115.ムゥムェ村
リザードマンはママルからすると、2足歩行のデカいトカゲと言った感じに映った。
(竜人とは全然違う…。けどこれはこれでちょっとカッコイイかも…)
既にムゥムェ村内に入って、フローターを停め歩いているが、
村民はこちらを気にするように一瞥はするものの、未だ誰も話しかけては来ない。
大きな池の上に、木で作った通路や家々が連結するように並んでいて、
木の通路は歩く度にミシミシと音が鳴る。
「こっちで合ってるんですか?」
「す、すみません…、確か右手沿いだと聞いた気がするんですが…」
そもそも、どの家も外観は殆ど同じ様な物だし、案内板等もなく、
プラムが先導した道の先は通路が途切れている事が遠目に見えた。
「ちょっと、聞いてみた方が良いか…」
ママルはそう言うと、近くで真下の池に糸を垂らし、釣りをしているリザードマンの背に向かって声をかける。
「あの~、すみません、この村に宿ってありますか?」
「あ?嬢ちゃん、どっから来た」
「え、ええと、ヴェントの方です」
ママルはそう答えながら、リザードマンはドラゴンとは違って、器用に口を動かして言葉を話せるんだ、などと妙な感動を覚える。
「あ~。ほうかほうか。あそこ、見てみぃ」
リザードマンはそう言って、先程行こうとしていた道の先を指さす。
「通路が壊れてるだろい。少し前に、ギガントアリゲーターっちゅうデッケェワニが出よってよ。宿やら色々壊れちまったい」
「え、だ、大丈夫だったんですか?」
「若ぇもんが、頑張っとったからなぁ。追い返しはしたが、度々ここを狙う様に周囲を徘徊する姿が見えてよ。だから今は気が立っとる者も多いのよ」
(この人、年寄りだったんだ、わっかんねぇ~)
「なるほど…。ってか、そのワニ俺が倒して来ましょうか?」
「…………はっはっは、嬢ちゃん威勢が良いなぁ」
「え…。いや、困ってるなら、マジでやるんですけど…」
そんなママルの言葉に、リザードマンはママルの背後の面々に目を向けた。
子供が冗談を言っている様な空気ではない。
「えっと…、ほ、本当なんか?」
「まぁ、こやつらなら簡単に勝てると思うでな。ただ、そう都合よくまた現れるものかのう?」
「…まぁ、数日くらい待っても良いんじゃない?」
「うぅむ……。ロォレストでの戦は、結局2か月くらい続いておるのか…」
「それにもう、他の聖騎士達は到着してるだろうし、そんなに焦る事でもないかなぁ、とか…」
「……………どうだろうな…。それでも早いに越したことは無いとは思うが…」
「…ってか…………。いや、いいや」
「なんだ?」
「いや……あ、そうだ、結局他に宿屋はないんですよね?」
ママルはユリとの会話を切る様にして、リザードマンに向き直る。
「あ、あぁ、そうなんだが…、空き家があるから、宿代わりになるかもしらん。村長の所に行ってみると良い」
そして一行は、教えて貰った村長宅を目指して歩き出す。
「なぁ、お主よ」
「……ごめん、ちょっと一晩考えさせて…」
「そうか…。明日、必ず話すのだぞ。何のことか解らんが、流石に気になる」
「…………解った……」
村長と軽く事情を交えながら会話をすると、件の空き家へと案内される。
室内は一部屋のみで、それほど広くない。
ベッドも2つしかないため、持ち歩いている寝具を使って床に寝るしかない。
それでも、室内と言うだけで色々とありがたい。
早速中に足を踏み入れて荷物を降ろすと、プラムが口を開いた。
「すみません、結局ママルさんに色々やってもらっちゃって…」
「いえ、別にプラムさん、召使いって訳じゃないんですから、そんな気にしなくていいですよ」
「だな」
