133.休憩
湿地帯は、水場は勿論、長く育った草や泥土も多く歩きづらい。
なので暗黒森を目指して一直線と言う訳にも行かず、ロォレストから暗黒森への避難民等が使ったのと同じルートをゆっくりと歩いている。
「途中、臨時で作った休憩所があるから、そこで一泊して、明日に暗黒森に入る。って感じでしたっけ」
「そうだ。日が沈む前には休憩所に着くはずだ」
「うむ…、ふぅ…。なかなかどうして…、疲れるのう」
「無理を言って、プラムさんに送迎して貰えば良かった気がして来た…」
「わしらが乗ってたフローターはムゥムェにあるのだ、流石にそこまで手間を取らせる訳にもいかん。プラムは家族も待たせておるのだしな」
「そうですね。…メイリーさん、大丈夫ですか?潜ってもいいですよ」
「い、いえっ、頑張るわっ!み、皆と、出来るだけ一緒に、いたいものっ!」
「こういった場所を歩くのは、平地を歩くのとは別の筋肉を使うからな。一旦休憩にするか?」
ジュニファの提案に、特にユリとメイリーの疲労を見たママルが答える。
「そうですね、一回休みましょうか」
「もう20分くらい歩いた所の林に良い場所があるから、そこまで頑張ってくれ」
「わ、解ったで」「が、頑張るわ!」
「ほんとにキツくなったら言ってください。私が抱えますので」
「う、うむ…」
「テフラちゃんにおんぶされたいかも…」
「お主…、それは疲労で言っとるのとは別ではないのか?」
一行は、件の林で1時間程休息した後、また歩き出し、
なんとか17時過ぎくらいに休憩所へと辿り着いた。
そこには樹の家がいくつか出来ていて、
元の樹がそれほど巨大ではないため、それぞれ2、3人が寝れる程度の大きさだ。
中心部にあたる地には、焚火の後が残されている。
「≪アライア:着火≫」
ジュニファが魔法を唱えると、木炭が赤く燃え出した。
「ママル、テフラ、悪いけど、適当に薪を集めてくべてくれ」
「解りました。あ、俺行って来るので、テフラさんも休んでて」
「あ、ありがとうございます…。ふぅ」
そう言ってテフラも、皆に倣い腰を降ろす。
「テフラも意外と疲れていたのか」
「ジュニファさんが言ってた通り、普段使わない筋肉を使った感じで…」
「はは、まぁそうか」
「はぁ~…、私…お腹減っちゃったわ…」
「食事は…、ママルが用意してくれるんだったか?」
「まぁ、そうだのう…、いや…、うむ…なんか」
「…全部やってもらってますね…」
「そう!ジュニファに改めて言われると、より実感してしまうわい」
「ジュニファさん、何か、いいお酒とかないですか?」
「うちの村で、ウイスキーを作ってる奴がいるな、私はあまり好きでは無いから、
詳しくはないけど、知ってるのはそのくらいだな」
「是非ママルさんに飲んでもらって欲しいです、後は…、私をまた撫でてもらおうかなぁ」
「……よ、よいのではないか?」
「?」
少しするとママルが帰って来て、焚火の横にドサリと薪を置いた。
「おまたー…、っしょっと」
「多いのう」
「まず適当にね、結構シケってるのもありそうだし、選んで入れてこ」
「そうだね、折角だし他のも乾燥させて、近くの家に保管しておくとするか」
「じゃあ飯出すわ、ジュニファさん、何が好きですか?」
「好きな物…?ふむ……、木苺とか、鹿肉、と言った感じだな」
「………なるほど…、じゃあ、シュラスコでいいかな」
「…なんだそれは?」
「肉の串焼き、パイナップル焼いたのもあって、肉の油をサッパリさせて無限ループさせるのが最高」
(ゴクリ)
「わ、私もそれが良いです!」「わしも食べてみたい」「私も!」
「じゃあ、折角焚火あるし、これで温めて食おう、沢山出すわ」
皆が食事を楽しんでいる。
「そういえばママルよ、お主の能力、自分で解ったとか言っておったが、
そのアイテム袋とは結局どういう物なのだ?」
「…………あ、あんまり言いたくないな」
「ど、どういう事だ……?」
皆が食事の手を止めた。
「い、いや…、まぁ、気にしないで、ほら、まじ旨いっしょコレ」
「ホント美味しいですよ、いくらでも食べられそう、エールが飲みたいなぁ」
「ママルちゃんありがと~~」
「いや、本当に美味しいし、凄いな…、と言うか、露骨すぎる話題反らしだな。
こんなものは魔法でもないだろ、気になるな…」
「だな、ママルよ、白状せい」
「…………ちょっと待って、一回言い方考えるわ」
「なんだそれは」
「…………………………神様が作った物。だな!」
要するに、言ってしまえばアイテム袋の中身まで含めて、ママルと言う存在の一部なのだ。
ママルの肉体が生成された時、同時に出来た、ママルの精神が作り出した物。
アイテム袋から取り出すと言う行為をした瞬間、アイテムの素となるママルのエネルギーから生成される。
他に例えば、食べ終わった食器が消えるタイミングは何てことは無い。
ママルが食べ終わったと思ったら消えるだけだし、
収納できないのは、アイテムの素のエネルギーに再分解すると言う機能なんか無いためだ。
装備品に限っては、ママル自身の肉体に近いため可能だが。
そしてアイテムは自分の一部であるにも関わらず、消費されるだけで再生しないのは、そう言う物だと思い、そう言う物として作られたからだ。
「それは…つまり…、いや、そうだな、うむ…」
「神の食事など、流石に不敬じゃないか?と言うか、冗談だろ?」
「いえ、冗談って訳じゃないと思いますが…」
「神様ありがと~~」
――――
「ローゼッタさん…すみませんでした…」
「いや…、オレットが謝る事ではないよ…、そうか…、聖騎士だけで、9人も…」
「亡骸はロォレストで埋葬しましたが、遺族の方々の意向によっては」
「解っている…、全面的に、叶えてあげてくれ……」
「ハッ!」
オレットが部屋を後にすると、ローゼッタは1人、思いを馳せる。
(悪魔…、本当にいるとは…、ママル君達の行いは、思っていた以上に、世界にとって重要なのかもしれないな…。
そんな中、ただ1つの、この国に拘る私は、愚かなのだろうか…)
それから、亡くなった聖騎士達それぞれへの思い出を反芻する。
「……………………くそっ…………………」
だが、後悔や憤怒に時間を割いている暇など無い。
仕事は山積みで、結局ロォレストに行く事など出来なかった。
ローゼッタはここ一か月近くで、あまりにも大切な人達との別れを経験しすぎた。
だがその一方で、大切にしたい出会いも確かにあった。
(また、ママル君達に会いたいな…)
すると、抱えの侍女が部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「……入り給え」
「…ローゼッタ様!こちらを」
そう言って一通の文を手渡され、ローゼッタは真剣な面持ちで黙読すると、
安堵の声が漏れた。
「…………………良かった…………」
「あ、あの…」
「後日、国王陛下と共に、サンロック国の王都、アルカンダルへ赴く」
「し!承知しました…、しかし、あの…、大丈夫なのでしょうか…。
サンロックですよ?最近国王は変わったらしいですが…」
「…きっと大丈夫さ。そんな気がするんだ……」
そう言って窓から見上げた空は、とても澄み渡っていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第10章完結、そしてこれにて【第一部・完】とさせて頂きます。
とは言え、変わらず続けて行きます。
一旦、週一更新に戻ります。
宜しければ、ブクマや評価等して頂けると励みになります。
よろしくお願いします。




