130.暗黒森
「さて、皆、と言うかジュニファよ。ちょっとよいか」
神殿から仮屋までの帰路、ユリの声の元、道端で会話が始まった。
「わしらがこれからどうするか、を話し合おうと思っていたのだが、
プラム達も含め、ロォレストやグラスエス周辺の事を教えて欲しいのだ」
「私達ダークエルフは、基本的にグラスエス国内しか知らないよ」
「私も、シーグランとグラスエスしか知らないですね…、それも、グラスエスには暗黒森があると言う事だけで、内部がどうなっているのかも知りません。サリサさんはどうですか?」
「わ…私も…」
「そうなんか…」
「まぁ、そうでしょうね。暗黒森についてなら教えてあげようか?」
「頼むで」
「この森は、樹々の背が高く、密集していて。更にその多くの幹や枝葉も黒色に近いのよ」
「……ふむ。つまり、その名の通り、暗いと」
「ふふ、まぁそうね。ただ、その暗さは人間達が思うよりも暗いわ。
ハッキリ言って、他種族なら昼でも殆ど視力が効かないと言っても良いと思う」
「それほどか…」
「そのため、暗黒森に居る生き物の殆どは嗅覚や聴覚に優れていたり。
もしくは少ない光量でも見られる目を持っている。
私達ダークエルフも例に漏れず、暗い景色でも見渡せる目を持ってるのよ」
「………ふむ…。その、では、この辺りは眩しく感じ無いんかの?」
「私達ダークエルフの目は、一定以上の光量が入らない仕組みになっている」
「そういう事か」
「まぁその代償として、他種族より視力自体は低いらしいけど」
「そうなんですか?…弓を使うのに」
「獲物を捕らえるのは、何も視力だけじゃないからね」
「……そうか、つまり、ダークエルフを除けば未開の地であると」
「魔道具で照らして踏破しようとした人間なんかは、昔は居たらしいけどね」
「では、暗黒森のその先はどうだ?」
「そうね、現在地を含めて話そうか」
ジュニファは、木の枝で地面に絵を描く様に説明した。
グラスエスを基準に見て、西はシーグラン、
西南西はサンロック。南南東にはオーガの国テンザン。
だがサンロックへは、アルダイト山脈により直接の交流はない。
北側は、こちらも険しい山岳地帯、それを越えても海となるだけだ。
そしてグラスエスの東部が暗黒森となっている。
つまり、暗黒森を抜けて南下すればテンザンへ行けるのだが、
問題は暗黒森の北東側にあるのだと言う。
緑の少ない丘陵地帯がそのまま山々に連なって行き、一年中雪が積もっていて、
その先にプロテッドと言う国があるらしいのだが、
その実態、特に現代に至ってはまるで情報がないとの事だ。
「ふむ…。現代ではと言う事は、昔の情報はどうだ?」
「昔…、私も親から聞いただけだし、それこそ100年以上前だと思うけど、
魔法研究が盛んな国らしいわ。なんでも賢者と呼ばれる人がその地を守護して、
結果他国との交流を断ったとか」
「なるほどのう…。ところでジュニファ。暗黒森を案内して貰う事は可能かの?」
「勿論構わないわ。プロテッド方面でも、テンザン方面でも」
「助かる…………では、そのプロテッド国を目指すか?」
ユリはそう言いつつ、ママルに視線を送った。
「え…、まぁ、魔法は気になるけど、オーガの国で良くない?
雪山歩くのとか、かなりキツいと思うけど…」
「それはそうなのだが…、アルタビエレの魔法陣。気にならんか?」
「あー!服の奴か。確かに、何か解るかもなぁ…」
「………どうするかの?」
「…テフラさんとメイリーさんは……」
「魔法陣、気になりますね。私は寒いのは平気ですし」
「さ、寒いのはちょっぴり…。で、でも!頑張るわ!」
「まぁ、目指すだけ目指してさ、キツかったら引き返す感じで行こうか」
「はは、それがよいかもな」
「では、決まりですね」
「が、頑張るわ…」
「であれば、ロォレストで色々装備を整えた方が良いよ。案内するわ」
エルフが冬越し用に作っている毛皮やコート等を買い付け、
仮屋への帰り道。プラムが声をかけて来た。
「明日には発つんですよね?」
「まぁ、そうなるな」
「プラムさん、色々とありがとうございました。数日ですが、共に居たのがあなたで良かったです」
「だな。プラムよ、あんがとな」
「い、いえ…ありがとうございます」
「ホント助かりましたよ。ヴェントに戻ったら、ローゼッタさんにも宜しく伝えて下さい」
「はい…」
「プラムちゃ~ん!!寂しいわ!一緒に行こう?」
「こら、メイリー」
「だって……」
「メイリーさん…。皆さん、本当にありがとうございました…。なんて言うか…、その…。おかげで、色々見識が広がったと言いますか…。私、これから頑張りますね!」
まるで別れの当日と言わんばかりの挨拶を交わしていると、ジュニファも会話に加わる。
「見識が広がったと言うなら、私もね。モンスター退治、だっけ。ホントよくやるね…」
「はは、俺もホントそう思います」
「………っはっはっは、変な奴らだ」




