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149.受託

国家運営棟、罪人収容施設。という物がある。


プロテッドで犯罪に手を染めた者は裁判にかけられ、

その最終判決は全てワイズ王が決めている。


罪人収容施設に送られた者は、刑期に沿って更生プログラムを受け、

その過程やその後の状態を持って、死刑となる場合もある。


更生プログラムの最長期間は10年だ。



人の言動や表情を読み解くのが得意なワイズと、動悸、脈拍等を図る魔法によって、この施設が出来て以降、たった一度の冤罪もない、ある意味では完璧なシステムだ。



そんな施設の門を叩く女が居た。


「おや、エイヴィルさん、どうしました?こんな所に」


門の見張り番からそう声をかけられたエイヴィルは、涼しい顔で返答する。

「視察に来たのよ、ちょっと用があってね」

「…そうでしたか?…しかし、その様な話は伺っておりませんが…」

「はぁ?…あんた、何だっけ?名前よ、名前。そんな仕事ぶりで許させると思ってるの?」

「す、すみません…、その…」

「私は魔道武具研究部門の部門長よ?それと、確認する相手、罪人収容施設の施設長、あなたの不手際1つで、この2人の時間を消費している。これがどういう事かお解り?」


「ですが…す、すみません……、ここの性質上、確認を怠る訳にも…大至急確認致しますので…」


見張り番は、通信の魔道具、シーバーを手にし、エイヴィルから視線を逸らした。



するとエイヴィルは舌打ちを鳴らし。自身の背中からコッソリと1つの魔道武具を取り出す。

今手にしたものはエレキ・ガンと名付けられている。

国内でも、決して一般人が手に入れられる代物ではない。


グリップ部分に魔導核が使用されており、筒に当たる部分には雷球を発射するための魔法陣が刻み込まれている。

そしてそのトリガーを引くと、バチンッ!と音を鳴らし、見張り番は痛みと混乱で一瞬硬直した。

そこへ続けて2発、3発と打ち込まれて、見張り番は気絶する。


倒れているその足を、エイヴィルは掴み、引き摺って塀の隅へと押し込む様にして隠すと、更に何度もエレキ・ガンを打ち込む。次第に見張り番の体から煙が上がり始めた。


(こいつは、いらない。呪力が殆ど無い、やはり、罪人が必要だわ)



その足で、罪人収容施設内へと踏み入れると、

看守をやっている人にも、次々と、油断させてはエレキ・ガンを打ち込む。


そして、立ち並ぶ牢の中心へと辿り着いた。

囚人達に見守られながら、エイヴィルは声を上げる。


「ふふふ…あーっはっはっは!さぁ!脱獄したい人はいない?!いたら、私のスキルに同意して頂戴!………≪レギオン:徴兵令≫!!」


だが、囚人達は当然、そんなエイヴィルに怪訝な目を向ける。

「なんだぁ…?」「わけわかんねぇ…」「脱獄って…俺はもう2か月もあれば出られるんだ」

「おいババア!てめぇ何してんだ!!看守ーーーっ!!どこ行ったー!」


「悪魔の力、それはあまりにも甘美で特異!超常を超えた能力を持っている!

人の欲念と同化すれば、新たなる理さえ生み出せるのよ!」


「何言ってんだ!!ふざけてんのか?!」「イカレやがって!看守はどうした!てめぇまさか!」



「あぁ…お前たちは!人が形成する社会で!許されない欲を抱えた!だから罪人となったのでしょう?!!私が!悪魔が!あなた達を解放してあげる!!この世界から!愛の力で!」


