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142.ホテル

ロテーターで30分以上かかって移動した後、

いかにも堅牢な建物の中を、いかにも厳重な扉をいくつも抜け、

一行はようやく王の間へと辿り着いた。



「私が、プロテッド国の王、ワイズ=プロテッドだ」

「は、はい…、その、えと、ママルです…」

(王様も…この建物の人達は、中世ファンタジーめいた衣装なんだな…)



「そなたらの名前は既に心得ておる」

「あ、はい…」


「それで?何か、魔法陣を見て欲しいんだったか…」

「はい、その、これなんですけど、どういう効果なのかなって…」


ママルは、リュックからアルタビエレの衣服を取り出した。



「…ふむ………なるほど……」

「な、何か解りますか?」

「………………………数日、くれないだろうか。

いや、1週間で良い、それまでに、必ず解明して見せる」

「あ、ありがとうございます…、助かります、けど、その、王様を1週間もとっちゃって平気、なんですかね…」

「いや、私は魔法が何よりも好きなんだ、非常に興味がある、すまないが、1週間、これを借りても良いだろうか?」

「は、はい…勿論………、ちゃ、ちゃんと返して下さいね」


「……勿論だとも…、それで、その、少し、君の魔法を見せて欲しいのだが…」

「えっ…、いや、まぁ、いいですけど…」


「賢王様!!さすがに危険では!!それに貴様!!さっきからなんだその口の利き方は!」

「モリスゥッ!!!!」


ワイズ国王は、恐ろしい剣幕でモリスと呼ばれた男を叱咤する。


「す……、すまなかったな…。見苦しい所を…」

「い、いえ……」

「それでは、頼む、……おい!」


ワイズが王の間から外に向かって声をかけると、

大きな扉が開き、一体の巨大なゴーレムが姿を現した。


以前ユリが倒した時の物より、大きく、そして何がしかの金属によって出来ていて堅そうだ。


「………えっと、どんな魔法を見せたら?」

「こいつは、ゴーレムガンマダッシュ、とにかく頑丈に出来ている。

これを屠る魔法があれば、見せてくれ。

当然、他に建物を含み、出来るだけ被害を出さないようにな……」

「なるほど……………。えっと、こいつは攻撃して来ないんですか?」

「当然、その様な回路は切ってある」

「じゃあ、入れて貰って良いですか?」

「……………必要な事なのか?」

「まぁ、はい…」


するとゴーレムガンマダッシュは一度扉の奥へと帰り、数分の後再び姿を現した。

ママルへ向かって威勢よく走って来る。

だが、その速度は遅い。


「えっと、じゃぁ」


ママルはイメージを固める。

相手は明らかに、こちらへ攻撃してきている。

それであれば、攻撃欲。悪感情エネルギー。つまり呪力がある。

自身の呪力をぶつける呪術スキルとは違い、

閻魔王スキルは対象の呪力を使う。


呪力の動き、対象の在り方。ただの鉱石なのであれば、精神も魂も無い。

どうやって動いているか見当もつかないが、

肉体に該当する、そのただの石へ狙いを研ぎ澄ます。


スキルによって現れる効果を、深くイメージする。


……万物の体は、やがて土へと還る。この星と一つになる様に。



「……≪ベイリアル:大地帰還(だいちへのきかん)≫」


ママルの武器から土色の球体が発射され、

ゴーレムに着弾した瞬間、球体はすっぽりと対象を覆い隠す様に拡張される。


するとゴーレムはパーツがバラバラとなって床を転がり、ピクリとも動かなくなった。

(まぁ、あの程度の呪力だと、こんなもんか…)


「…………は?」

驚愕するワイズとは裏腹に、モリスは疑問の表情を浮かべる。

「な、なぜ起き上がらない……賢王様…これは…」



「…えっと、これで良いですかね……?」

「あ、あっ…あ、ありがとう…、感謝する…、そ、それでは…よ、よろしく、頼む」



ママル達は、カーラに促されて退出した。



「っっっ…………はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!」

「賢王様!だ、大丈夫ですか?!」

「だ、大丈夫ではない!!モリス!!ふ、ふざけるな!!なんださっきのは!!」

「す、すみません!しかし!」

「しかしではない!!今のを見なかったのか?!感じなかったのか?!!!入って来た時から!あの異様な魔力を!!ゴーレムを見て来い!おそらく、内部の魔法陣そのものが消滅しているはずだ…っ!誰かが下手を打てば!プロテッドが国ごと壊滅するぞ!!!」



