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113.我慢

民宿の女将が、皆に手料理を振舞いながら問いかける。

「あんたら、どっから来たんけ?こったらとこさ珍しい」

「わしらは、ヴェントの方から来たで。グラスエスの方に用があってのう」

「ほんならオルーガルの方通る方が近いやろ?」


オルーガルと言うのは街の名前で、ここケイプーロ村よりも南に位置する。

実際グラスエス国へ向かう多くの者はそちらを経由する事が殆どらしい。


「あ、あの、ローゼッタ様をご存じないですか?」

「あの聖騎士様の?勿論知っとるよ、以前来てくれた事があんだ」

「その、ローゼッタ様に紹介されて…」

「あんれまぁ!!!そったら気に入ってくれたんけぇ?嬉しいなぁ」


「ははは、でも解るな。この煮付け?めっちゃ美味いですし」

ママルがなんとなく相槌を打つと、女将は一層顔を綻ばせる。


「お嬢ちゃん!いやぁ、あたしの料理、どうにも子供受けが悪ぃんだけんど、良かった良かった」


そんな女将の姿を見て、メイリーはニコニコ笑顔でテフラに話しかける。

「うふふ…、可愛いお母さんね」

「ふふ、そうですね」


「あらっ!嫌っだもう!!ここ、普段近くの村の人しか使わんから、

そんなに材料ないんだけんど、色々調達してくっから、ちょっと待っとって!!」

「あ、そんなに気を使って貰わなくても…」

「良いから良いから!!」


女将はそう言ってパタパタと外へ出て行った。



「なんか、変に気使わせちゃったかなぁ?」

ママルがそう言うと、台所の奥にいる老爺から声が上がる。


「外の客が珍しいんだ。あんたら良い奴みたいだし、あいつも嬉しいんだろ、好きにさせとってくれ」

「あ、ありがとうございます~」

「今、鶏肉出しちゃるから、ちょっと待っとき」


肉が焼けるなんとも香ばしい香りが皆の鼻を擽ると、

何人かはゴクリと喉を鳴らした。




――



一行は、正に腹パンパンと言った感じで、部屋でくつろいでいる。


「はぁ、ここめっちゃ良かったな…」

「こんなに食いすぎたのは、久々な気がするで…、うっ…、ふう」

「あ~~~、あの梅酒、絶対ユリさん達も飲んだ方が良かったのに~~」

テフラはそう言いながら、ユリの膝に頭を乗せてくっついている。


「ま、まぁ、今度な」

「ん~~…、ユリさん、誕生日いつですか?」

「…わしが生まれた日がいつなのかは解らん」


「あぁ、そっか、じゃあ歳も実は正確じゃない感じ?」

「そうだな。赤子だったわしを見つけたリッツが、何歳くらいだと想定して、その見つけられた日を誕生日にしとった形だな」

「いつ?」

「6月1日。お主が現れる、1週間くらい前だな」

「そ、そうだったんだ…」

「今9月終わり頃だからぁ…、まだまだじゃないですか~~!も~~!」


ジタジタとテフラが暴れると、メイリーがなだめる様に撫で始める。

「よ~しよしよしよし」

「ふふふふ、顎の方も撫でて下さい」


「はははっ」

(3人くっついて、この絵おもろいな、あとちょっと羨ましい、いやホント、ちょっとだけ)

少し酔っているママルが内心羨ましがっていると、

同じく少し酔っているプラムが真剣な面持ちで聞いた。


「あ、あの…、ユリさんは…、その、孤児だったんですか?」

「あぁ、いや、そうだな。なんと言うか、わしは、エルフの里で見つかった赤子だったのだ。その里の村長を親と思っとるから、親もおらんと言うつもりはないが、

一体わしはなんなのか、誰に捨てられたのか、何か解る事はないかと思って旅をしておる」


「そ、そんな事が…、すみません、立ち入った話を」

「いや、よい。嫌だと思っとったら話しとらん」


「私は、村が焼かれちゃった!!盗賊!全部殺~~す!!」

「ちょっ!テフラさん?!梅酒がめっちゃ効く体質なのかな…」

「だって!未だに!あの時捕まった仲間が、まだ生きてるかどうかも解らないのに…もう~~~!もうもうも~~~!!」

「よ~しよしよしよし」


「…まぁ、そうだよねぇ…。皆、色々我慢してんだよな………」

「…そうかもな…。お主は、大丈夫か?」

「…………俺は…………うん。まぁ、大丈夫」

「…おい、それ絶対何かあるやつではないか」

「いや、とりあえず無いって」

「とっ、とりあえずとはなんだ!白状せんか!」

「ままま、追々ね、追々」

「…………仕方がないのう…」

「気にしすぎだって。もう布団敷いて寝ちゃお」


ママルの声を合図に、皆が寝支度を初めて横になった。

そんな折、テフラがポツリと話す。


「私、盗賊が来た時、逃げたんです。コヤコと一緒にいて…2人で…。家には戻らずに」

そんな独白を聞き、皆は押し黙った。


「結局掴まって、盗賊に引き摺られて行った先で、両親は殺されていました。盗賊団グレムズの、誰がやったのかも解らないまま、奴らを皆殺しにして、復讐は終わってしまいました。なんて言うのが正しいのか、解らないんですけど、ずっとモヤモヤしてて。でも、少なくとも村の子供達は生きてるって解って、とっても嬉しくて…。……なんだかなぁ……。どうして、逃げちゃったんだろうなぁ…」


「それは仕方あるまい…。その時は、今ほどの力は無かったのだろうし…」

「解ってるんですよ……。結果は、きっと変わってない。むしろ悪化してたかも。

でも、そういう事じゃなくって……」

「わ、私は…、絶対皆と一緒にいたいわ。私にこんなに良くしてくれるから、戦いは怖いけど、とっても嬉しいのよ?」

「ふふ、私も、同じ気持ちです」

「そうか………………。そうだな」



ママルは、改めて思う。

クソみたいな奴が蔓延るこの世界でも、せめて皆には平穏で居て欲しいと。

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