128.元通り
ママルはアイテム袋から取り出した食事を掻きこむと、改めて皆に向き直る。
「いやぁ、なんか、心配かけちゃったみたいで、ごめん……」
「本当だで!全く!!」
「なんともなくて良かったわ…」
「どうして気を失ってたのか、解りますか?」
「えっと……。俺のクラスは、閻魔王とか言う奴で。魔王ってちょっと笑っちゃうんだけど、まぁそれは良いとして」
「どこに笑いどころがあるか解らんわい」
「いや、まぁ、それはそれとして!その…本質は一緒っちゃ一緒なんだけど、あえてカテゴライズすると、俺は、魔法士スキルと、呪術師スキルと、閻魔王スキルがあって…、閻魔王スキルは、この世の理さえ超越した、意味わかんないくらいのスキルなんだけど、使った時、その効果に比例して体が熱くなる感じなんだよ」
「強力な魔法の反動か…?有り得なくもないが…」
「って言うか、罪人を裁いた罪。って感じかな。そこまで含めて1つのスキルと言うか。アルタビエレなんか、1000年分の罪を背負ってたから、もう信じられないくらい、マグマでも被ったみたいに焼ける様な痛みが走っててさぁ。別に本物のマグマ被った事はないけど」
「そ、そんな、アレを咎める事に、何の罪があろうか…」
「結局は。殺しだからね、俺は、なんて言うか、むしろ気持ち的には楽になったな…」
「だ、だからと言って!2週間だで?!死んでもおかしくない!悪人1人を殺して、灼熱に苦しみながらの死では、釣り合いが取れておるとは思えんでな!!」
「いや、まぁ、そういうスキルだから…」
「あまり乱用出来ない感じなんですね。まぁ、もし次倒れても、理由が解っていればこっちも安心です。勿論、倒れないのが一番ですけど」
「……そうだな…。とりあえず、日が昇ったら他の者にも知らせようではないか」
「そうですね」
「と言う事で、ママルさんにも話しておきたい事がいくつか」
「2週間でしたっけ、その間、何があったんですか?」
「まずは、これを」
そういってテフラは、布束を取り出した。
「これは、アルタビエレの衣服、その上着です。肉体は炭になりましたが、これらはそのままだったので、一応調べた所、内側に魔法陣が刻まれていて…。
何人かの魔法士に見て貰いましたが、効果が解らなかったので、どうしようかと。
靴の方には≪フロート:浮遊≫と似たものが入ってるらしいですが…」
「なるほど…、下手に魔力を流して見るのも怖いし、処分するのも憚られますね……。あいつの事だから、転移系…、いざって時に即時発動できるような…………。とりあえず、俺達で持っておきましょうか…」
「そうですね。そしてもう1つ、神殿を解放しようと言う流れがあります」
「え?」
「アルタビエレの言を聞くに、星霊力を溜めて、両世界で同時に解放して穴を空ける。と言う手段だったのであれば、神殿の封印を解き、溜めておかずに垂れ流した方がいいだろうと。ロォレストと暗黒森の長や、聖騎士が話して決めたらしいですが、最終的には巫女であるユリさんに任せたいと」
「なるほど、確かにそうですね。ってか、アルタビエレが建てさせたんだったなそういえば……。もう柱は壊したんですか?」
「いえ、それが、全部壊しちゃうとそれはそれで、聖騎士が困ると言う事で、
あの、あれ、神聖力。を送る装置は、聖域の地下に埋めてあるらしいんですけど、
それも纏めて柱が劣化を防いでいるとかなんとか・・・」
「あー、そういう事か…なるほど…」
「なので、その、結界術に詳しい、ユリさんに一回見て貰おうかと、思ってたんですけど」
「?…ってか、こういう話は大体ユリちゃんがしてくれるイメージあったけど…」
「ユリさん、ママルさんの傍から動かないから…」