モリスは侮っていた、いかに強い相手であろうと、

賢王様と、自国の軍隊であれば、敵わぬ者は無いと。


「そ…それほどまで…」

「あれが、魔の王…、あれほどとは…、やはりこの目で見ておいて良かった…。

それに、この衣服、魔法陣、やはり間違いない、アルタビエレの物だ。

私が、プロテッド国が、唯一倒せないと踏んだアレと比べても……」


「な、何なのですか?そのアルタビエレと言うのは…」

「………転移魔法士……、と言えば伝わり易くはあるが、そんなものでは無い。

昔、少しだけ魔法研究を共にした事があるのだ…。アレは、狂人だ」

「転移魔法…、まぁ、賢王様もそう言った開発の取っ掛かりは得てますし…」

「違う、奴の場合は、自身の魔力のみでやってのけていた。

しかも、例えば視線の先や念じた先まで一瞬でだぞ、…次元が違う」

「そ、そんな事が……っ!……そ、その、狂人アルタビエレを、さっきの奴らが倒したと?」

「おそらくな…」

「わ、我々はどうすれば!!お知恵をお授け下さい!!」

「無論………。期限は一週間だ…、とりあえず、少なくとも、一旦っ、まずはっ、奴ら、彼女らに一切の不満を与えるな…、き、気に入ってもらわねばっ…………まずは、良好な関係構築のため…、政治色は抜きつつ…、く、くそっ!こんな事が!!凄い!はっは!!頭が回る!はっはっは!!楽しくなってきたぞ!」





――




「お主、さっきのも閻魔王スキルだよな。またとんでもないのう…」

「まぁ、そうだね」

「…やはり、気持ちのよい物ではないか?」

「なんとなくね…、でも呪術だと通らないし、マジックスフィアだと、結構めんどそうだったから…」


「そうか……なるほどな。ところであれ、渡して良かったのか?」

「一応さ…、いざとなったら、力づくでも、どうとでもなるかなって…。

メイリーさんがモンスターじゃないのは確認済みだし」

「どこかにいたら、直ぐに教えるわ!」

「ま~じ助かる~~」




「ママル様方…お宿へ、ご案内いたしますので」


先頭を歩くカーラにそう言われて、またロテーターへと乗り込んだ。


「いや………、カーラよ、考えてみたら、なぜ宿があるのだ?」

「……えっ?」

「200年とか外界と交流がない土地に、そんな物は必要なかろう」

「い、いえっ!あるんです!大丈夫です!高級な所です!…き、期待して下さい!!」


そうして案内された場所は、実際高級感溢れる場所だった。



城の様な外観とは裏腹に、全貌を隠すように植木が囲っている。

敷地の中には裸婦の石像があった。


ホテル、ヘヴン。


あまりに安直なネーミングの看板は、どことなく淫靡に照らされている。


そして駐車場へ入る時、のれんの様な物をくぐった。



「ちょっ…待って」

(これ…、ラブホって奴じゃ……)


「な、なんでしょうか?何か、御不満でも…」

「い、いえ…その、こういう感じじゃない場所は、無いんですか?」

「っ!!…あ、あの…、御存知…、なのですか?」

「な、なんとなく…」

「だ、大丈夫です!貸し切りですから!!」

「……なるほど…」


ママルは、実際他に宿が無いだろう事、そして、それでもなんとか良い場所をとってくれたのだろうと思った。


「それで、それぞれに個室をご用意できますので」

カーラはそんな事を言いながら駐車する。



「いや、わしらは一緒でいいで、なぁ?」

「そうですね」

「一緒の方が良いわ!1人で眠るの、ちょっと寂しいもの」

「………」

(たまには1人で寝るのも良いなと思ったけど、まぁいっか)



「……男性キャストも、ご用意できますが…、人間ですけど」


数瞬の後、ママルはバッ!と飛び出し、運転席に詰め寄ると、

小声で、しかし強い語気でカーラを責め立てた。


「おい!!こら!!性的サービスみたいな話かそれ?!」

「えっ…、ええと…そう言う事も、可能ですが…」

「みっ!未成年も居るのに頭おかしいのかてめぇ!?あぁ?!わざわざ年齢も書かせたよな?!」

「ひぇっ!すっすうすすみません!!!ななな!なんでもないです!!すみません!すみません!」

「二度と話題に出すなよ…、馬鹿野郎が……」

「ひっ…ひっ…ひっ……すすみません!」



ホテルの中に入ると、顔の位置がブラインドされている小窓から鍵が差し出され、

カーラが一階フロント奥にある扉前のスイッチを入れたら、小さな部屋が見えた。


「なんだこの部屋は…小さすぎではないか?」

「ひ、人を、上下に運ぶ籠です」


「エレベーター…」

「ご、御存知なのですか?!」

「あ、いえ…、皆乗って、大丈夫だから」



最上階、大部屋の中へと入ると、カーラから震える声で説明が入った。


「す、すみませんが、今日一日は、この部屋から出ないようにして…頂きたいのですが…」

「まじ?なんでですか?」

「あ、あの、その、特に獣人の方など、見慣れている人は居ないので、混乱を避けたく…」

「あー、まぁ、なるほど…」

「翌日には、商業施設等、いくつか自由に出入り出来るように、手配いたしますので…」

「了解です、まぁ、こんな場所タダで泊めてくれるし、なんか色々やって貰ってるみたいなので、そのくらい全然聞きますよ」

「よ、良かった…そ、それでは、あ、お食事は、その、ご注文を伺います!」

「……は?」


「そ、その!魔道具の説明より、こちらの方が早いかと…」

そう言いながら、室内にあったメニュー表をいそいそと手に取り、ママル達に開いて見せた。

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