「私は床で良いので、プラムさんベッド使ってください。連日ずっとフローターの操縦して疲れてるでしょうし」
「私も、快眠スキルでどこでも快適だから平気よ」
「あぁ、じゃあプラムさんとユリちゃん使って」
「そんな!でも!」
「わしまでよいのか?」
「いいからいいから、とりあえず、晩飯食って寝るかぁ」
そう言ってアイテム袋から食事を取り出そうとしていた所、ドアがノックされ、
近くにいたテフラが扉を開いた。
「あ、さっきの…」
「おぉ、ちゃんと貸してもらえたみたいだな、えかったえかった」
「さっきはあんがとな、お主は、名は何と言うのだ」
「俺ぁワップイっちゅんだが、いやな、折角だ、飯でもご馳走してやろうかと思ってな」
「それはありがたいが……、何故だ?」
「面白そうな奴らだと思ってな。まぁつまるところ、爺の暇つぶしに付き合ってくれっちゅう話だな」
「ふむ…そう言う事であれば…」
ユリは皆と目を合わせて、特に否定もない事を確認して立ち上がった。
ワップイの家は、一階の中心部に火鉢が置かれており、それを皆で囲んだ
「魚嫌いなもんはいるかい?」
また先程と同じように、皆が顔を合わせると、ママルが答える。
「いえ、いなそうです。ありがとうございます」
下処理を済ませて、串が打たれてある魚が火鉢で焼かれて行く。
「ふう、さてと、…っと、茶も出そう」
ワップイはまたいそいそと準備に取り掛かると、ママルはその背に近づき声をかける。
「あの、手伝いましょうか?」
「いやいや、ええからええから。それより、葉が残り少なかったんだった…、豆でええかい?」
「豆?もしかして、コーヒー?」
「おっと、そう言う名だったか」
「まじ?俺コーヒーが良いっす」
そう言って振り返ると、ユリがシブい顔をしている。
「………あの苦いやつだろ…」
「ハッハ、砂糖はあるからな、必要な子は足したらええ」
そう言ってワップイは、火鉢で湯を沸かし始めた。
「よしと。そんでな、俺ぁよ、外の人の話を聞くのが好きなんだ」
「なるほど」
「ほんとにそんだけだから、なんか緊張しとる者もいるみたいだが、気楽にしてくれ」
「ここの人達って、結構いろんな種族の人を見慣れてるんですか?」
「まぁそうでもないが、あんたらは、リザードマンは初めてか?」
「そうですね、皆初見だったかと」
「あ~、それでか、緊張しとるんは。リザードマンと言う呼ばれ方もそうだが、
他の人族とはなんと言うか、外見の違いが一層気になるか?」
「すまんな、お主を警戒していた訳では無いのだが…」
「いや、ええ、ええ。接し方が解らんと、そうもなろう。ただ、文化の違いはあれど、同じ言葉で話しが通じる。俺ぁそれで十分と思っちょるよ」
「…うむ。その通りだな」
「でも嬢ちゃんは全然そんな感じせんな?」
「えっと、ママルです。なんか、むしろ結構興味ありますね」
「ほ~ん。まぁ、子供っちゅうんは好奇心旺盛な方がええからな」
それぞれ自己紹介がてら談笑しつつ、食卓を囲んだ。
その夜、皆で仮屋に戻る頃、
ママルは1人で外を散歩することにした。
(コーヒー、結構うまかったな…。
ユリちゃんとメイリーさんなんか、めちゃくちゃ砂糖入れてたけど…。
色んな種族に会うのって、楽しい気がする。異世界って感じで。
もっとゆっくり。街や村を周ってみたいなぁ…。
順当に行けば、明日にはロォレストに着いてしまう…。
また、面倒事が起こるんだろうな…)
――
「ママルちゃん、楽しそうに笑ってたけど、なんだかちょっと辛そうだったわ」
「そうですね、私も気になってましたが…」
「そ、そうだったんですか?すみません…気が付かなくて…」
「いや、プラムが気にする事ではない。一晩考えたいと言っておった。明日、改めて聞こう」




