134.ヒドゥーク村
ママル達一行は、暗黒森へと足を踏み入れた。
先頭を歩くジュニファ、その後にはランタンを持ったママルが続く。
「ま~じで暗いな」
「はっは、村まで少しかかるから、辛抱してくれ」
「いえ、ありがとうございます」
「木の根が多く出ているから、足元に気を付けろよ」
「ジュニファの案内がなければ、いくら明かりを持って入ったとて、無理だなこれは…」
「テフラちゃんは結構見えてるのよね?」
「そうだと思いますが…、そもそも死角が多いですし…、ランタンの明かりも足元が見えるくらいの役目にしかなってないですね…」
樹木の間はそれぞれ3メートルも開いていればいい方だ、
密集した樹の枝葉は、競い合う様に葉を重ね、日の光を奪い合っている。
そのため歩く地には、殆ど草さえ生えていない。
「あの…、この辺りに動物っているんですかね?」
「勿論沢山いるが、トカゲやリスとかな」
「いえ、その、大きいやつとか」
「あぁ、鹿が多いな、外に比べると、凄く細くて背骨がしなやかだから、見たら驚くんじゃないかな。それと、樹上で生活する猿とかな」
「肉食動物はいないんですか?」
「フクロウが多いな。これも外に比べて、翼は小さいが筋肉が大きい。小回りが利く様発達してるんだ」
「なるほど……」
「あとは蛇とか……。毒を持ってる奴もいるから気を付けるんだ。警戒色をしているから見たら解る。それと…まぁ、小さいが、猫が多いな、可愛いんだ」
「猫!!えっ!見たい!」
「好きなのか?」
「スキ!!」
「はっは、村でも好きな者は多い、餌付けしてる奴まで居るくらいだ。見かけたら仲良くしてやってくれ」
「や、やった!!」
「ママルさん、猫と犬だと、どっちが好きなんですか?」
「…えっ……」
(テフラさんからの、この質問……、これは…、この意図は…)
「そ、その、どっちも…」
「それはズルですよ」
「いやっ!だって!どっちも良い所あるし!!…皆違って!皆良い!!」
「…………まぁ、そうですね」
「テフラ、お主、妬いとるのか?」
「………………はい」
「すっ…、素直な奴だのう…」
「ママルさん、あんまり好意とか向けてくれないじゃないですか。
最近はちょっと解るようになりましたけど」
「それはそうだな」
「ね!私も大好きなのに!なんだか、伝わってるのかなって思う時あるわ!」
「いっ…いや…、てか、そう言うの、普通本人いないとこで言わない?」
「そうなの?」
「…あえてですよ」
「だな」
「………………」
「君達は、その、……いや、いいか」
――ダークエルフの村、ヒドゥークへと到着した。
一帯の家々は魔法によって、薄暗い明かりを発している。
樹の家はそれぞれ高さを変え、干渉しない様に作られており、
何れも梯子が降りている形だ。
「すまないな、ランタンは消してくれ」
「あ、はい」
「ジュニファ、戻ったか。それにママル君達まで」
「兄さん、あぁ、ママル達は、プロテッド方面に案内するんだ」
「なるほどな…。家を1つ増やすか?」
「亡くなった人の家を使ってとは言えないからね。お願い」
「解った……、ではまぁ、この辺りで良いか…」
ジュダスはそう言って、丁度いい樹を見つけると魔法を唱えた。
「≪レジデンス:樹屋≫」
ギイイイィィィィ…メリメリメリメリ…
不快とも、痛快ともとれる音を発しながら、樹が膨らんでいく。
「おーーー!まじで魔法で一発なんだ!すご」
「はは、一発ではない、少なくとも、入口とドアはつけなければな」
「あっ、そりゃそうか」
「その作業してくれる奴に声かけて来るが、ベッドの余りはないから、布団だけになるけど良いよな?」
「そ、そうですね、お願いします…。でもあの、ロォレストからの避難民はどうしてたんですか?」
「…流石に数が多かったからね、南の方にある広場に、各自テントやらを張って貰っていたんだ。あまり良い環境を用意できたとは思ってはいないが、中々に難しい問題だった」
緊急で家を作った所で、全員分は用意出来ない。
すると優先順位などが発生して、無意味な亀裂を生みかねない。
実際そういった複雑な問題を理解した訳では無いが、
なんとなく察したママルは応える。
「すみません…、ありがとうございます」
「はは、ママルが気にする事じゃないさ」
そう言うと、ジュニファは駆け出して行った。
少しすると、2人のダークエルフがやってきて、入口とドアと窓、
それから内部の床や壁を整えて行く、そこにママルが声をかける。
「ありがとうございます、わざわざこんな事まで」
「いや、別に家が増える事は我々にとっても悪い事では無いからな。
必要に迫られたら、いつも通りの事をするだけだ」
ダークエルフの一見不愛想な返事を聞きながら、
ママルは何とも言えない温かさを感じていると、ジュニファが戻って来た。
「村長にも伝えて来たよ」
そう言いながら、持って来た、毛皮で作った布団をいくつも家の中に入れる。
「という事で、今晩はここで寝てくれ、と、クィンスにも声をかけたら、食事を作ってくれるってさ、早速行くか?」
「お、じゃあ、是非」
早速食事を求めて歩いていると、一匹の猫がママルに近寄って来た。
「おわぁ!!猫ちゃんいたあっ!!」
「おぅ…お主、凄い声出すな」
「おいで~っ…チッチッチッ…おいで~~~」
「なんか、凄い変わりようだの」
「ですね…………」
「ママルちゃん、本当に猫ちゃん好きなのね」
「ニャ~~~」
「お~しおしおしおしっ、可愛い~……っ」
「わ、わしもちょっと撫でようかな」
「私も~。すべすべしてて、なんだか気持ちいいわ」
「………………」
「なんか食べるか?めっちゃ人馴れしてるじゃ~ん。
毛並み良いな…ここの人に大切にされてるのかなぁ?」
「いや、こいつはヌッソって奴がいつも可愛がってるから、この時間ならもう絶対餌を貰ってるはずだぞ」
「じゃあ、ただ甘えたくなってるってコトぉ?可愛いねぇ」
「………………」
「ニャ~~~」
「もう、声がいいよな、ズルいわぁ」
「思ってたより、ずっと可愛いでな…、撫で心地も中々どうして…」
「猫ちゃん、可愛いわねぇ、にゃ~、にゃ~?」
「………ママルさんもユリさんも、普段私は撫でてくれないのに…」
「え゛っ」
「い。いや、と言うか、ただの動物を撫でるのと、人を撫でるのは流石に違うからのう…」
「…………まぁ、なるほど…、確かに」
「なんと言うか…、そうして欲しくば、言ってくれたらよいのに。なぁ?」
ユリはそう言ってママルへと視線を送る。
「え、あ、まぁ、そうね……」
「…解りました」
応えるテフラは、改めて凄く納得したかの様に頷いていた。




