123.開戦
ママルが神殿前で待つこと、3日目の夜。
(マジで来ねぇな…。くっそ…。なんなんだよ…)
こうなってしまったら、ここで寝てしまうだけで柱を破壊されかねない。
そのため初日から殆ど寝られていない。
一端どこか、適当な家でも借りて身を隠そうか…。
(だけど、この場を留守にして大丈夫なのか?いや、あいつは自分では柱へ攻撃してなかったし、平気か…?)
そう思い、立ち上がろうとした瞬間、人の気配を感じてママルは慌てて振り返ると、ジュニファが1人立っていた。
「ちょっ、なんでいるんですか…」
「やっぱ、まだ来てないんだ…。じゃあ少しくらい大丈夫でしょ。
敵が来たら逃げるから…、私、結構足が速いのよ」
「………敵は、速いとかそういう次元じゃぁ…」
「あなたと、一度ちゃんと話がしたくてさ…」
「………………」
「あの子はいないの?人間の…、女の子」
「…ユリちゃん達は、前の村で待機して貰ってますが…」
「そう……」
「サクラちゃん、でしたっけ。その人の事、ユリちゃん大分気にしてたから、
後でちゃんと話してあげて下さい」
「はは…、変に思わせぶりにな感じになっちゃったか…」
「…あ、ってか、避難がてらその村に行って下さい。ムゥムェって村です」
「そうね…………ダークエルフって、昔はさ、エルフと仲良かったんだよね」
「え?…っと…」
「100年以上前、まだ私が幼い頃。私達は、普通にここロォレストに遊びに来たりしてたのよ」
「………………」
「切っ掛けは、1人の人間。捨て子だったのか、なんなのか。私達が偶然、ここで見つけた。そしてその子を、ロォレストの長が、育てるってなって。人間とエルフが一緒に暮らすなんて、と、ダークエルフ側の長は反対した」
「それで、絶縁したんですか?」
「まぁ、そうね…。だけど、私と、兄と、クィンスと、パシモ、幼馴染の4人は、まだ子供で、関係なかった、そんな、大人の言う事なんか」
「………………」
「ロォレストには、友達もいたし…。その子、サクラちゃんが5つになる頃には、この辺りでこっそり遊んでたんだ」
「サクラちゃん…、人間の子供……」
「その2年後くらいだったかな。サクラちゃん、急に神様の声が聞こえるって言って」
「!!」
「当然最初の頃は、誰も信じなかったのよ。でも、野生モンスターが出た事とか、
ちょっとした天災なんかもピタリと言い当てて、それから皆サクラちゃんの事を、神の使いだのなんだのって祀り上げたのよ」
「………100年以上前の…巫女……」
「………………」
「あの?それで?」
「どうなったと思う?」
「……いえ、全然想像つきませんが」
「……私達に向かって、もう来ないで。って」
「そ、それは?」
「理由を聞いても答えてくれなくて、それからロォレストは、この神殿を建てた」
「えっと?サクラちゃんの話と、どういう繋がりが…」
「サクラちゃんが建てさせたんだってさ。そして彼女は、15になる頃に、行方不明になった」
「………いや………、と言う事は、ジュニファさんは神殿の中に何があるか知っているんですか?」
「赤子のサクラちゃんが見つけられた時に居た建物、社って呼んでたな」
「は?…い……一緒だ…、ユリちゃんの状況と…」
「え?」
「いや、てか…、なんだ?じゃあ、神殿の破壊は、社を露出させる事?それが悪魔召喚に繋がる…?どういう事だ…」
「一緒って、どこまでよ?」
「え。あ、その、ユリちゃんも、赤子の頃に社と一緒に、エルフの村で見つかって…、神様の言葉が話せるんです」
「!!!そ、それって!!」
「ジュニファ。久しぶりだな」
唐突に、そう言って姿を現したのは、アルタビエレだ。
「!!あんた!なんで?!」
「…は??!」
「アルタビエレ…、お前は、サクラちゃんが消えた日の近くから、今まで姿を現さなかったね…、サクラちゃんは、どうしたのよ…、何か知ってるんじゃないの?」
「…………………」
「あんた!守るって言ってたのに!!何黙ってんだ!!!」
「誤解があるな。この神殿を建てさせたのは、俺だ」
(い…、意味が解らない…、なんだこれは、どう言う状況だ……)
困惑するママルを見て、ジュニファは答えた。
「こいつは、サクラちゃんが神降ろしが出来るって聞いて現れた人間…。何度か話したことがあっただけよ…。でも、人間なのに、どうしてあの頃と同じ見た目なの…?」
「昔さ、俺がこう言ったのを覚えてるか?サクラちゃんの事が好きならさ、仲間と一緒に守って行こう」
「お……、覚えてるわ…。だからさっきそう言ったじゃない」
「俺も一緒でも良いか?俺はめちゃくちゃ強いんだぜ?だから守ってあげられる」
「………」
「そうか、ありがとう、じゃあ、何かあった時に、俺がすぐ助けられるように、
情報を渡すことに同意してくれ。≪ターミナル:送信端末≫…ってな」
(ターミナル?…スキルか。同意って…そう言う契約をするスキルを?!)
「て、てめぇ…子供を騙して、スキルに同意させたのか?」
「ターミナルの効果は、見た物、聞いた音を俺が好きな時に受け取れる様にする物だ。解るか?ジュニファ、お手柄だぜ」
(聞かれていた!?)
