表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

139/181

136.寒山

明朝、5人はプロテッド方面に向かって歩き出した。

「っすぅ……~~~~…」

「ぅぅ…………」


なんとも様子のおかしい2人を見て、ユリが改めて声をかける。

「おい、ママル、テフラ、大丈夫か?」

「……完全に2日酔い…、み、水飲ませて…」

「…私も…」


そう言いながら取り出したウォータルから、水を直飲みする2人。


「行儀が悪いのう……」

「君達。そろそろ暗黒森を抜けるぞ」

「うむ…」




進行方向の先が、見るからに明るくなって来ている。

暗黒森特有の樹木を抜け切ると、眼前に山岳地帯が広がった。

山々は岩肌を露出しており、斜面も垂直に近く、登ろうと思うと一苦労しそうだ。




「すげ…、綺麗だな」

「うむ」

「中々険しそうですね」

「寒そうだわ…」


「ってか、この先にマジで人いるのかな?あんま想像出来ないわ」

「……確かにな…、昔は居た、と言うのは確かだとして、今はどうだろうな…」


「少なくとも、こちらからヒドゥーク村に足を踏み入れた人は、私は1人も知らない。つまり、100年以上、な」

「……まぁ、一旦行ってみるか…」

「戻りたくなったら、えっと、上から見れるんだろ?夜にヒドゥークの明かりを探してくれ」

「解りました…、えっと、それじゃあ、ジュニファさん、ありがとうございました」


「色々と助かりました、またどこかで」

「ジュニファちゃん!またね!」

「……いや、良いよ。こちらこそありがとう」


「ジュニファよ、お主は…、その…」

「ユリ、どうか、元気でね」

「………あぁ、あんがとな。その、達者でな」


そうしてママル達は歩き出した。



サクラを想っていたジュニファと、一部のダークエルフ達。

過去の思い出は今を動かし、同胞6名の死者を出した。

当然ジュニファにも重い感情が圧し掛かっている。


だが、彼女達は強かった。

長く生きる、と言う事は、それだけ死者と向き合って来たと言う事だ。


そう言った想いを感じ取っているだろうユリに、ジュニファはサクラの面影を重ねる。

サクラもよく、人の顔色を探るような視線を向けていた。


だけどそれを言葉にする事は、ユリに対して失礼になるんじゃないかと思っていた。

別人だと言うのに、まるで代わりとするかの様な…。


サクラちゃんの分まで生きて、なんて、言える訳がない。

ユリともっと話したいと、足を止めさせる訳にはいかない。



すると遠くでユリが振り返り、声を上げた。


「ジュニファ!お主は優しい奴だ!それに強い心を持っておる!」

「!!」

「だ、だから…その…、元気を出すのだぞ!!」

「っ……何それ……ははは…。ママル達!ユリをちゃんと守れよ!!」


ジュニファは大声で返事をしながら、思わず零れた涙を指で擦った。





――






「ジュニファさん、やっぱ、色々抱えて、我慢してんだね」

「…そうだな。長く生きると言うのは、それだけ強くなるのだろう」



一行はそれから、ひたすらに歩いた。

出来るだけ山を登るような道は避け、蛇行する様に奥へと進む。


歩くほど体温は上がるが、進むほどに気温は下がって行く。


気がつけば、辺りの殆どは雪に覆われていた。


「……行き止まりってか…、この山越えないと駄目か…」

「登るか…、わざわざ頂上を目指す意味も無いし、よい形の道を」

「ってか、一旦上から見るわ」

「あぁ、そうだな、そうしてくれ」


一度荷物を降ろし、飛ぶ体制を整える前に、

ウォータルで各自水分補給。



「メイリーさん、大丈夫?」

「だ…、大丈夫よ…。は…、はぁ…、すぅ~~……、はぁ…」

「疲れたら、ちゃんと言うのだぞ」

「わ、解ったわ……、その…、もう疲れはあるのだけど…、それよりも、寒いわ…」

「確かに、実際寒いな。夢中で歩いてて気づかなかった…」



その言葉を切っ掛けに、皆はそれぞれロォレストで入手した毛皮のコートを身に纏う。


「うむ、大分温かいのう」

「ほんじゃ飛ぶから、ユリちゃん頼む」

「任せろ」



ママルは出来るだけ、今までよりも高く飛び、ユリの理障壁に着地する。


(…………これは………やば…)


視界の先の山々は、吹雪で真っ白に染まっていた。



「ごめん、何も見えなかった」

「……山に入り高度が高くなる程、険しい環境になりますし、一旦今日はこの辺りで休みましょうか」

「だな、わしもそれがよいと思う」


それほど数が多くない木々の間に平面を見つけると、各自がスキルや力技で雪や石を退かし、テントを張った。

ロォレストで仕入れた、降雪にも耐えるファミリーサイズのテントだ。


それから一応火を起こし囲むが、外の風は皆の体温を下げていく。


結局、テントの中にさっさと避難した。

時間は、まだ17時程度だ。


「う~~、さっむ……歩くの止めると、めっちゃ来るな…」

「汗が余計に体を冷やすからのう」


各々が、タオルで体を拭っている。


「…それで、とりあえず、今日はここで一泊するとして、明日はどうしましょうか」

「あ、明日、一日奥まで歩いて、何もなかったら帰ろうか」

「…ふむ…、確かに…そのくらいが妥当かもな…。この様な環境、もう2、3日が限界な気がするでな…」

「進むほど過酷になりそうですしね」

「あんまり奥に進むと、帰りの方向すら見失っちゃう危険もあるしね」


軽く食事を済ませた辺りで、気が付くと日は沈み始め、一層寒気を感じて来る。

そんな時、ユリが1人で外に出て、魔道具で再び焚火に火を灯した。

その姿に、ママルは顔だけ外に出してユリに問いかける。


「何やってんの?寒いでしょ」

「ちょっと、コーヒーでも淹れてやろうとおもってのう」

「え?」

「ワップイから教わっておいたからな。お主も知りたかったら教えるで?」

「ゆ、ユリちゃん…そういうトコまじ好き」


「す!!…………ま、まぁ、中で待っておれ…、ママルと、テフラの分も作ってやるから…」

「ユリちゃん達は?温かいの飲んだ方が良いよ」

「白湯でも飲むでな……、いいから……」




その後。日が昇って来たら動こうと言う事で、さっさと寝ることにした。


ママルはテントの隅で、皆に背を向ける様にして寝始めたのだが、

背後からメイリーに抱き寄せられ、ゴロンと内側へ回された。


「ちょっ…、お、俺は隅っこで良いんだけ…ど」


目の前に、ユリの顔があった。当然こんなに顔を近づけた事はない。

殆ど真っ暗な視界の中なのに、なぜだか心臓が跳ねた。

(おい、何ドキっとしてんだ俺。相手はまだ子供だぞ…)


「ママルちゃん小さいから、内側の方がいいわよ。寒いもの」

「テフラよ、、ちょっと、くっつきすぎだで」

「…温かくていいじゃないですか…」

「それはそうなのだが…」


4人分の、布団代わりの布が、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられて行く。


(こ、これは、まずい……。背中…温か……)


ママルは無心で、目を閉じ、さっさと寝てしまおうと試みる。

だが、聞こえる呼吸音が気になって来た。


背中から、メイリーの脈拍が伝わって来る気がする。


いや、この鼓動は自分の物かもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