146.憶測
酒場で2時間程飲んだ後、ホープとは別れた。
テフラと2人で、ホテルへの帰路を歩いている。
すると、女の悲鳴が聞こえて来た。
「や、やめてぇ~!」
「な、なんですかね、今の…」
「ちょっと、確認しましょう…」
2人は、声のした方向に駆け出す。
そして路地裏を見ると、2人の男が、女に襲い掛かろうとしていた。
「お、お前~、いい女だなあ~…、ぐへへへ」
「大人しくしてろよ~…、き、気持ちよくさせて、…させてやっからよぉ~」
「きゃー、やめてええ、たすけてーー、誰かーーー」
ママルは即座に≪パラライズ:金縛り≫を2度唱え、男2人を拘束した。
「えっと、動けなくしたんで、兵士とか、呼んできてください」
「…暴漢て…、ほんとどうしようもないですね~」
「ね~」
「え?…あ、あの…」
一瞬の出来事に困惑しつつこちらを見る女は、少女の様な見た目の雰囲気とは裏腹に、何とも妖艶な空気を纏っている気がする。
「≪アプライ:鑑定≫……こいつら2人共モンスターじゃねーのかよ…、嘘だろ?ありえねーーっ!」
「モンスターって、ほんと線引きが難しいですよねぇ」
「あ、あの!」
そう言って、女はママルに抱き着いて来た。
豊満な胸に、顔が埋もれる。
「ちょ、ちょっ!」
「こ、怖かったあ!ありがとうございます!!」
「い、いえ…、その…」
「よ、良かったら、ウチに来ませんか?その…、お礼をしたくって…」
「は?…いや、そ、その前に、ってか…は、離れて…」
「ね、ねぇ…。お願い…。とっても感謝してるの!…、す、好きになっちゃったから…」
その瞬間、ママルは女を突き飛ばした。
「痛っ」
「ご、ごめんなさい…いや、てか、何?」
「…え?」
「何か、操られてる…?そう言う魔法とか…」
「え?…いえ、どうしてそんな事を」
「いや、じゃあ意味解んない…急に好きとか…こわっ……」
「な、なんで?私を救ってくれたあなたが!好きになっちゃったの!」
「……人格が…中身ってものが、ないのか?…人の感情が、そんな簡単な訳ないだろ…何考えてんだ…」
「ひ!一目惚れ!!運命の出会い!そう言うのってあるでしょ!!」
「ま、まぁ…あるかも、しれないけど…、ってか、まず兵士呼べっつってんの…」
「こ、こいつらはもういいのよ!だ、だからさ、ほら、おいで?」
女は、やけに艶のある表情で、両手を広げてママルに向き合った。
「え、遠慮します…、テフラさん、行きましょう……」
「そう…ですね……」
2人は、逃げる様に路地裏を後にした。
そこに、数分してホープが姿を現す。
「ちょっと、ホープさん!話が違うじゃない!」
「お、お前らの演技が下手くそだったんじゃないのか?」
「そんな感じじゃなかったぜ!それに、こっちはマジで死ぬかと思ったんだぞ!」
「声かけるより先に魔法使って来やがった…一瞬で動けなくなったんだぞ!とんでもねぇ恐怖だった!倒れた時に打った顔もいてぇしよぉ!!」
「…女は1万、男は3万テッド。医療費別。それでいいか?」
「おいおいおい」「足りないわよ!」「見ろ!この傷を!」
――
『はい、それで、女をあてがってみようと思ったのですが、それもなんとも…』
「……ホープ…貴様は…はぁ…、いや……」
賢王は呆れる声を隠す事も出来ない。
『な、何か…、すみません、至らぬ点を、ご教授頂きたく…』
「…魔王は、獣人だろ…。人間が色仕掛けする事が、そもそも間違っていると、何故解らんのか…。確かに篭絡とは言ったが、他にやりようはあるだろうに……」
(そ、そうか…!確かに、賢王様は、色仕掛け的な話は、他の者に手をださない理由として話されただけ…、くそっ!何と言う早とちりを…っ!)
『……す、すみません!!!思い至らず…』
すると、賢王にとって代わるかの如くモリスが話し始める。
「まさか貴様、自分が選ばれたのが、その顔だからと思っているのだろう!」
『……い…いえ…』
「嘘をつくな!だからこんな方向に行ったのだ!相手は高位の魔法士だ!貴様の魔法学なら、必ず魔王は興味を示すはずだと」
「モリス…、もう良い……、ホープも、解った。私が愚かだったのだ…。
やはり、通達の内容を、改めよう」
そう言う賢王は1人頭を抱えていた。
――
ホテルに戻ったママル達は、あった出来事を愚痴半分、面白半分に話している。
「って事があってさぁ」
「何か、おかしいですよね…」
「うぅむ……、店でやたらと奉仕でもされた感じと、繋がっとるのかもな?」
「……えぇ?…まさかあ、てかどうやって」
「例えば、ママルを手籠めにしようとしとる、とか」
「…なんで?」
「お主の強さが伝わっておる可能性は、十分すぎるほどあるからの」
「………まぁ、でも、それを一般人が?」
「…一般人であると言う確証はないと思うが…」
「なんか変な男にナンパもされたしさぁ…」
「……待て、2度もあった?男女で…、そうか、本当にそうかもしれん」
「いや、女の人の方は別にナンパじゃないけど……え、まじ?」
「お主、来た時、正直に閻魔王とそのまま書いただろ。そして賢王はそれを確認しとる。賢王と言うくらいの者ならば、名前から何かを察する事も出来たかもしれん。だからこそ、そのスキルを見せろと言った」
「…まぁ、確かに、そうかも?」
「ママルの閻魔王スキルを見た賢王の反応、驚愕している様だった。
ここまでは、まぁそうなるだろうなと気にしていなかったが、
それを受けて、何かをしようとしているのではないか?」
「………もし俺を利用しようとしてんだったら、…ちょっと考えないといけないな」
「相手は賢王と言われるほどの知性の持ち主だ…、わしらが自覚するまでもなく利用される可能性すらある」
「………なんか、この国めんどくさくなってきたな…」
「とは言え、アルタビエレの魔法陣が解明されるまで1週間くらい…、まだ何日もありますよ」
「そもそも、1週間もかからない、見た時に解ってた可能性すらある気がしてきました。あえて時間をかけるフリをしたってか…」
「…まぁ、ただの憶測でしかないからの、あまり深入りせん方がよいと思うが、
常に互いを、特にママルに気を配っておこうではないか」
「わ、解ったわ!変な人がいないか!ちゃんと見るから!」
「あの…、あくまで提案としてですが、ママルさんが閻魔王スキルをかけちゃうってのは駄目なんですか?モンスター化してなくて、カルマ値が大きく溜まっている人と言うのを、それで炙り出せそうな…」
「まぁ、出来ると言うか…、使った結果を見て判断する事は出来ますけど…、
相手に直接的な攻撃をしない≪アカーラ:金縛法≫でさえ、結構派手で…、
基本、大人ならどんな人間でも、鎖が一つも出ないって事はないと思うので、連発すると反動も結構エグそうな」
「わしらのこの考えが杞憂であった場合、ただ賢王に害を成そうとした者と見られ、誰も得しない結果になり得るか…」
「そうそう…」
「なるほど………」
「どうして、ただ仲良くする事がこんなに難しいのかしら…」
「…本当にそうだのう」
「だね…、あ~…くそ、頭痛くなってきた…酔っぱらってる時にこんなの考えたくねぇ~」
「わー…かります…」
「まぁ、今日の所はそろそろ寝よう。夜も遅いでな」




