、鈍い光を発する。
「おー、出来るんですね。いい発見だ」
「おっ!おわああああああっ!!!!!」
賢王は、椅子毎後ろにひっくり返った。
直ぐにママル達全員が心配する様な声を上げる。
「す、す、すまない…、ほ、本当に…、魔力自体が、増している…、ど、どうか!どうか!譲って、いや、貸して頂けないだろうか!」
「いえ、すみません、これ、俺から離れると、消えて俺の元に戻っちゃうので…」
「……………………」
賢王は、暫くポカンとした顔でママルを見つめる。
ママルは水晶を浮かび上がらせると、そのままスイッと指先で操作し5メートル程離した。
その瞬間に、パッと消失する。
ママルはアイテム袋に戻った水晶をもう一度取り出して見せた。
「はっ…はっ、ははははっ!はっはっはっはっ!!!」
突然爆笑しだした賢王に、一行は驚愕の目を向ける。
「はーーーーっ…、いや、理解したよ。君は、私が図り切れる者では無い」
「そ…、そう、ですか…」
「すまなかったな、色々と、ありがとう」
「いえ、全然………………あの、賢王様のその武器は、どう言う効果なんですか?」
「はは、武器か……。この王笏には、私の魔力のみに反応するよう改造した魔石や、様々な魔法陣、触媒が組み込まれている」
「へ~、専用装備かぁ」
「そういう訳だな」
「あ、ってかそう言えば、ユリちゃんはなんで武器使わないの?」
「前に話した、魔法陣が扱えないのと同じ理由だで。杖には、まともに魔力が通らん」
「ちょっと、俺の武器で試してみてよ」
「まぁ、よいが…、出来る気はせんなぁ」
「………出来てない?」
「……出来とるな」
「もっと早く試しとくべきだったかぁ……、ちなみに、テフラさんは何で武器使わないんですか?」
今まさに、大口を開けて肉を頬張ろうとしていたテフラが手を止めた。
「んあ、わ、私ですか?…え、えっと、獣人、と言うか、ワーウルフとワーキャットなんかは、指先が人間程器用じゃないですからね。手甲と一体型のクローみたいな武器も考えた事はありますが、初速が鈍ってしまいますし、そもそも攻撃力は素手で十分足りてますからねぇ…。剣のリーチなんかは魅力ですが………ほら、人間よりも指が短いでしょう?」
そう言って、手をパーの形にしてママルの方へ向けた。
「なるほどー」
「ほう、興味深い、私にも、よく見せて貰ってもよいだろうか…」
「まぁ、構いませんが」
賢王はテフラへ近づくと、その手を両手で握り、親指で肉球に触れた。
ママルは思わず、賢王を制止する。
「ちょいちょい!お触り厳禁!!」
―――
結局夜まで賢王と過ごした後、ママル達はまた部屋へと戻って来た。
「ママルちゃん、王様と随分仲良くなったわねぇ」
「いやぁ、聞けば何でも応えてくれるし、面白いわ。良い人だし。警戒する必要ない気がしたな」
「まぁ、そうだな…以前のジュニファの話ではないが、あれほどの男が、あぁいう風にいられるのも、なんとも不思議なものだのう」
「ジュニファさんのて、あぁ、名声だとかを得たくなるのが普通だって話か‥。あの人は賢いからじゃない?」
「かっ…、いや、まぁ、確かにな…、賢さとは、知識の深さだけを意味するのではないと言う事か…」
「ふふふふ……」
「テフラさん、どうしたんですか?」
「いえ、その…ママルさんの過保護って、私にも及んでるんですね」
「えっ…い、いやっ、てか、ちょっと、まぁ…」
「あ、手ですか?…ワーウルフの肉球は結構硬いから、触ってもそんなに面白くないですよ?」
「そ、そうなんですね…」
(犬ってそうだけど、やっぱワーウルフもそうなのか…)
「はい、どーぞ」
テフラがそう言って掌を差し出して来る。
「えっ、じゃ、じゃあ…」
「わしもちょっと気になるな」
「私もー!」
気づけば、室内はテフラの手揉み会場と化していた。




