144.接待
「こんにちはっ、ホープ=ハープネスと申しますっ」
ママルが扉を開けると、顔が良い男が頭を下げつつ挨拶してきた。
実に爽やかな笑顔が似合う。そして体格も、良い感じの細マッチョと言った所だ。
「ど、どうも…こんにちは…」
「今日は僕がご案内いたします」
「…カーラさんは?」
「少々体調が優れないらしく…、彼女の方が良かったですかね?」
「ま、まぁ、あまり人を変えられると、ちょっと…いえ、すみません、構いません」
「なるほどなるほど。ところで本日は、商業施設の方をご案内させて頂きます。
プロテッドでも賑わいが感じられる場所ですし、お食事もそちらで」
「……と言うか、その、案内人って、毎日、来る感じ、なんですかね…」
「…ご迷惑であれば、控えますが」
(正直、ずっと知らない人といるのは結構疲れる。でも商業施設は気になるな)
「と、とりあえず今日は、その、お願いします」
「承知いたしましたっ!それでは、ロテーターの方に」
「あっ、ちょっと!」
ママルはそう言いつつ、1人廊下へ出て、扉を閉めた。
「あの………」
「な、なんで…、ございましょう…」
「……部屋空けてる間に、備え付けの、性的な物を全部片づけておいて欲しいんですが」
「あっ!あぁ!そうですね!未成年もいらっしゃるとの事で!気が回らずすみません!ベッドメイクと共に、そのようにする様、手配いたします!」
「それと、あなたの事、一応魔法で見てもいいですか?」
「どっ…、……どうぞ、構いませんよ」
●人間:魔法士:ホープ=ハープネス Lv44 スキル不明
プロテッド国で兵士をしている。今年の魔法士闘技大会、新人部門で優勝した期待のルーキーで、一般民に人気がある。
その他詳細不明
「なるほど……、ありがとうございました」
「そ、それでは、先にロテーターの方で待機していますので、宜しくお願いします…」
――
ホテルからロテーターで5分程。わざわざ車を使うまでもないと感じる距離にある商業施設を5人で歩いていると、ホープに羨望の眼差しを向ける女性がよく目に入る。そして同時に、ママル達にも何か妙な視線を感じる。
(まぁ、初めてみる種族は、そりゃ気になるか………)
「やや!!ホーーーーープさん!!それに!あなたが方が!獣人なんて初めて見た!いやぁ!凄いなぁ!!なんて見目麗しい!」
通りがかる飲食店の中、持ち帰り用窓口から大袈裟な声をかけるおじさんがいた。
そんな声にホープが応える。
「やぁ、ありがとう…。ここはアイスクリーム屋さんです。食べますか?」
「アイス!ま~じか、食べたいかも」
「どういった物なのだ?」
「とっても甘くて、冷たくて、おいしいですよ」
「わ、私も食べたいわ!!」
「甘いのか…」
「テフラさん、試した方が良いですよ、アイスの甘さは、他とはちょっと違うので」
「なるほど、ママルさんがそう言うなら…」
「ではおじさん、お勧めを4つ」
「お主は食わんのか?」
「僕はいつでも食べられるからね」
「まぁ、そんなもんか」
「あい!毎度あり!!折角だ!特別に、タダで!ターーーダであげちゃうよぉ!!」
そう言いながら店の奥に引っ込み、注文を奥へと伝えていた。
そんなおじさんを眺めつつ、ママルは疑問に思っていた事をホープに問いかける。
「あの、そう言えば、お金ってどうなってるんですか?金貨とかならあるんですけど」
「金貨!お~~!この国の通貨は、全て紙幣ですよ、独自の製法で作る紙です。
ちなみに今のアイスは、買うと1つ200テッドですね」
「なるほど…」
「紙?!それが金になるのか?どういう理屈なのだ?テッドとは…」
「う~~ん…。要は、信用ですね。そういう社会を形成出来れば、なんだって成り立ちます」
「…な、なるほど…?」
「テッドがここでの貨幣単位って感じだね。ホープさん、換金ってできませんか?」
