表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/181

116.吐露

「皆…。ちょっと良い?」

「…うむ」

「……どう話そうか、考えてたんだけど、全部正直に話す方が早いと思ったから、聞いて欲しい」

そう言うママルの真剣な表情に、皆に緊張が走った。


「俺は、今まで沢山人を殺した。特にアルカンダルでなんか、死体の山が出来るくらい。それなのに、ユァンさんが死んだとき、本当に死ぬんだ、って思ったんだ。何て言うか…。敵を倒す事と死が直結していて、味方でもそうなるって事を、勿論頭では解っていたけど、実感したって言うか…。馬鹿みたいな話だけど…」


「それはつまり、その、わしらを心配しとるという話か?」

「……まぁ、そう言う事」


「もしかして、ロォレストには1人で行くとか言うつもりですか?」

「ははっ、皆察し良いなぁ」

「毎日、一緒におるからな、お主の考えそうな事は、想像がつくでな…」


「私達が、ヴェントで苦戦していたからかしら……」

「……それも、ある。でもいざとなったら、逃げるだけなら簡単だったでしょ?」

「まぁ、そうですね…」

「となれば、やはりわしか。足手まといは」


「いや、やめて…違くてさ、確かに。戦闘面で、特に呪術師に対して皆を心配する気持ちはある。でも、誰がどうだとかって話じゃなくてさ。普通に、俺1人でやる方が、より皆が安全だってだけの話。合理的に考えた結果だよ。

これまでの戦闘も、結局俺がまともに戦えれば、すぐに決着するんだ。ヴェントでだって、俺1人で全部やってたら、多分ユァンさんだって死んでないって思った」


「…ローゼッタの協力もなしに、ヴェント城に1人で乗り込むなど、あの状況で出来る訳なかろう」

「まぁ、解ってるよ。聖騎士達への信頼あってこそ、街の人は守られたんだし。あくまで戦闘面だけで見た、ただの仮説だよ……。後悔が無い訳じゃないけど、これは後悔から言ってるんじゃないよ。ありがとね」

「う、うむ…」


「そして一番の問題が、皆はピンと来ないだろうけど、元凶の男」

「…それがロォレストにおると?」

「解んない。けど、そんな感じの事を言ってたから」



『多分ロォレストに行くんだろ?それまでに考えといてくれよ』そう言われた一言が、思ったより効いている…。

(アルタビエレと皆を会わせたくない。いるならいるで、絶対に仕留めてやる…)



「私は、寂しいわ…」

「え?いや、コープスと黒魔術師と呪術師でしょ。まぁ長くても2、3日もあれば…」

「…………そうじゃ、なくって…」


「………合理的、と言ったが、違うな。考えてみたら、それはわしらだけに限って言えば、だ」

「そ!そうですよ!ロォレストの人達だっているんですから!守ろうと思ったら、人手は多いに越したことはないはずです」

「だな、それこそヴェントやディーファンでの事の様にのう」


「…………俺は、それよりも皆を危険に晒したくない」

「……大勢の人の命がかかってもか?」

「コープス達を相手に長い事戦ってるんだから、多分そうはならないと思うし、

もしそうなったとしても、…俺は、そうだと答える」


「っ……。そんな事は…、言って欲しくは、ないでな…」

「…全ての人を救えるなんて思ってないし、誰だってそこに優先順位はつけるでしょ。俺は元々この程度の奴だよ。ヒーローなんかじゃない」


「勿論、ママルさんが、私達を優先したいって言う、その気持ちに嬉しさはありますけど、でも、なんか…、どうしたんですか?ママルさん。あんまり、らしくないって言うか」

「ママルちゃん…、ぉ、お腹痛いの?」


「いや……………。お、俺は………………………」

「全部正直に話すと言ったで?………いや、そうか、例の、元凶の男の事か」

「そ…、そうなんだけど………………………。最近さ、何か街で問題片付けて、次の場所向かってって流れになってるじゃん」

「……まぁ、必然の流れだでな」


「敵と戦うって時なんか、全然楽しくないし、不安だし腹立つし、めちゃくちゃ嫌なんだよね。人を暴力で殺す事は、不快感しかない。モンスターだろうと…」

「そうだな」

「それはそうですよ」

「ヴェントのお城の中での事、私も怖かったもの…」



「でもさ、そうじゃない時、楽しいんだ。ひたすら歩いてテント張ってた時も、プラムさんのフローターに乗ってた時も。皆とただ話してる時も。ただ飯食ってる時だって。……本当は、ジェイコフだってもっとよく見て周りたかったし!ワップイさんからコーヒーの淹れ方だって教えて貰いたいし!俺は、前世は、特別な苦みも、特別な幸せもない人生だった。だ、だからっ………」


皆は黙って、ママルの続く言葉を待つ。


「こっ……。怖いんだよ……。

俺が一つ魔法を唱えるだけで、人が簡単に死んじゃう…。

あの男は、下手したら、俺と同じかそれ以上の力があるかもしれない。

もし、皆にそんな力が向けられたら…。

もう、楽しく笑っていられなくなっちゃうじゃん……」



人は、自分の気持ちの奥底を吐露していると、

どうして泣きたくなってしまうのだろう。

それでもママルは涙を堪える。

でも、いくら堪えようと、そんな表情や声色から、心中はバレバレだ。


「ママルちゃん……っ!」

「い、いや、ごめん。その。だから……」


「だ、だが!それは、お主の身に何かあっても、わしらにとっては同じだろうが!」

「っ……ありがとう。でも、俺が勝てなきゃもうそれは、どうしようもないから。だから言ってるんだよ」

「………………」


「…ちゃちゃっとやっつけて、戻って来るからさ。

ってか、普通にいない可能性も十分あるし、その、だから、

あんまり重い話にしたくなかったんだけど……。

何て言うか。察して!みたいな奴。はは……」



すると、プラムが覚悟を決めたように発言した。

「私は、少なくともロォレストまでお送りすると決めています。ローゼッタ様との約束ですし、徒歩で行ったら、今日1日では着けないと思いますよ」

「………でも」

「道は解りますか?ロォレストは、言ってしまえばただの森です。

外壁も無く、公道が通っている訳でもありません」

「………いや、サンロックに攻めた時の侵攻ルートがあるんじゃ…」

「その侵攻は、そもそもがヴェントから派兵された物です。ご覧になられた通り、草原が多いのはシーグランで、グラスエスは湿地帯ですので。様々な池や川を越えて行かなければなりませんよ」


(………やばい…。完全に論破された。今の流れで、なんか、俺カッコ悪くないか?てか、今のヴェントからのってのも絶対言っちゃダメな奴だろ…)

「………じゃ、じゃあ、ロォレストの入口までで…」

「………解りました」


「プラム、お主やるではないか…」

「い、いえっ!すみません!……私は、皆さんの事情を把握している訳ではないですが…、それでも、少しでも力になりたくて…、戦なんて早く終わって欲しいですし…」


「じゃあ!わ、私も付いて行くわ!」

「ちょ、メイリーさん、だからその話は…」

「ロォレストの入口から帰ったら、プラムちゃんがここまで戻って来る時1人になっちゃうのよ?そんなの寂しいし、怖いから…」

「あ、あぁ…、そう言う事か…確かに…。じゃあこの3人で行って、2人には帰ってもらう形で…。ユリちゃんとテフラさんは残ってさ、ナントカってワニが出たら倒してあげてよ」


「……解った…、今回は、それで手を打とう……」

「そう…ですね……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