135.未来
「悪いね、獣の肉と、野草くらいしかないから、あまり期待しないでくれよ」
そう話すクィンスは、皆に背を向けて調理している。
場所は、村の者達が共用で使う調理場としている家だ。
ウォータル等の魔道具も使われていて、ママルは少し意外に思った。
「いえ、ありがとうございます。十分すぎますよ」
「ちなみに、何の肉なんですか?」
「鹿だね。それと蛇。本当は昆虫等もあるんだが、外の人は嫌うだろ?」
「うっ…、ま、まぁ…、そう、ですね…」
「はっは、お主はそんな物にもビビるんか」
「…びっ…、ユリちゃん抵抗ないの?」
「たまにだが、シイズでも出たからな、ハチノコとか」
「よ…幼虫……、ごめ、無理…」
「この辺りでもたまにとれるよ、危険だし、数が多い訳では無いから、まぁ珍味だね」
話していると、ジュニファが合流して来る。
「ウイスキーを貰って来たぞ」
そう言われて、調理場を出て目の前の食事場に皆で腰掛けた。
「村でも飲む者はあまりいないが…、好きなんだろ?」
そう言って木製ジョッキを1つ、ママルの目の前に置く。
「まじ?やった!ありがとうございます!」
そう言ってジョッキを手にするが、こんな大きい器に並々と注がれているウイスキーは始めてだ。
少し啜ってみるが、しっかりと強い酒だ。それならば、どう考えても多い。
「テフラさんも飲みますよね?」
「え、いやでも、それはママルさんに喜んで欲しくて用意してもらったんですよ」
(何それ…う、嬉しい。けど)
「いや、ウイスキー、ストレートでこの量はキツイから、一緒に飲みましょうよ…、グラス余ってないですか~?!」
――2時間後
ママルはベロベロに酔っぱらっていた。
気がつけば、ヒドゥーク村で酒が飲める人達も集まって来て、10人程で騒いでいる。
そんなママルは、くだを巻く様に、ウイスキーを作ったモルトと言うダークエルフに絡む。
「モルトさん、あんた最高だぁ…、こんなうめぇ酒を…ヒック…、酒を造れるなんて…」
「俺の酒をそんなに気に入ってくれるとはなぁ、嬉しい限りだ」
「天才だぁ!…天才…、あ、あれ、ナッツ、なくなってる…ヒック…、なんでだ!」
「お前、さっき食ってただろ」
「まじ?ほんじゃ俺のアイテムで…」
そう言って、ママルはミックスナッツを取り出した。
「!!な、なんだそれは…、どう言う魔法なんだ?」
「いーからいーから、良かったら食ってみて下さいよぉ」
そう言いながら、ナッツを鷲掴みして、ボリボリと食べ始める。
「おい、ママル、大丈夫か?」
「だ~~いじょぶダイジョブ…」
「メイリーももう眠そうだし、わしらは先に寝るで?」
「あい~~、おやすみ~」
ママルに続いて、テフラが無駄に元気良くおやすみと送ると、その場の者達も続く。するといかにも眠そうなメイリーのおやすみなさいが返って来た。
――更に1時間後
残っているメンバーは、ママル、テフラ、モルト、クィンス。
ママルは、ウォータルで水を汲むと一気飲みした。
ちなみにこれは、調理場にあったものだ。
気がつけば誰かがここへ移動させていた。
「あ~~~…、酔った…。飲みすぎだな……」
「あんた達、凄いな、こんな…、もうモルトも寝落ちちまってるよ」
「クィンスさんも、まだ帰らず残ってるじゃないですか~」
「はは…、あたしは殆ど飲んでは無いからね」
水で少し頭が冴えたママルが、改めてクィンスに向く。
「今日は、ありがとうございました。嬉しかったです」
「こんな豪快に飲み食いする奴は、この村では見られないからね、意外といい経験になったよ」
「どれも美味しかったですよ~…、ホント……」
「…その、今言うのはきっと正しくないんだろうけど、君達、ありがとうね、感謝する」
「…ジュニファさんの事ですか?」
「勿論。でも、それだけじゃないさ。きっと、私達の未来も変わる」
「…未来って?」
「ジュニファとジュダスは、ヒドゥークの村長の子だからね…、私達も、もういい大人になったし。なんとなく、ロォレストとも…また仲良くやれる気がしてるんだ」
「そうでしたか……」
「それじゃ、あたしもそろそろ寝るよ。おら!モルト!起きな!!」
「んあ゛っ…お…おぉ……!!」
クィンスに頭をひっぱたかれたモルトが、うめき声を上げて起きると、
それぞれが終わりの挨拶を交わし、ママル達も宿へと戻った。
布団へと潜り、そして一瞬で寝落ちそうだな、なんて思っていたら、
隣からテフラの呟きが聞こえる。
「ワーウルフも…、獣人も、人間達と仲良くやれる未来が、来るのかなぁ」
ママルは身を寄せて、頭を撫で始めた。
「よ~しよしよしよし」
「ふ、ふふ…、メイリーさんの真似ですか?」
「半分は、そうですね。いや、1/3か」
「う~~…ん?」
「欲しそうだったのと、やりたくなったのと」
「ふふっ…、じゃあ、もっと下さいよ」
「よ~しよしよし………」
「…もっと……」
「……………」
「んっ…。はぁ……、安心する……」
「………な、なんか…、これ…ちょっと…………」
ママルは妙な気分になっていると、不意に、飲みすぎによる気持ちの悪さが襲ってきた。
(さ、最悪だ…、良い、気分だったのに…)
気がつけばテフラは寝落ちていて、
それを確認したママルもようやく眠りに落ちた。