ママルは、心臓が跳ねた。
「≪ファストラ:空間転移≫!!」
アルタビエレに向かって転移し、ママルが出現した瞬間、
お互いが弾かれるようにして後退した。
ママルは後方にすっ転がり、アルタビエレは数歩後退る。
「いってぇな…、くくく…、でもやっぱ、思った通りだ。いくらお前でも、俺本体くらいの魔力があれば完全に干渉はされない」
「ジュニファさん!逃げて!!」
「だ、だが…!」
「いいから!!≪アプライ:鑑定≫!」
●モンスター:人間:クラス不明:アルタビエレ Lv250 スキル:ゲート トランスファ ジャンプ テレポート ターミナル その他不明
その他詳細不明
モンスター化している
「魔力防御とは、自分自身が、ココに、今の状態、今の姿で存在していると言う、確固たる精神力が重要なんだぜ」
「てめぇ!さっきから会話が成り立ってねぇんだよ!!≪バニシック:燃焼≫!!」
「≪ゲート:空間隧道≫」
出現したゲートは、以前見た時よりもずっと大きい。
その空間にバニシックの霧は飲み込まれ、何処かへと飛ばされる。
「クソ…」
(これを出されてしまっては、遠距離攻撃が…)
「ママル…、俺はな、てめぇに、ま~~っじでムカついたんだわ。
だから、まずはお前の、精神力を削らせてもらう」
「≪セカンドマジック:魔法ヒット数+1≫≪サードマジック:魔法ヒット数+1≫
≪コンテマジック:魔法効果連続発動≫」
「≪ゲート:空間隧道≫」
アルタビエレは2つ目のゲートを出現させると、それを素早く動かし、
地面ごと大きく抉り、そのままママルを挟み込む様にプレスした。
ママルは全く動くことは出来ず、押しつぶされそうな勢いだ。
≪ファストラ:空間転移≫での結果と同じように、ママルをその空間に入れる事は出来ない。
直接触れる必要がある≪トランスファ:転送≫とは勝手が違う様だ。
そして同じように、≪ファストラ:空間転移≫で吹き飛んだ時のような衝撃が幾度も奔る。
ママルは今の体になってから、それどころか前世まで含めても、
味わったことのない様な痛みを感じ、苦しみの声を漏らす。
「ぐっ!………うっ……くっ…ゥゥゥウ!!」
「お前に後たった2度触れて、柱を壊す事は簡単だけどよぉ…、まず!完っ全に!屈服させてやる!!」
一層圧力が強まる。その中で、2つのゲートの僅かな隙間から、アルタビエレを捉えた。
「…ぺ、………≪ペイン:痛覚刺激≫」
「ッッ!!!」
強化を重ねたペインを受けたアルタビエレも同じく、強烈な痛みを覚える。
その時、ゲートの圧力が一瞬弱まった瞬間、ママルはアルタビエレに飛び掛かった。
痛みに狼狽えたアルタビエレの顔面にママルの拳が炸裂すると、ゲートは掻き消える。
アルタビエレが地に転がった所へ、上から乗っかり≪ぺトロ:石化≫を唱えようとした瞬間、≪ジャンプ:座標移動≫による移動でアルタビエレは空中へ逃れた。
「…………お前、どれだけ俺をイラつかせれば気が済むんだ」
空中にいるアルタビエレが、鼻血を流している。
「≪シャッド:流血≫!!」
ママルはこれまで使いどころのなかった、出血箇所の傷口を広げる魔法を唱えた。
ペインと同様の即時発動スキルにより、アルタビエレは急に噴き出す様に、
鼻と、切れていた口内から血を流す。
「!!…≪ジャンプ:座標移動≫……≪ディスケーン:外傷転移≫」
ママルの背後に転移し、その後頭部にタッチすると、
今度はママルが鼻と口から血を噴き出した。
アルタビエレが自分の傷を移したのだ。
そしてアルタビエレはまた≪ジャンプ:座標移動≫で距離を取る。
ママルはたまらずマスクを外すと、血が飛び散り、
袖で顔を拭うと、ハイポーションを一気飲みした。
続けて≪シンカー:思考低下≫を唱えると、ママルを薄い霧が覆う。
接近を許さないための威嚇だ。
(最初から展開しておくべきだった、くそっ…)
この状態でファストラで無理やり接近しても、転移を唱えた時点で常駐させている魔法は全て解除されてしまう。
「理解しろ。俺は無敵だ…。このまま戦っても、俺が勝つ。」
(こいつは…、半端にダメージを与えても、人に移せるのか…、そもそも劣勢になったら逃げる、そういう奴だ。間違いない。即死に至る攻撃か、拘束をしなければ…)
「…………≪プロバアブソル:付着確定化≫≪マジックテールⅥ:魔法ヒット率超大幅上昇≫」
「良いのか?……気づいてるんだろ?これ以上俺をムカつかせるなよ」
「…………………………」
「俺の仲間は、どこにでもいる…。勿論、ムゥムェ近くの村にもな」
「お、お前は…………」
「今、探してる、もう時間はないぞ?」
「≪パラライズ:金縛り≫!!!」
「≪ジャンプ:座標移動≫…。霧の魔法は遅いな。ほら、こっちだ、当ててみろ」
「≪ペイン:痛覚刺激≫!!」
「っ!……、さっきより大分弱いぞ、大した事ねぇ。どうした?!もう終わりか?!!あぁ?!!」
「≪セカンドマジック:魔法ヒット数+1≫」
「≪シャッフル:空間転換≫!!」
ママルが居た場所を中心に、20メートル四方の空間が、大気と、大地とも含めてグチャグチャにかき混ぜられた。
ママル自身にダメージが通る状況ではないが、情けなくもその激流に揉まれ、這いつくばるしかない。
「はっはっは!焦るよなぁ!……でも、時間切れだ、見つけたってよ!」
「ま、待て!!待てよ!!!それは違うだろ!!!」
「…もう遅い」
アルタビエレは、醜悪な笑顔を覗かせた。




