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124.真意

「おい!!」

「≪テレポート:空間移動≫」

アルタビエレはスキルで姿を消すと、数秒の後、

ママルの目の先、上空に一軒の家屋が現れた。


ムゥムェ村で、ママル達が泊まった家だ。

向こうで、アルタビエレがこちらへ転送したのだ。


そのまま家屋は落下し、その衝撃で倒壊する。


中に居たユリ達は、各々がスキル等でプラムや自分達を守り無事だったが、

状況が解らずに混乱している。


「一体…何が起こったのだ…」

「景色が…ムゥムェじゃないわよ…」

「ママルさん?!」

「何!!ママル!と言う事は、ロォレストか?!転移したのか?!」


「………に、逃げてくれ!!!」



そして、ユリ達の頭上にアルタビエレが現れる。

「言っただろ、まず、お前の精神力を削る」

「アルタビエレ!!やめろ!!俺に攻撃すればいいだろ!!」

「だからぁ、こいつらを使って、そうするんだっての。お前の魔力量を考えたら、こっちの方が早い」



「あ、あいつが、そうなのか?ママルよ!」

「モンスターよ!あの人!」

「くっ!」


「皆!逃げてってばぁ!!!!」

「駄目だ!動くな、動いた奴から痛い目にあって貰う。≪ホールダ:転受≫」

唱えた直後、アルタビエレの左手には、ダークエルフが使っていただろう矢筒が握られていた。


「おい!頼む…解った…お、俺の負けだ!俺が悪かった!降参する!」

「はははっ、見ろ、あの女、腰を抜かしてるぞ」

そう言って、尻もちをついてしまっているプラムを嘲笑った。

「な、何…。これは…」

「俺にビビってるお前は、後回しにしてやろう」




「≪空刹≫」

テフラは瞬時にアルタビエレの上を取ると、頭上にユリの≪理障壁:物理結界≫が展開された。

それを蹴りつけ加速し、≪廻穿脚≫でアルタビエレを地に叩き落とす。

地面にはメイリーの≪好餌掃骸≫が展開されており、

アルタビエレは拘束される。


「≪魔弾≫!!」「≪糸蜘血≫!」「≪尖裂爪≫!!」


それぞれが攻撃スキルを放つ。

だが、既にアルタビエレは転移しており、全てが空を切った。


アルタビエレは、テフラの背後からスキルを唱える。

「≪キャノン:大気転換≫」

掌の前にある小さな空間と、上空の巨大な空間を入れ替える事で

強力な空気砲を発生させ、テフラは大きく吹き飛ばされた。


「いてぇじゃねぇか…。ハイクラス程度が出られる幕じゃないんだっての」

「テフラッ………く……、お、お主は、なんだ、何がしたい…」

「あ?…巫女如きが…、大人しくしてろ…」

「こ…、これ程の力を持っていながら、なぜこんな事に使うのだと、聞いておるのだ」

「……………………≪トランスファ:転送≫」



アルタビエレはスキルを唱えると、

ゆっくりと、一本の矢を握った。



瞬間、ユリの左太腿へと矢が転移され、突き刺さる。



「うっ…!!!あ゛ぁ!!!……ッ!!」

突如襲ってきた激痛に耐え切れず、ユリは蹲り、涙が溢れ、その脚から血が流れ出る。


メイリーとプラムの叫び声が聞こえると、直ぐにアルタビエレが牽制する。

「女共!動くなよ!」




ママルは、硬直した。


後悔と、憤怒と。何より、これから起こる可能性を思っての恐怖によって。


電流が駆け抜けたように、全身の毛がブルリと逆立ち、ドバっと冷や汗が流れた。

息が出来ない。

指先が痺れる。

心臓の音が煩い。

平衡感覚が揺らぐ。



自身の、今、目の前で起こっている現象が、現実であると、

そして俺自身の存在も同じように、現実なのだと。



「や、やめて、くれ…、なんで…ユリちゃんは…何にも悪い事してない……」

ママルの消え入りそうな独り言は、余計にアルタビエレを愉しませる。


「くっくっく…、次は誰の、どこにする?…なぁ?!!そう言えば、バジリスクの棘を使った矢があったなあ、次はそれにしようか?≪トランスファ:転送≫」


アルタビエレの右手が光を帯びる。




「だ!!駄目!!や、嫌だっ!!やめてくれ!!…お、お願いします!どうか!!ホントに!やめて下さい!」



アルタビエレの行動を防ぐ手段が、思いつかない。

何か、攻撃する素振りを見せただけで、やられるかもしれない。

奴の気分1つで、大怪我を負う、致命傷を負う、即死する…。


ママルは、土下座でもするかの様な勢いで、地に伏し、頼み込む。


そんな姿を見て、アルタビエレは満足そうに笑う。

「くっくっく……はっはっはっは!!」



心が、締め上げられる。

内臓が、軋む様に痛む。

今が、嘘であってくれと願うほど、現実が襲ってくる。