ユリを見ると、視線を落としながら、みるみる内に顔が赤くなっていったが、
ママルは流石に、そんなユリを揶揄う気は起きなかった。
「はは、…ありがとね」
「………………うん」
「うふふっ…良かった!これで皆元通りね!」
――結局日が昇り、辺りがすっかり明るくなる頃まで雑談なんかを続けて、
皆でプラム達に会いに来た。
サリサとジュニファも同じ家を宿代わりにしていたみたいで、
3人とまた色々話す中、ジュニファがユリに改まって声をかける。
「ユリ、あなたは、サクラちゃんの生まれ変わりとかなのかな?」
「うぅむ…。もしかしたら、そう言う事もあるのかもな…。思えば、時々知らない筈の事を知っている事があったのだが、前世の記憶と言う奴だったのかもしれん…」
「お、覚えてるの?前世の事?!」
「いや、すまん。なんと言うか、世の中の常識だとか、そういった範囲での話だで」
「……そっか…」
「後々、そう言えば、あの事はなんで知っていたのだと気づく度、わし自身の事に少々不安を覚えたりもしていた…」
「ユリちゃんの、その口調もそうだったりして?」
「…いや、これは母さ、リッツの口調が移っただけだで」
「え~、うっそ?あのお婆ちゃん、もっと丁寧口調だったし」
「村の者とそうでないものとで、話し方が変わるのは当然だろうが」
「いやでも村長は、のじゃ~とか言ってたじゃん」
「そ、それは!ルゥに、お婆ちゃんみたいって笑われて、使うのをやめたのじゃ」
「あ」
「!!」
「はははっ!可愛いじゃん」
「う!うるさい!!」
アルタビエレが現れてから、都合2週間(プラス昏睡していた2週間)程度しか経っていないのだが、ママルは、こんな雑談で感じる安心がとても久しぶりな気がした。
「……では、柱を見に行くとするかの」
「だったら、一回ロォレストの村長に話した方がいい。案内しよう」
ジュニファの案内の元、村長の家へ歩いた。
ロォレストの長老、ニコナは、
何と言うか、良く言えば非常に温厚で、悪く言えば日和見主義な、
いささか主体性に欠ける様な、どこか抜けている様な雰囲気の老爺だった。
皆が決めた事なら、そうした方が良いと、
神殿の解放にも、特に積極的でもなく同意したので、
ママル達は改めて神殿前にやってきた。
「長がああいった感じならば、色々と納得がいってしまうのう」
「まぁそうね。良い人そうではあったけどねぇ」
すると、ジュニファが少し呆れ顔で答えた。
「あの人は、昔からああなんだよ」
「なるほどねぇ…」
ユリは、柱をぐるりと見回した。
「うぅむ……」
「なんか解った?」
「…………いや…解らんが…。随分綺麗だのう」
綺麗と言ったのは雰囲気的な話では無く、汚れ等が見当たらないと言うそのままの意味で、それにまたジュニファが答える。
「アルタビエレは、サクラちゃんの体を使って結界を作ったと言ってたんでしょ。
多分、触媒として利用して…、本当に、胸糞悪い話だけれど、それなら、せめてもと思って、私が綺麗にしたの…」
「…そうか…。お主と言う友が居て、良かったな、サクラ」
そう言いつつ、今度は神殿の周りを歩く。
「ぁ、あの、柱を壊さなくても、ママルちゃんが神殿壊しちゃえば?」
「なるほど、確かに。メイリーさん賢いですね」
「そ、そう?えへへ」
メイリーのとんでもないパワープレイ案にテフラが乗っかったのを聞き、ママルは焦りながらも思案する。
「いやいくらなんでも…と思ったけど、そっか、いざとなったらそれで良いのか…。出来るか解んないけど」
「ん?…おい、お主ら。その、扉が、普通に開くのだが…?」
皆がユリに注目すると、本当に、普通にユリが扉を開いていた。




