118.ロォレスト
ジュニファ達は、再生能力を持った呪術師を討つため、
ストーンケイヴへ向かいバジリスクの棘を調達して来ていた。
ママル達と会ったのは、正にその帰り道での事だ。
仲間達の元に戻ると、聖騎士達とも合流し、
今残っている敵の呪術師を倒す作戦を考えた。
ジュニファはいくら人間を嫌っているとはいえ、
同じ目的で戦っている人間まで敵視するような愚かさは持っていない。
あと、たった2人、長かった戦いがようやく終わる。
ジュニファはバジリスクの棘を加工した棘矢を構えた。
「行くよ、皆……≪ガストアロー:突風の矢≫!」
放たれた矢は、ミットーの左腕を貫通し、そのまま胸に突き刺さる。
「ぐっ!!こ、これは!」
「ミットー!おい!なんだ!矢なんか早く引き抜け!」
「ロブル!まずい…何か、強力な毒だ…再……生が……うまく機能、しない…」
更にミットーに2本目の矢が追撃されると同時に、残存する全兵力、
聖騎士達15名、ダークエルフ13名、ロォレストの一般兵20名が一斉に飛び出した。
森から広い聖域内を駆け出し、呪術師に接近する。
「まずは、再生の呪術師。確実に息の根を止める!!」
オレットを筆頭に4人の聖騎士が更に加速し、突っ込んでいく。
「おいおいおいおい!!冗談じゃねぇぞ!!」
「ロブル!俺の矢が刺さった所を部位ごと破壊しろ!」
「あ?!わ、解った!じゅ!≪呪詛・!!……はい、……はい。…わ、かり、…ました」
「おい!ロブル!」
「…≪トランスファ:転送≫」
ロブルは背後からミットーに触り、正に敵陣ど真ん中と言った場所にミットーを転送した。
「な!転移魔法?!」
オレットは急な事態に警戒し、距離を詰め切れなかった。
そして転移魔法を唱えた呪術師にターゲットを切り替えると、
現れたミットーを取り囲んだ仲間達と、背中を合わせる形になる。
「ア、アルタビエレ様!!!」
「ミットー、こうなっては仕方ない。お前に最後の仕事をやる」
「な…何を…」
「お前が、悪魔になるんだ」
「あ、悪魔は!ち、違う!どうして!仲間じゃなかったんですか!!」
「悪魔…?なんだ…?み、皆の者!半数は私に続け!もう1人の呪術師を!」
「≪ジャンプ:座標移動≫」
「消えっ!?また転移魔法か!!」
ロブルは自らの視線の先、ミットーの頭上20メートル程の位置へと一瞬で移動し、宙に浮いている。
「≪ホールダ:転受≫」
魔法を唱えた瞬間、ロブルの周囲に12本の小瓶が転送されて来ると、
瞬時にその全てを破壊する。
すると、中に入っていた真っ赤な液体が地に降り注いだ。
「親愛なる悪魔よ…。6の種族、12の純血、そして呪力を有した肉体を触媒に。
………来てくれ。≪デモニング:悪魔召喚≫」
降り注ぐ血液はミットーを囲う様に流れ始める。
異常事態を察知したオレット達は、各々が遠距離スキルでもって、2人の呪術師を攻撃したが、ロブルはまた転移する事で攻撃を躱し、
ミットーは血液の奔流によって守られたかに見える。
血液はミットーの体を完全に覆い隠す。
そのシルエットが、徐々に小さくなっていく。
中には人間1人がいる筈なのに。
小さく、小さく、やがてピンポン玉程の大きさの球体になって浮かんでいる。
異様な光景を前に、その場の者は皆、ただ言葉を失い見つめた。
その玉から、小さい穴を空けた様に何かが噴き出た。
気体のような、液体の様なそれが、1つ、また1つと穴を増やした様に噴き出る。
そのドス黒い何かは、徐々に、何かを形作って行く。
ジュダスが、ようやくと言った形で、声を絞り出した。
「……ま、……まずいんじゃあ…。ないか?」
「!!…て!!撤退!!退避しろ~~~!!!」
叫んだオレットの声に、皆が、悪魔になるのであろうソレから目を離せないまま逃げ出す。
直後、噴き出しているソレが、周囲の者を巻き込む様に広がると、
聖騎士9名、ダークエルフ6名、一般兵13名の魂を喰らい、
一気に収縮、そして、その悪魔は顕現した。
その姿は、のっぺりとした人間の頭部の様でいて、体高は3メートル程。
質感からは石像の様に見えるが、体色はダイヤの様に美しく、透けて見える気さえする。
ロブルがその悪魔を見て、感嘆の声を上げる。
「お~!お前がここに来たのは初めてじゃないか?!」
「ンあッ……ヌあッ……」
「俺が用意した触媒以上に、いきなり何人もの魂を喰いやがって、欲張りめ」
「アぁッ…あイ…んアアアアぁぁぁぁッ!」
悪魔は、その口を大きく開けると、ロブルは焦って目を背けた。
「っと、危ないとこだった。まぁ、こいつらの殲滅だけなら俺がやってもよかったんだけどさ。じゃ、残りは任せたよ。コ・イ・ヌール」
読んで頂きありがとうございます。これで9章は終わりです。
少しストレス展開が続き気味ですが、しばしお付き合い下さい。
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