「う…うぅ…ぐ…マ…ママルよ…、き、聞いとくれ」

「ユ、ユリちゃんっ!」


「昨日、やはり、どうしても、神様に文句を言いたくなって、しまってのう…。

すまんが、神降ろしを、行った。……そうしたら、神様は、言っておった…。

お主の力であれば、ただの殺しには、ならない筈だと…」

「何言って!い、痛いでしょ?!ポッ、ポーションを…っ」



動揺するママルの声に、即座にアルタビエレが釘を刺す。

彼もまた、神の言葉に興味があった。

「おい、何動いてんだ?!ママル!じっとしてろ!」



もはや、アルタビエレの声そのものが、ママルの心を追い詰める。

喉がカラカラに乾いて、声が詰まった。



「今のお主は、神様が、想定していた力を使えていない…。

おそらく、肉体と、精神が、正しく結びついていないのかもしれない。

私にとっても初めての事だったから、すまないと」

「………………」



「はっ、何を言うのかと思えば…、つまり神は、ママルを作るのに失敗したってか?」

「ママルは…、確かに、今は、自分が持つスキルや、その効果ですら、解っていないからの」

「くっくっ!はっはっは!!なんだそれ!マジで失敗作じゃねーか!」

「だがそれは、些細なズレだ。修正、するのだ…。ここは、現実だで。ママル」






(俺は、確かに、ずっと違和感があった…。頭ではとっくに解ってるんだ。これは現実だって。でも、何か、ずっと、自分を俯瞰している様な…感覚があって…)


自分の事が、自分事では無いと言う様な感覚は、次第に薄れて来てはいたが、

未だにどこかがズレている感覚は、確かにあった。


そしてこの時、そのズレが埋まって行く。

否が応でも襲ってくる現実に、心が追い詰められ、体が震えあがった事によって。


今、ようやく、ママルの精神と肉体が完全に一致した。




視界が、脳が。霧が晴れハッキリしていく様な気分だ。



そしてママルは、ふと、シイズでの、グスタフの姿を思い出した。

初めての殺人を行った時だ。


自分を本気で殺そうと技を振るってきた奴が、頭がおかしくなった様に突っ込んできた。

そんな物、殺るしかない。それは今でもそう思う。


それでも、俺は、人間を初めて殺したと言うのに、野生動物のモンスターを殺した時と同じ程度の感情だった。


あの日から、不快感や怒りで、数多の人間を殺してきた。

にも拘わらず。戦い以外では平気な顔をして過ごしていた。


……異常だ。


モンスターだから…。頭では解っている。

頭だけでしか、解っていなかった。



ヴェントで、ユリが心配してくれた時もそうだ。

あくまで言葉として、覚悟を決めたと思っていただけ。


全てはゲームの延長線。ボタンを押して、敵を倒す様な。

敵の悪行を知る程に安堵して、敵を殺す事は正義だと。


罪悪感等は、心で受け止められていなかった。




そして今、受け止めてしまった。


俺は、大量殺人鬼だ。


数多の断末魔が、嫌でもフラッシュバックする。

またもや全身が震え出し。その場に嘔吐した。



だが、その強烈な罪悪感をも掻き消す様に思う。


(だけど、それがなんだ。それでも結局は、やるしかない。

だって、俺だけが出来るんだから。それが今、本当に解ったから)


神様の願いだからとか、そんなんじゃない。

仲間が殺されでもしたら、俺の心は持たないから。

俺は俺と、仲間を守るために。モンスターは、殺す。



(俺は、黒井ではなく、人間ではなく、ママルで、クソみたいなスキルを使う魔法士だ…)



この世界に、ママルと言う存在が、確実に、強く認識され。

そしてママルは、この世界の人と同様に、自分が持つ能力を理解した。



ママルの呪術魔法が霧状だったのは、精神と肉体の不一致。

そして、ゲームのスキルを基盤に考えていたため、

実際のこの世界での自分のスキルを、己が精神が根本から理解していなかったため、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()物にすぎない。


ここは、ゲーム【アドルミア】の世界ではない。世界のルールが違う。

結果、無理矢理呪力を押し出す形になっていたから、薄く散っていた。



同時に、ママル自身が、ゲームで使用していたスキルを当然に持っている物として創造した結果、この世界で、より実態を表す様な物にコンバートされた様に、

ママルの、この世界でのクラスは呪術師ではない。



スキルは名があって発動できる。

クラスは、その個人が持つ性質から名が(あらわ)れる。





閻魔王(えんまおう)】―それは、罪を裁く冥界の王を指す。

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