127.昏睡
「テフラ、丁度良かった」
「クィンスさん、どうしました?」
「いや、そっちの様子はどうかと思ってね。ジュニファが心配してたんだ」
「べ、別に私は…」
「…ジュニファ、それは、心配してないと言う意味かい?」
「ち、違うわよ!…もう!揶揄わないで…」
「はっはっは」
「……まだ、相変わらずですよ。ママルさんは眠ったまま、ユリさんは付きっ切りで。交代するって言っても中々聞いて貰えなくって」
「まぁ、そうか…、あたし達は、そろそろ暗黒森の方に帰ろうかと思う」
「…ママルさんが起きるまで、待ってあげないんですか?」
「そうしようかと思ってたんだけど…、すまないね。いつになるかも解らないんじゃあ…。ロォレストの食料だって、私達がいる分余計に減っちゃうからね」
「…………………まぁ、そうですね」
「私は残るわよ」
「まぁ、ジュニファはそう言うと思ったよ。好きにしな」
「兄さんとパシモにも宜しく言っておいて」
―
ここロォレストには、暗黒森に避難していた人達も戻ってきていて、
既に元の生活が戻りつつあった。
聖騎士はサリサだけが残り、他はヴェントへと帰っている。
サリサが残ったのは、ママルが起きるのを待っていたのは勿論、
元々プラムの護衛を兼ねて一緒に帰るつもりだったのに、
プラムが断固として帰ろうとしないためだ。
「プラムちゃん、本当に帰らなくて良いの?」
「……………大丈夫です。家族はきっと、ローゼッタ様達が見てくれていますから。それより、今日こそユリさんにちゃんとご飯食べて貰わないと」
「そうね…。心配だわ……」
アルタビエレと言う、モンスター化騒動の元凶を倒してから、
既に2週間が経過している。
あれから、ママルはずっと寝たきりだ。
昼間。樹の家の一室で、ユリがママルの手を祈る様にして握っていると、
コンコンと扉がノックされた。
「ユリさ~ん!入りますよ~!」
そう言って、プラムは手ずから作った料理を運んで来る。
その後ろに、メイリーとテフラも続く。
「ユリちゃん、とりあえず、ご飯食べよ?」
「ママルさんが起きる前に倒れちゃいますよ…」
「………もう、ポーションも無いのだぞ…。このままでは…」
ムゥムェでママルが別れる際、予めいくつか出しておいてくれたポーションを、
寝たきりのママルに飲ませたりしていたが、
ママルのアイテム袋は、ママル以外が何かを取り出す事は出来なかった。
中を覗いても、手を入れても、袋の底が見えて触れられるだけだ。
「どれだけママルに頼りきりだったか、骨身にこたえる……」
「そうですね……」
すると、メイリーはユリを抱っこする様に持ち上げた。
「ほら、テーブルに着きましょ。プラムちゃんが作ったのよ?温かいうちに食べた方が、美味しいんだから」
「メ、メイリー!離しとくれ!!」
「……ユリちゃん、…わ、私だって!ママルちゃんが心配よ?だけど、ユリちゃんの事も…心配なのよ?」
「…………どうして…」
「ユリさん?」
「どうして!……だって!わしが、わしが大人しくシイズで暮らしておれば!こんな事にはならんかった!」
そんなユリの自責の念を聞いて、テフラには珍しい、叱るような口調で話す。
「…そんな事を、私達が思うと、本気で思っているんですか?」
「わしが、自分をそう思っているのだ!」
「じゃあ、ユリさんは馬鹿ですよ」
「な!なんだと!!」
「ユリさんが居なかったら、私はきっと死ぬかモンスターになってましたよ。
何も私に限った話だけでもないですけど。…言いたい事、解りますよね?」
「ママルちゃん、私達がいるから頑張れるって。聞いた時、私、とっても嬉しかったのよ?」
「ぅ…………ぅぅ…………だって…………っ」
「今は、ちょっと弱気になっているだけです。大丈夫ですよ。ママルさん、いっつも、何されてもケロっとしてるんですから」
「きっと、今はちょっと、お休みしてるだけよ。頑張ったら、疲れちゃうんだから」
「…………ご飯………………食べる……」
ユリは泣きながら食事を平らげ、3人にお礼を言うと、ママルの横で泥の様に眠った。
「……ユリちゃん、しっかりしてるけど、まだ子供だものね」
「ふふっ、ユリさんは子供扱いすると怒りますから、本人に言っちゃ駄目ですよ?」
「そ、そうなんだ!危なかったわ!!」
「とりあえず、良かったです。安心しました。…それじゃあ、私はサリサさん達の所に戻りますので」
「はい、ありがとうございました」
「プラムちゃん、またね!」
――その日の真夜中。
ママルは、ガバっと勢いよく目覚めた。
「………………?!……あれ?……えっと、確か…」
「ママルさん!!!」
「テフラさん、どうしたんですか?そんな、血相変えて…」
「め、メイリーさん!!ユリさんも!!起きて!!」
ママルを診ていたテフラは、2人の肩を揺すって起こす。
「ママルちゃん!!よ、よかったぁ~~~」
メイリーは、起きるなり、へなへなとその場に崩れ落ちた。
「ママル!お主!!」
ユリは、ママルの顔を乱暴に掴む様に触る。
「ちょ、何」
「だ、大丈夫か!!どこか、具合が悪い所は無いか?!」
「いや…、別に、…………………あ…………」
「ど、どうした!!」
ぐぅぅぅぅ~~~っ…。
ママルの、腹の虫が鳴いた。
「腹減った…」
「!!…………ぅ………ぅぅっ…………ぅぅぅぅ…………」
「ちょっ、どうしたの?!」
何かあったのかと焦ってテフラの方を見ると、なんとも優しい目で微笑んでいて、
ママルは次第になんとなく察したのだった。




