12.モンスター
麻痺してるグスタフを引きずり広場まで戻ると、
村人たちの拘束とパラライズを、盗賊を巻き込まないよう数回に分け解いてゆく。
「すみません、今から麻痺を解きます。
≪サークル:魔法円範囲化≫≪リリース:呪力反転≫≪パラライズ:金縛り≫」
全員を解放できたと思った時、最初に解放したうちの一人のエルフが口を開く。
「ぅ…あ……、あんたは?」
その瞬間、悍ましい声が響いた。
「グゥオオアァ…ッ!ア゛ア゛ア゛ァァァァ…!!」
「っなんだ!」
声のした方を見ると、グスタフが痙攣している。
「な、なにが起こってるんですか!」
村人たちから、困惑の声が上がる。
「ちょっと、よく解りません…皆さんは念のため避難を!」
ジッと観察していると、意識も朦朧と言った具合でグスタフは立ち上がった。
(麻痺耐性が高いのか?!)
「≪コーマ:昏睡≫」
だがグスタフは、唸り声をあげながら突っ込んできた。
「グルルゥァァアア!!!」
とっさのことに、マウントポジションを取られてしまう。
「ちょちょちょっ!≪バニシック:燃焼≫!≪コレプト:腐敗≫!!≪エイジール:老化≫!!」
焦って乱打したスキルを無視するように、そのまま両手の拳で交互に殴りつけられる。
(今コイツは武器も持ってないし、痛くはない!けど、なんで効かないんだ!どうなってる!!)
「グウウオオオオオ!!!!!」
(≪シンカー:思考低下≫は残ってる?いや、てかこんなんモンスターじゃねーか!)
普通に力押しで無理やり起き上がり、そのまま殴ろうとして、
最初に会った虎モンスターの首を吹っ飛ばした時の、最悪な感触が蘇り躊躇してしまう。
同じ殺しでも、魔法でやる方がその罪悪感は薄い。
ママルが躊躇ったその隙に一撃、顔面にパンチを貰ってしまい吹っ飛ばされる。
(くそっ…でも、今あいつの爛れた拳を見て解った、
効いてないんじゃなくて、効きが悪いのか。それなら)
「ガアアァァァアア!!」
「……………。≪ワース:状態異常悪化≫…」
「ぐぎゃっ」
グスタフは一瞬の悲鳴の元、全身がグズグズになり絶命した。
(……なんだったんだ…最悪だなまじで)
訪れる静寂、何秒経っただろうか。最初に声を上げたのはハンだった。
「あ、あの…!」
それに弾かれたように反応してママルが答える
「あ、すみません、あ~~…、残りの盗賊をとりあえず縛っちゃいましょうか…」
「あ、そ、そうですね!解りました、お~い!みんなも手伝ってくれ!」
盗賊たちを縛り上げている間、村人は終始無言だ。
(なんか気まずいな…)
手伝おうと思ったが、その前にやっておくべきことがある。
「≪アプライ:鑑定≫」
●モンスター:人間:盗賊:グスタフ Lv66 スキル:旋回投斧 促尖斧 爆打旋斧 衝撃斧 ハウリング パウンズ Mディテクト 瞬速 etc…
盗賊団、サーチスネークの団長。強盗、殺人、人身売買を生業としている
モンスター化している
状態異常に耐性(中) 弱点:氷、光
(死体だとやっぱ情報増えるな。でもetcて…。スキル名は解っても効果解らんし。
それにモンスターって、これは隠されていたのか?
途中で変化したようにも見えたけど、だとすると切っ掛けはなんだ…。
目を離してる時に外的要因でもあったとか…?)
