140.入国
翌朝、ママル達は空洞内を更に奥に歩いていると行き止まりが見えた。
だが明らかにおかしい。
岩山の中に居たと言うのに、そこには実に綺麗な平面の金属の壁があった。
「なんじゃこりゃ…」
ママルは手で触れてみる。恐怖の発生装置と同じく、これもおそらく人工物だ。
鉄の様に見えるが、アプライを唱えると、オリハルコンと言う名の合金である事が解った。
「出来るか解んないけど、壊してみる?」
「うぅむ…、まぁ、他に道もないしのう…」
「とりあえず試してみましょう、岩壁や床を掘ると言う手もありますが」
「おっし…、じゃあ…」
ママルが魔法を唱えようとした時、壁にいくつか光の線が走る。
「なっ!ちょっ、離れよう!」
4人は壁から距離を取る。
すると、中央から分かれるように、壁が左右に開き始めた。
「と…扉だったのか…」
「何故開いたのだ…」
「…アプライの魔力波に反応したとか?」
「……まぁ、なくはないが…」
「これだけ厳重な扉が、そんな簡単な事で開くとは思えませんが……」
「だな」
「まぁ、そっか……」
「奥も、まだ暗いのね」
「確かに…、入って大丈夫なのか…?もし閉じ込められたら…、
って考えたら、やっぱぶっ壊せるかは試しといた方が良いな」
「確かにのう」
その時、扉の奥に明かりが点いた。
中はまた同じような壁に覆われていて、奥行きが短い。
「に、二重扉か?」
一同が警戒していると、中の天井から声が響く。
「破壊は止して下さいっ!…わ、我がプロテッド国に、何の御用でしょうか」
「!!…は…、み、見られてんのか…ど、どっから…」
「…我がプロテッド国に、何の、御用でしょうか」
声の主は同じ言葉を繰り返すが、その声に緊張の色が伺える。
「えっと…、魔法に詳しい人がいるって噂を聞いたので、見て貰いたい魔法陣があって…」
「……失礼致します。少々、お待ち下さい」
それから4分程経った後、改めて声が響く。
「お入りください。こちらの要求に応える限り、あなた方の要求にも出来るだけ従いましょう」
そして奥の壁が開くと、その向こうに驚くべき景色が広がる。
澄んだ青空。
正面には広く舗装された道路が真っすぐに伸び、その周囲には高い建物が並んでいる。
歩いている人が見えた。人間だ。
だが、その衣服は、この世界からすると明らかに異質だ。
これまで見て来たのは、ママルからして、いかにも中世ヨーロッパ的な雰囲気だったが、ここの人間は、GパンにTシャツ。の様に見える物だ。
建物も、その建築様式がまるで違う。
日本の、5、60年代のビルかの様な…。
「ど、どうなってんだよ…」
「これがあの山の向こう側、なのか?雪も降っとらんし…」
「凄いですね…」
ポカンと景色を見つめていると、1人の女が近づいて来た。スーツの様な物を着ている。
「カーラ=エレタと申します。ようこそプロテッド国へ…、宜しければ、こちらへ…」
声から、扉前で話しかけて来た人だと理解する。
カーラは背を向け歩き出したが、やはり声色も、その動きも、緊張が見て取れる。
やがて案内されるがままに、箱の中に入った。
箱、と言うか、車。いや、自動車と言って良い。
外観的には、バスを短く、小さくしたような形をしている。
当然ママル達は警戒しているが、いざとなれば簡単に破壊して脱出する事は容易そうだと乗る事にした。
中は向かい合わせの長椅子が左右に置かれていて、それぞれに2人ずつ座る。
カーラは運転席でハンドルを握ると、そこへ魔力を込めた。
すると車内のどこかにある魔導核が反応し、長方形の物体についている車輪が回る。
実際、舗装された道路ではフローターである必要は薄く、馬車の様な車輪の方が効率がいい。
最高速度は勿論、ブレーキによる停止も素早く可能だ。
だが、この世界でこんな物は見た事がない。
「こ、この乗り物は、ロテーターと名付けられています、回転の魔法を使っているらしく」
「あの、てか、ど、どこに向かってるんですか…?」
「そ、外からの客人は、例外を除き、214年ぶりらしいです。ので、いくつか、検査を受けて、頂きたく…」
「け、検査?わしらはこれから、何をされるのだ?!」
「い、いえ!そ、その、いくつかの調書と、測定と、洗浄を…」
「せっ、洗浄…なんかめちゃくちゃ嫌な響きなんだけど!」
「あああっ洗って貰うだけです!!なな、何も!危害は加えません!!!」
「…信用して大丈夫だと思いますか?」
「ま、まぁ…何かあったら、何とかしますが」
「な!何もありません!!か、歓迎しています!!我々は!」
「なんだか必死だし、聞いてあげましょう?」
「まぁ…そうだのう…」
15分程走った後、建物の中へとロテーターごと入り、
降りるとそのまま一室へと案内された。
促されるまま椅子に座ると、目の前のテーブルには、4つのカップとポットが置かれている。
「こちらから、水、麦茶、コーヒー、オレンジジュースです、お好きな物をどうぞ…」
「あ、ありがとう、ございます…」
「皆様、文字は、書けますでしょうか?」
「えっ、は、はい、皆書けます」
「それでは、こちらの用紙へご記入をお願いします…」
そう言ってカーラは奥の部屋へと引っ込んで行った。
ママル達が渡された用紙は、名前、年齢、性別、出身国、クラス。
入国目的、それから好きな食べ物を記入するように書かれていた。
「食べ物って…まじで歓迎してんのかな…」
「オレンジジュースおいしいわよ!ユリちゃん!」
「メイリーさん、もう飲んでるのマジか…」
「な、なんともないか?」
「絶対飲んだ方がいいわ!」
「で…では…わしも…」
「クラスって、馬鹿正直に書いて良い物なのかなぁ…」
――
(ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!ど、どうして私が、こんな重要な役目を!!)
カーラは荒れた呼吸のまま、1つの魔道具を取り出し、スイッチを入れる。
それはまるでトランシーバーの様だ。
「あ、案内しました、今は、あれ、用紙に、か、書いて貰ってます」
『ふむ…やはり、まずは大人しく従うか…なるほど…見えて来たな』
「これから、測定に移りますが、と、隣の部屋で宜しかったですよね?」
『そうだ、映像を送れるのがその部屋だからな。カーラ、賢王様も見ているからな、気張れよ』
「は、はいっ!」




