121.一撃
ママルは目を瞑り、コ・イ・ヌールの元へ歩く。
中々に恐怖だが、おそらくこいつは、直接的な攻撃方法は持たない。
(まぁ、あったとしても噛みつくくらい?多分大丈夫だろ)
そして突き出している掌が、なんとも奇妙な感触のソレに触れると、スキルを唱える。
「≪ぺトロ:石化≫………」
石となったコ・イ・ヌールを、殴り砕き破壊した。
その死体は塵となって消えていく。
すると、魅了されていた人々は全員その場に倒れ伏した。
(よし。………アルタビエレ、奴本体は来ないのか…?
散々煽り散らかしたのも、さっさと片付けたいからなんだけど…)
ママルは警戒を解かずに、皆にポーションを飲ませて周った。
暫くすると、1人、また1人と目が覚めていき、
ジュダスは周囲を改めて見回すと、ママルを発見した。
「君は……」
「呪術師と悪魔は、倒しました」
「!!そ、そうか!…そうだった…、俺達は…」
同じように周囲を見回したジュニファは、悲嘆の声を漏らす。
「…柱が……」
「すみません…、これしか守れなくて」
「……いや…良いんだ…、残って良かった………」
オレットは、ふらつきながら立ち上がる。
「ママルさん…。すまない…あなたの到着を待つべきだった…」
「……いえ、あ、ってか、皆さん!まだ…、その、敵の本体が、また来るかもしれない。この場は俺に任せて、避難してください」
先程戦ったアルタビエレが使う魔法は、確かに強力で厄介だったが、
逆に言えばその程度の物ではあった。
ヴェントでは、戦闘になるなら更地になるとか言っていた。
魔法の規模感がどうにも合わない。
あくまで想像だが、他人の体を使っている間は、魔力だとかスキルだとかに制限がかかっていた可能性がある。
そんなのと皆を守りながら戦うのは無理だ。実際先程の状態でも人質として活用された。
「し!しかし!!」
「あっちの方の家に、サリサさんがいましたよ。無事を知らせてあげてください」
「そ、それは勿論だが!少なくとも、我々聖騎士が逃げるわけには」
「……すみません。その……、足手纏いになります」
それからいくつかのやり取りを経て、亡くなった人々を簡易的に埋葬した後、
ママルは1人、神殿の前で佇む。
(これでいい…。戦闘は、俺1人。その方が、安心する…。そもそも、あの人たちの肉体は回復させたけど、魂みたいな、そういう部分へのダメージは回復したのか怪しいし)
神殿の扉前まで来た。
軽く手をかけてみるが、微動だにしない。
あまり力をかけて、万が一壊してしまっては元も子もないので、
残る柱の方へ向かう。
(柱による結界…ね。ユリちゃんが使うのも結界術だけど、関係あんのかな)
ここは聖域だと聞いていたけど、普通の地と特に違いが解らない。
多分これまで聞いた話から考えるに、神聖力が湧いてるのだろう。
(プラムさんが言っていた、神聖力をヴェントに飛ばす装置と言うはどこにあるんだろ。神殿の中に入ってるのかな……)
ママルはまた色々と考えながら、柱を守る様に鎮座する。
だがそのまま、夜が来て、朝が来ても、アルタビエレは現れなかった。
(クソっ…。この状況…。最悪すぎるな…。ミスったか…。
そもそも、戦闘開始のタイミングがあいつに委ねられすぎている。自由に転移出来ると言うのは、戦闘において最強なんじゃないか…?
どうしよう…アルタビエレが一旦諦めたと判断するのに、何日待てばいい…。
ワンパン即死させられてビビったってんなら、それでも良いと言えば良いけど…)
――――プラムとメイリーが、ママルと別れた直後
「では、ムゥムェに戻りましょうか…」
「……そうね…」
フローターはその場で180度旋回すると、来た道を帰って行く。
「………プラムちゃん…」
「…はい。どうしました?」
「…………………なんでもないわ…」
「また、すぐ会えますよ」
「そ、そうよね!!」
「はい。必ず…。それと、メイリーさん、一緒に来てくれてありがとうございます」
「うん!……えへへっ…、どんどん頼ってね!」
―それから、道程を半分度過ぎた時。
プラムが遠方に野生の象を見つけて、メイリーに声をかけた。
「わあ、見て下さいメイリーさん、左手の方。象が居ますよ。大きいなあ」
「!!モ!モンスターよ!!近寄らないで!!」
「えっ!わっ……、って、こ、こっちに来ます!」
「!!」
「と、飛ばします、捕まって!!」
「……いえ、足場の安定する場所へ…、私が倒すわ」
「っ……、わ、解りました」
適当に目星をつけた、湿気の薄そうな地を目掛けてフローターを飛ばすと、着くなりメイリーは飛び降りた。
フローターは制動距離によりメイリーとの位置が離れ、メイリーは巨大な象を待ち受ける構えだ。
「…ゾウさん…。どうしてモンスターになっちゃったの?…可哀そうに…」
そう言いながら、掌を地面につける。
「ブオオオォォォォ!!!!≪踏荒≫」
象は走って来た勢いのまま、メイリー達を踏み潰すべく突進した。
「≪好餌掃骸≫」
メイリーを中心に、まさに蜘蛛の巣といった具合にその魔力が広がり、
象はそれに触れた途端に足を止められると、広がっていた魔力が集い、包む。
四つ脚全てがほぼ覆いつくされ、鳴き声を上げながら暴れようと藻掻く象に向かって≪糸蜘血≫が放たれる。
その先端のナイフは象の頭部を貫き、一撃で絶命したのを確認したメイリーは≪好餌掃骸≫を解除すると、ほぼ同時に象は地に倒れ伏した。
そんな光景を見ていたプラムは驚愕する。
(!!つ…強すぎる…っ!一撃って…。あんな、気の抜けてる様なメイリーさんが…、以前聖騎士様達が戦ってるのを見た事はあるけど、それ以上の様な………。そんな人達が、心配されて、置いて行かれるなんて…ママルさんと、その敵は一体……)