エイヴィルは、天を仰ぐように両手を掲げ、何かに祈るような仕草を見せる。



「…あ?」「さっきから…舞台でもやってるつもりか…?」

「…俺は精神系の医療魔法研究棟に勤めていたんだが、ありゃ精神疾患だな…。

演技性パーソナリティ障害の一種だろう」

「…わっかんねぇけど、マジでイカれてるって事かぁ?」


次第に囚人達から、呆れた様な声や怒号も響き始める。

そんな中、牢屋の隅で、壁にもたれて座っている男が居た。

グエス=ルーテス。現在、唯一死刑判決が出ている囚人の彼が、小さく呟いた。


「………俺はどうせ死ぬしかない…。何でもいい、試してやる。レギオンとか言うスキルに同意する」




――――




「ママル殿…………、アルタビエレとは、どのような決着を?」

「えっ!………知って…るんですね…」

「…昔、魔法研究を共にしてな…。外界の情報等も聞いたりしていた」

「………………」

「勘違いしないで欲しいのだが、私は、奴の魔法知識への興味とは別に、奴自信を、疎ましく、恐怖に思っていた。だから、死んだのならば…………安心する」

「………俺のスキルで、灰になりましたよ。あいつ自信の悪感情エネルギーによって」

「…………そうか」


「あの、では渡したのがアルタビエレの服だって、解ってたって事ですよね?」

「………すまないな」

「いえ、いきなり話せないのは解りますし。その、じゃああの魔法陣、あと何が解らない感じなんです?」

「転移先と、転移する者の対象だな」

「対象…?使った人じゃないんですか?」


「……例えば、個人だけを認識する物だとしたら、転移先でその者は素っ裸になるだろう?」

「えっ、く、くくっ……、いや、…確かに。なるほど…」

(いかん、アホな絵を想像してしまった。…個人とはあくまでその生物単体。

持ち物は含まれない。と言うか、どこまで含むのかって話か?)


「どこまでを個人と認識させるのか、それは人間、いやすまない、人が持つ感覚でなければ成し得ない。衣服は勿論、例えば鞄、その中身。或いは人の体内。胃や腸の中とかな。その感覚を読み解くと言う事が、実に難しい」

「…単純に、個人じゃなくて、範囲を転移してるって説は?」

「勿論その線も当たっている。だが、範囲であればその境界線上に存在している物はどうなるのか…」

「えっと…アルタビエレの魔法で、境界線上でちょん切られてたのは見た事ありますけど…」

「……それは、…何を?」

「えっと、人の腕だけを残して消えたんですけど。ゲート、とかってスキルだったかな…。俺をそれに入れる事は出来なかったみたいですが」

「ゲートとはどの様な魔法だった?」

「えっと…、なんか楕円形の空間を出して、それを自在に、位置とか大きさを変えて、多分その空間が、別のどこかに繋がってるみたいな奴なんじゃないかなぁと…」


「うぅむ…、であればやはり、今回の物とは理屈が違うな…。言ってみれば、その空間そのもので範囲を指定している訳であり、目に見える魔力体で区切っているとも言えるからして、境界線上をハッキリと区切る事が出来る、のではないか?」

「…なるほど…」

(解らん、いや、なんとなくは解るけど)


「同様に、転移先ではどうなるのか。基本的には、押しのける。もしくは転移元と入れ替える、が妥当な所だと思うのだが……、この辺りの理屈も、聞く限りゲートとやらのスキルとは違うだろう?」

「ま、まぁ…確かに」



「今はその専門家に見て貰っておるのだろ?もう少し待ってみようではないか」

「そ、そうだね」

「うぅむ…すまないな」

「いえ、こっちがお願いしてる立場なんですから、お気になさらず…」



すると、賢王は神妙な面持ちで、改まってママルに問いかけた。

「それと、もう一つ聞いておきたいのだが、良いだろうか?」

「え、はい。答えられる事であれば…」

「…………………人を殺す時、どう思う?」

「え?………その、なんでですか?」

「……悪魔憑き、いや、モンスターの様な人は、何人も死刑にしてきた。

死刑宣告する事も、そのトリガーを引く事も、私が行っている。

今も、死を待つだけの人も牢にいる」

「………そんな事まで、あなたがやらなくても………」

「……私が作った国、私が作った法律なのだ…、だから、私が背負う必要がある」


「……………俺は、いつも、最悪だなって。なんて言うか、色んな事にイライラしている様な、……どうして皆、ただ平和に生きるって事が出来ないのかと。そういう怒りを、ぶつけてるんだと思います」

「………罪悪感に、苛まれたりはしないか?」

「………………………………悪いと思うなら、やらなければ良いだけです」


そう返すママルの表情から何かを読み取った賢王は、

ママルの手を、両手で強く握りしめた。

「………ぉぉ……そうだ……そうだよなぁ………、悪いと思いながら殺すなら、殺さなければいいのだ…、だから、悪いと思いながらやる事の方が、より、悪い事をしている気になるのだろう?…解るぞ………そうだよなぁ……」


「賢王様…酔ってますか?」


そう言う賢王とママルは、互いに少し声が震えていた。

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