ママルがそうこう考えている内に盗賊の捕縛は完了し、
ハンが今だとばかりに再び口を開いた。
「皆!聞いてくれ!この方が先日の神託で聞き及んでいた救世主だ!」
すると、村長が答える。
「そ、そうなのかえ?!」
「確かに先に説明すべきだったかもしれません!申し訳ない。
そうですよ!この村は救われたんです!」
「…し、しかし…」
そう言う村長の視界の先には、グスタフの死体。
爛れ、老い、腐り、元は人間だったとギリギリ解る程度に原形を留めつつ悪臭を放っている。
「!す、すみません!これしか手が浮かばなくて!」
ママルはとっさに口を出してしまう。
(嘘だ、本当はぶん殴った方が早かった)
「ママルさん、この力は一体…」
「ま、魔法、です。」
すると村人から口々に声が聞こえてくる。
「こんなのは見た事が無い」「信じられない」
「なんて悍ましいんだ」「恐ろしい」「悪魔じゃないのか」
(…まぁアレを見たら、気持ちは解るけどさ…)
「やめて!皆、助けてくれた人を、悪く言っちゃダメだよ!」
「あ、あぁ、そうじゃ、ルゥの言う通りじゃ…、申し訳ない、まずは感謝を…」
するとハッと気づくように、あるいは渋々と言ったように、
村人たちはママルに向かって頭を下げた。
「あ、い、いえ、大丈夫です…」
「そうだ、ママルさん、その仮面を取って、お顔を見せてあげてください」
「あ、そ、そうですよね!はい!着けてるのすっかり忘れちゃってて、はは」
言いながら素顔を見せると、人の表情を読むのが得意ではないママルでも、
一目でわかるくらい村人たちが安堵している様子が解った。
(ここではもうコレ被らないようにしよ…)
「ママルさん、と仰るのですね!この度は、本当にありがとうございます」
先程ルゥと呼ばれてた子だ。
(良い子だな、かわいいし…)
「い、いえっ、ありがとうございますっ」
素直に伝えられた感謝が喜ばしくて、ママルはついありがとうと返してしまった。
「?…私たちは何も」
「あ、いえっ、すみません、盗賊達を縛るの手伝ってなくて」
「そんなこと!それくらい私達にさせて下さい!」
「あ、ありがとうございマス…」
「…もうっ。ところで、今晩はどうなさるおつもりですか?良かったら、この村に泊っていってください」
「あっ、良いんですか?」
「もちろんです!ババ様も、良いですよね!」
「お、おぉ、もちろんですじゃ。空き家は沢山あるからの」
「あ、それでは、お言葉に甘えて」
「まだお聞きしたい事は山ほどありますが……、今日はもう遅い、ハンや!案内したっておくれ」
「はい!」
「後ほどお食事を持って行かせますゆえ、ごゆっくりしてくだされ…」
「ありがとうございます!」
ハンに案内され螺旋階段を登る、気づけばすっかり夜になっていたが、
通路をぼんやりとした明かりが照らしていてどこか幻想的だ。
しばらく後方からルゥと、その他に3人が付いて来ているのが見える。
「あぁ、彼女たち家族の家は壊されてしまったので、あなたと同じく空き家に案内するのです」
「あ、なるほど」
(そういえば、まさに家が吹き飛んだかのような瓦礫があったなぁ)
「大変でしたね」
「はい、でもママルさんのおかげで、この程度ですみました!」
「あ、捕らえた盗賊達はどうするんですか?」
「後ほど、儀に沿って処刑いたします」
「しょっ!…いや、そう、ですよね」
「ここは、隠れ里ですから」
正確な意味は解らなかったが、多数の意味が含まれているという事はなんとなく理解した。
――――――
連絡係が未だに来ないと、グスタフの命令の元駆け出したサイは、
昏睡状態の3人を見つけ、更に逃亡阻止班を確認しに行くと、
頭部に矢が一本突き刺さったギャスの死体を見つけた。
奇妙なことに他に外傷は見当たらない。
ギャスは裏では名の知れた魔法士、たかが一介の弓術士に、
それも一矢で負けるわけはない。それほどの手練れが居るのだろうか、
これは異常事態だと、焦る気持ちを抑え戻ってくるが、
そこで既に戦闘になっている事に気づく。
≪スニーク:気配消失≫を使用しつつ、隙があれば敵を殺してやろうとそのまま様子を見る。
グスタフが優勢だ。
そう思った瞬間、グスタフの敗北という形で勝負が決していた。
(なんだ、今のは。得体の知れない力…。
ここからボスや仲間を助けることは出来るのか?いや…)
判断は早かった。
即座に眠っていた3人も含め、全員を見捨てて撤退することを決める。
その姿は誰にも気づかれることはなかった。
(元の拠点に戻ってやり直そう、それに丁度いい、これからは俺がボスだ。あの小さいのとは関わらないようにしなければ…)




