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13.住居

(ベッドだ……、しかも、家の中…)


ママルはこの約6日間、ろくに寝ていない。

一応何度も睡眠をとろうと試みるも、基本的に地面に横になるだけで、

一度木の枝の上で寝てみようとしたら、全く安定感を得られず、

いずれにしても、すぐに目が覚めるのを何度も繰り返していた。


この体の強度もあって、肉体的な疲れはそれほど溜まっていないが、

精神の疲労は別で、何より寝不足時特有の頭の重さを感じている。

ゆえに、簡素な椅子とテーブル、そしてベッドだけがあるこの部屋に、至上の喜びを感じた。


ばふっ!と倒れるようにベッドに横になる。


(藁か何かかな…前世でのベッドに比べたら、流石に、何段も劣る。でも、だけどさ!)

「さいこ~~~~っ!」

それほど大きくはないベッドだが、大の字になってくつろぐ。


室内は、中心部から吊るされている謎の小さい箱によって淡く照らされている。

おそらく通路に配置されていたのと同じものだろう。

電気というより炎の明かりに近く揺らめいていて、

それでいてその光は、炎というより星のようだ。


(あぁ…このままここで一生寝てたい…。

あ、そういえば飯持ってきてくれるって言ってたな…。

このあと人が来るって解ってると、なんかリラックスしきれないんだよなぁ)



何もない部屋に一人でいても、いよいよ本格的に何もすることが無いため、

ボーっと寝ころんだまま部屋の中を眺め、気づけばまた色々と考えてしまう。


(この部屋の窓、一見ガラスかと思ったけど違うんだな、

なんというか、光とか反射してない気がする?

それにあんまり固くなさそう、ちょっと起きて触ってみようかな。

いや、でも、めんどいから今は良いか。

………アプライで見た盗賊のスキルは、どれも知らない物ばかりだった。

実際の効果、例えば斧をブーメランのように投げるスキルはアドルミアにもあったけど、それとはスキルの名前が違う。

アドルミアの膨大なスキル名を全て暗記しているわけではないけど…。

これまで倒したモンスター含め、知っているスキルやモンスターの名前は一度も見ていない、謎だ…

……あの盗賊達は村人を攫おうとしていた、てことはこの世界は、普通に奴隷とか人身売買がある感じなのかなぁ。

なんか不快だけど、もしそれが許されているなら、各国の政策とかにも関わってくるか…。

俺一人でどうこう出来ることでもないし、

知らない世界の、知らない国の政治なんか毛ほども興味が無い。

でも法律とかはあるだろうから、アルカンダルに行くならそう言うのは気を付けないとなぁ、めんどくせ…。

…アルカンダルに行くには確か、ロニーとかって盗賊が…)


「あ!やべっ!!」

(あいつら寝かしっぱじゃねーか!流石に確認しといた方がいいよな…)


と、ベッドの吸引力から逃れ立ち上がったときに、ドアの向こうから声が聞こえた。

「失礼します、お食事をお持ちしました」

(っと、行き違いになるとこだった、危ない危ない)


返事をしながら扉を開けると、やけにグラマーな女性が食事の乗った盆をテーブルへと運んでくれた。

「どうぞお召し上がりください。お口に合えばよろしいのですが」

「ありがとうございます、頂戴いたします」

エルフってすげぇなぁとか思いながら女性を見送ると、

ママルにしてみれば背の高い椅子に座った。



初めて食べる異世界の飯、結構楽しみにしていたが、

その外見は良くも悪くも予想の範疇を出なかった。

盆の上には小ぶりなパンと、少し大き目の椀に入ったスープ、それと水だ。


「いただきます」

スープを一口飲む。味は、なんというか、薄い。でも温かく、野菜や肉そのものの味がやけに染みる。

パンを一口かじる。幼い頃、母が気まぐれに手作りしたパンの味を思い出した。

そして水は、冷蔵庫から取り出したばかりのミネラルウォーターのように澄んで冷えていた。

「うま…」

味自体は決してめちゃくちゃ美味しいという訳ではないのに、そんな言葉が思わずこぼれる。


なぜだか少し泣きたくなった。





食事を綺麗に平らげると、ランタンを取り出し外に出る。

ちなみにランタンは手から離して一定距離を取るとアイテム袋の中に戻る。

この辺りもゲームと同じ仕組みだ。


眠らせた盗賊の確認に行きたいが、ここで一人でうろつくのはいかにも怪しい。

(誰かいたら声をかけてから出たいんだけど…さっきの女の人に話せば良かったな)

そう思い周囲をキョロキョロしていると、隣の家の窓から外を眺めるルゥと目が合った。


「あ、こんばんは」

するとルゥが窓を開けて答える。

「ママルさん…こんばんは。どうしました?」

「ちょっと気になる事があって、そこの広場に行く前にも盗賊に出くわしたんですが、そいつらを魔法で眠らせて放っておいたのを、すっかり忘れちゃってて」

「他にもいたんですね…」

「えぇ、なので、これからちょっと様子を見てきます」

「はい…あ、あの…」

「?」

「いえ…、その…、私もついて行って良いですか?」

「えっ、いや、でも、夜も遅いですから、危ないですよ」

「結界の内側ですよね?それにママルさんがいたら、安全だと思います」

「あ~……は、はい」

ここまで素直に頼られる事がなんだかくすぐったくて、つい負けてしまった。



ほどなく、扉からルゥが姿を現す。

「お待たせしました、行きましょう。ちゃんと両親にも言ってありますから」

「はい、確か、あっちの方です」

言いながら指を差し、螺旋階段を降りる。



中央広場付近から外れると明かりは無いので、ランタンを灯す。

互いに無言で、ルゥはママルの一歩後ろをしばらくゆっくりと歩く。


様子が気になりルゥの顔を見上げると、こちらに気づき微笑んだ。

そのどこか痛々しい笑顔に、思わず声をかける。

「あ、あの、さっきは、ありがとうございます」

「?…何のことですか?」

「あの、広場で、庇ってくれて」

「いえ…、何も特別な事じゃないです。

ほんとは皆だって解ってるんです、ママルさんが命の恩人だって。

でも皆気が動転してて、ジールさんは亡くなったし。私はなんて言うか、必死で」

「……どうして付いて来たんですか?」

「…どうしてでしょう…、なんか、今が、現実味が無いって言うか…、

嘘みたいな人達に会って、嘘みたいな事が起こって。

それで…、ママルさんとお話してみたくなったんです…」


(どう言葉にしたら良いのか解らないが、なんとなく解る。

この規模の村だ、亡くなったジールさんと言う人とも当然良く知った仲だろう。

酷い被害は被ったが、最悪にならずには済んだ、俺がもっと早く行けていれば…)


どう言葉を返したら良いか解らず、思わずおどける様な返事をしてしまう。

「俺って、そんな変かなぁ」

するとルゥはキョトンとした様な目でこちらを見つめた後、

先ほどとは違うあどけない笑顔で答えた。

「ふふっ、はい。変ですよ。ふふふっ」


「こんな種族は見た事がない!って?」

「はい。それに、女の子なのに、俺って言うのも変です」

「女の子…、あ、一応、俺こう見えても大人なので」

「え!てっきりリンと同い年くらいかと…あ、私の妹なんですが」

「はは、やっぱり。それに俺が使った魔法も変だし」

「そうです!それに、あんなに強いのに、なんだかちょっとオドオドしてるのもおかしいです」

「えっ、それは、その、すみません…」

「それです!ふふふっ、あはははは」

誤字報告ありがとうございました!

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