「金貨の換金は…どうでしょう…、聞いてみますね」
そう言ってホープは魔道具を構え、どこかと通話し始める。
「なんだあれは?」
「遠くの人と話してるんでしょ。こんな魔道具まであるのか…」
「…それは……流石に嘘だろ?転移魔法じゃあるまいし。
そんな事が可能なら、生活や戦いの根本が覆るでな」
「……まぁ、そうかもしれないけど…」
すぐに、通話を終えたホープが答える。
「嘘じゃないですよ。とは言え、この国の結界内でのみ使える魔道具なので、そう万能ではないんです」
「…な、なるほどのう……」
「そして、金はかなり貴重なので、買い取ってくれるそうです」
「おー、ありがとうございます」
「あい!お待ち!!苺のソフトクリームだよぉ!美味しいよぉ!!」
そう言って、先程のおじさんが皆にソフトクリームを手渡して行く。
「お、おいひ~~!!これは!なんと言うか、素晴らしいで!こ、こんな物が!」
「ん~~~っ!甘くて酸っぱくて、冷たくて、凄いわ!」
「凄く甘いのに、いけますね、結構クセになるって言うか…」
皆の感想に、おじさんはなんとも言えない表情をしながらママルに尋ねた。
「マっ…。お嬢ちゃんは、どうかな?」
「いや、うまいですよ。結構感動って言うか…」
「ぃよっしゃっ!!!」
「ははっ、なんですかそれ」
「い、いや!すまんね!嬉しくてね!はは…」
ママルは少し違和感を覚えていたが、
それから、他の飲食店や服屋、本屋、そして換金所ですら、似たような反応が見て取れた。
(これ…、俺ら、さては滅茶苦茶接待されてるな。なんでだ…?しかも、街中の人が…。ホープさんがそれだけ人気あるとか?…いや、うぅむ……)
―
「色々と気になる本を買ってしまったが…、すまんな、ママル」
「お衣装も着るの楽しみだわ!ママルちゃんありがとう!!」
「え?あぁ、気にしなくて良いけど」
「それでは、そろそろ夕時ですし、お食事にでも行きましょうか。お酒も嗜まれるとの事で」
「おっ。是非お願いします」
レストランに着くと、先に4人を案内させ、ホープは一旦席を外した。
「モリス様、伺っていた通りでした…、シーバーによる通信も、紙幣やテッドと言う単位、そう言った貨幣概念も、一瞬で理解していたようでした…」
『やはりな…。あの魔王は、賢王様には及ばんだろうが、近しいだけの頭脳がある。くれぐれも、うかつな事はするなよ。あ、……はい、承知しました。ホープ、賢王様と変わるぞ』
「は、はいっ!」
『魔王を篭絡する方はどうだ?』
「も、申し訳ありません…、あまり、手応えを感じておらず…、酒が好きらしいですし、その席でどうにか…」
『ふむ…、酒の席か…、他の者には手を出すなよ』
「そ、そうなのですか?数を揃えようと思っていたのですが…」
『良いか?…想像しろ……。自分が、男4人で、旅すがら、パーティーメンバーが現地の女に惚れこんで、となったら、リーダーであるお前だったらどう思う』
「…た、確かに。面倒くさいですね…色々と…」
『その点、魔王だけ落とせたなら、他はどうとでもなる』
「…さ、流石賢王様でございます…」
『吉報を待つ。尽力してくれ』
賢王がシーバーのスイッチを切ると、モリスが疑問を投げかけて来た。
「あの、ところで、賢王様。今朝早くの通達の件ですが」
「なんだ」
「4人、特にママルに気に入られた者に報酬を出すと言うのは…」
「解り易く、手っ取り早いだろう」
「…その、国民全員が、その真意を考えられるとは、思えなく…。
せめてその、露骨にならず、うまい事やれるよう注意を促すべきでは」
するとワイズはこめかみを抑え、ため息をついた。
「はぁ……そうか…、まぁ、悪い事にはならんだろ…、我が国の民ならば…、
ま、まずい、心配になってきたぞ…」




