116.吐露
「皆…。ちょっと良い?」
「…うむ」
「……どう話そうか、考えてたんだけど、全部正直に話す方が早いと思ったから、聞いて欲しい」
そう言うママルの真剣な表情に、皆に緊張が走った。
「俺は、今まで沢山人を殺した。特にアルカンダルでなんか、死体の山が出来るくらい。それなのに、ユァンさんが死んだとき、本当に死ぬんだ、って思ったんだ。何て言うか…。敵を倒す事と死が直結していて、味方でもそうなるって事を、勿論頭では解っていたけど、実感したって言うか…。馬鹿みたいな話だけど…」
「それはつまり、その、わしらを心配しとるという話か?」
「……まぁ、そう言う事」
「もしかして、ロォレストには1人で行くとか言うつもりですか?」
「ははっ、皆察し良いなぁ」
「毎日、一緒におるからな、お主の考えそうな事は、想像がつくでな…」
「私達が、ヴェントで苦戦していたからかしら……」
「……それも、ある。でもいざとなったら、逃げるだけなら簡単だったでしょ?」
「まぁ、そうですね…」
「となれば、やはりわしか。足手まといは」
「いや、やめて…違くてさ、確かに。戦闘面で、特に呪術師に対して皆を心配する気持ちはある。でも、誰がどうだとかって話じゃなくてさ。普通に、俺1人でやる方が、より皆が安全だってだけの話。合理的に考えた結果だよ。
これまでの戦闘も、結局俺がまともに戦えれば、すぐに決着するんだ。ヴェントでだって、俺1人で全部やってたら、多分ユァンさんだって死んでないって思った」
「…ローゼッタの協力もなしに、ヴェント城に1人で乗り込むなど、あの状況で出来る訳なかろう」
「まぁ、解ってるよ。聖騎士達への信頼あってこそ、街の人は守られたんだし。あくまで戦闘面だけで見た、ただの仮説だよ……。後悔が無い訳じゃないけど、これは後悔から言ってるんじゃないよ。ありがとね」
「う、うむ…」
「そして一番の問題が、皆はピンと来ないだろうけど、元凶の男」
「…それがロォレストにおると?」
「解んない。けど、そんな感じの事を言ってたから」
『多分ロォレストに行くんだろ?それまでに考えといてくれよ』そう言われた一言が、思ったより効いている…。
(アルタビエレと皆を会わせたくない。いるならいるで、絶対に仕留めてやる…)
「私は、寂しいわ…」
「え?いや、コープスと黒魔術師と呪術師でしょ。まぁ長くても2、3日もあれば…」
「…………そうじゃ、なくって…」
「………合理的、と言ったが、違うな。考えてみたら、それはわしらだけに限って言えば、だ」
「そ!そうですよ!ロォレストの人達だっているんですから!守ろうと思ったら、人手は多いに越したことはないはずです」
「だな、それこそヴェントやディーファンでの事の様にのう」
「…………俺は、それよりも皆を危険に晒したくない」
「……大勢の人の命がかかってもか?」
「コープス達を相手に長い事戦ってるんだから、多分そうはならないと思うし、
もしそうなったとしても、…俺は、そうだと答える」
「っ……。そんな事は…、言って欲しくは、ないでな…」
「…全ての人を救えるなんて思ってないし、誰だってそこに優先順位はつけるでしょ。俺は元々この程度の奴だよ。ヒーローなんかじゃない」
「勿論、ママルさんが、私達を優先したいって言う、その気持ちに嬉しさはありますけど、でも、なんか…、どうしたんですか?ママルさん。あんまり、らしくないって言うか」
「ママルちゃん…、ぉ、お腹痛いの?」
「いや……………。お、俺は………………………」
「全部正直に話すと言ったで?………いや、そうか、例の、元凶の男の事か」
「そ…、そうなんだけど………………………。最近さ、何か街で問題片付けて、次の場所向かってって流れになってるじゃん」
「……まぁ、必然の流れだでな」
「敵と戦うって時なんか、全然楽しくないし、不安だし腹立つし、めちゃくちゃ嫌なんだよね。人を暴力で殺す事は、不快感しかない。モンスターだろうと…」
「そうだな」
「それはそうですよ」
「ヴェントのお城の中での事、私も怖かったもの…」
「でもさ、そうじゃない時、楽しいんだ。ひたすら歩いてテント張ってた時も、プラムさんのフローターに乗ってた時も。皆とただ話してる時も。ただ飯食ってる時だって。……本当は、ジェイコフだってもっとよく見て周りたかったし!ワップイさんからコーヒーの淹れ方だって教えて貰いたいし!俺は、前世は、特別な苦みも、特別な幸せもない人生だった。だ、だからっ………」
皆は黙って、ママルの続く言葉を待つ。
「こっ……。怖いんだよ……。
俺が一つ魔法を唱えるだけで、人が簡単に死んじゃう…。
あの男は、下手したら、俺と同じかそれ以上の力があるかもしれない。
もし、皆にそんな力が向けられたら…。
もう、楽しく笑っていられなくなっちゃうじゃん……」
人は、自分の気持ちの奥底を吐露していると、
どうして泣きたくなってしまうのだろう。
それでもママルは涙を堪える。
でも、いくら堪えようと、そんな表情や声色から、心中はバレバレだ。
「ママルちゃん……っ!」
「い、いや、ごめん。その。だから……」
「だ、だが!それは、お主の身に何かあっても、わしらにとっては同じだろうが!」
「っ……ありがとう。でも、俺が勝てなきゃもうそれは、どうしようもないから。だから言ってるんだよ」
「………………」
「…ちゃちゃっとやっつけて、戻って来るからさ。
ってか、普通にいない可能性も十分あるし、その、だから、
あんまり重い話にしたくなかったんだけど……。
何て言うか。察して!みたいな奴。はは……」
すると、プラムが覚悟を決めたように発言した。
「私は、少なくともロォレストまでお送りすると決めています。ローゼッタ様との約束ですし、徒歩で行ったら、今日1日では着けないと思いますよ」
「………でも」
「道は解りますか?ロォレストは、言ってしまえばただの森です。
外壁も無く、公道が通っている訳でもありません」
「………いや、サンロックに攻めた時の侵攻ルートがあるんじゃ…」
「その侵攻は、そもそもがヴェントから派兵された物です。ご覧になられた通り、草原が多いのはシーグランで、グラスエスは湿地帯ですので。様々な池や川を越えて行かなければなりませんよ」
(………やばい…。完全に論破された。今の流れで、なんか、俺カッコ悪くないか?てか、今のヴェントからのってのも絶対言っちゃダメな奴だろ…)
「………じゃ、じゃあ、ロォレストの入口までで…」
「………解りました」
「プラム、お主やるではないか…」
「い、いえっ!すみません!……私は、皆さんの事情を把握している訳ではないですが…、それでも、少しでも力になりたくて…、戦なんて早く終わって欲しいですし…」
「じゃあ!わ、私も付いて行くわ!」
「ちょ、メイリーさん、だからその話は…」
「ロォレストの入口から帰ったら、プラムちゃんがここまで戻って来る時1人になっちゃうのよ?そんなの寂しいし、怖いから…」
「あ、あぁ…、そう言う事か…確かに…。じゃあこの3人で行って、2人には帰ってもらう形で…。ユリちゃんとテフラさんは残ってさ、ナントカってワニが出たら倒してあげてよ」
「……解った…、今回は、それで手を打とう……」
「そう…ですね……」




