112.沈鬱
「とりえず、その、あなた達は何が目的なんですか?」
「……人間が操るフローターの中に、獣人が見えた。だから止めた。
人間共は、平気で他種族を道具の様に扱うからな。イカレてるんだよ」
「…奴隷の解放か…、それはまぁ、気持ちは解りますけど」
「けど?なんだ」
「本当は解ってるんですよね?だから、最初の矢は、当てなかった」
「…………」
「人の本質なんて、種族で計って良い物じゃない」
それにそもそも、国で認められているなら、
奴隷を使う事自体には何の問題も無く、勝手に奪う事こそが犯罪になる。
勿論、非人道的な行いだとは解っていても…。
本気で解決しようと思ったら、その両面から当たらなければならない。
「ちっ!!……」
「でも、俺達を助けようとしてくれたって事ですよね?そこは一応、感謝しときます…」
「………………」
すると、男のダークエルフが近づいて来て話す。
「ジュニファ。もういいだろ。実際、1個人単位で見れば、我々と仲の良かった人間だっていた」
「兄さん………でも。結局、伝わらなかった」
「………違うだろ?」
「だって……私は………」
(この2人は、兄妹か……。何の話だ…)
すると、別のダークエルフの女が近づいて来た。
「すまないね、ええと、あたしはクィンス。そしてあっちの寡黙な男がパシモ。
それから、ジュニファとジュダス兄妹。全部で4人だよ」
(ようやく話が通じそうな人が出てくれたか…)
「ふぅ…。俺はママルです。で、あなた達は、奴隷解放をするために、この辺で活動してるんですか?」
「いや、君達のフローターを見つけたのはたまたまでね、
ジュニファが突っ走るから、あたし達も焦っていた所さ」
「なるほど……どうしてダークエルフがこんな所に?」
「ちょっとヤボ用でね、今からロォレストに帰る所だったのさ」
「………………俺達は、ロォレストでの戦いを止めるために来てます」
「な!…なんだって………?」
「ヴェントで、国王派が行っていた奇行を止めることが出来たんですよ、
なので、ロォレストで戦っているコープス。死体の兵士の事ですが、
それと、それを操る奴らを止めます。
聖騎士達も数日前に出発してたので、既に到着していれば、
敵の討伐にかかってると思いますが…」
「……な、なんて事だ…っ!!おい!皆!聞いたか!!」
「見事にすれ違ったか…。だが、この無駄な戦いを終わらせることが出来そうだな。目的の物も手に入った事だし」
「じゃあ、さっさと戻りましょう…。この人達は、もういい」
(……目的の物…何かを入手しにこの辺りに来たのか…)
ママルがそう思った矢先、場が安全だと思ったユリが身を乗り出し話しかけた。
「なぁ、ロォレストは、今どんな状況なのだ?」
その声に振り向いたジュニファは、目を見開き、ユリを見つめる。
「…………サ、サクラちゃん?」
「?…わしは、ユリと言う名だが……」
ジュニファはユリをジッと見つめると、次第にユリの表情は、疑問から真剣な物へと変わって行く。
「………お、お主は」
「よく見たら、全然違った。人違いだ、ごめん」
「生きていたら、人間ならこんなに幼くはないだろ」
「そうだね、行こう」
「ま!!待っとくれ!!そのサクラと言う人物について、詳しく聞かせとくれ!!」
ユリの言葉を無視する様に、ジュニファは駆け出し、他の3人はその後に続く。
「なぁ!お主よ!!!!」
「良いのか?」
「人間とは、あまりしゃべりたくない…≪翔草≫」
スキルを唱えると速度を上げ、他の3人も同じスキルを使い後を追った。
「お、追いかける?」
「……いや……………よい」
「でも、なんて言うか、流石に気になる…。何か、縁があるんじゃ…、
そもそもユリちゃんは自分の事を知るのが目的なんだしさ」
「……それは……。そうだが、皆の予定を狂わすわけにはいかん。
ロォレストに向かっているのなら、また会えるだろうしのう…」
その後、無事ケイプーロ村へと辿り着いた。
空が夕焼けに染まっている。
一行は、宿の場所を探して歩き出す。
(寒村、って感じだな。イーツ村よりは全然ちゃんとしてるけど…。
ローゼッタさんに言われた通りの場所だけど、ジェイコフと街の規模感に落差がありすぎる。って事は……、やっぱり、さっきのダークエルフの話と合わせても、
この辺りの他の街や村は、普通に奴隷がいたりするのかもな…)
他種族を道具の様に扱う、そんなジュニファの言葉と合わせて実態を想像すると、
中々に胸糞悪くなってくる。
(これは、ホントに国を変えないとダメだな…。あの王様、さっさと良くなれよな…)
テフラも似たような事を感じ取っていたのか、その表情は険しい。
そしてユリは、先程のサクラと言う人物の事が気になって仕方ない様子だ。
プラムは、自身の死を間近に感じた恐怖が抜けきっていない。
宿は民宿で、2階の大部屋へと案内され、5人が入室する。
寝る用の布が部屋の隅に畳まれており、ベッドはない。
(ちょっとボロっちいな)
ママルは、なんとなくクラレンドが居た山小屋を思い出したが、
流石にこちらの方が綺麗ではあるので、少し申し訳ない気持ちになった。
「ふぅっ」
ママルは普段から持ち歩いている大きな荷物を下ろし、一息つく。
(……なんか皆暗いな…、誰も何もしゃべらない…、気まずっ)
「…………巫女とは、わし以外にもいたらしい。神様が言っておった」
「あ、あぁ、珍しいって言ってたんだっけ…。って事は、そう言う事か」
「具体的に何人知っとるとかは、そう言えば聞いた事は無かったのう…」
「…聞いちゃえば?一言くらいなら行けるんでしょ?」
「……いや、ただ人数を知った所でな……なんと聞くのが正解か…」
「ってか、と言う事は、ジュニファさんは巫女を判別したって感じだった?」
「……解らん、だのでそもそも、本当に他人の空似だった可能性の方が、ずっと高い。だと言うのに、なんだろうな…。凄く、胸の内がザワつくのだ」
「…まぁ、どっちみちロォレストには行くんだしさ。それから考えても良いんじゃない?」
「まぁ……そうだな」
すると、プラムは当然疑問を投げかける。
「あの…、か、神様って…」
「…………わしは、神様と話せる力がある。そんだけだで」
「そ!そんな事って……」
「ま、まぁ、そっか、別にそこは隠してないか…」
「おい、ママルよ」
「え?」
「い、いえ、…その、大丈夫です」
(…そうか。しまった…そこは隠してない、とか言っちゃうと、他に隠し事してますって言ってる様な物だ…)
実際隠しているのは、世界の仕組みの話だ。肉体、精神、魂の3つで生き物は構成され、精神が一番優先度が高く、精神が望む形に肉体すら変化する。そういった話の事だ。ローゼッタにでさえ、ここまで入り組んだ話はしていない。
また、しばし沈黙が流れた。
すると、メイリーが、今にも泣き出しそうな声を張り上げる。
「ね、ねぇ!!どうしたら皆元気になってくれるの?!私、何だってするわ!」
「……あ、あぁ、すまんな、そうだな。元気が無かったかもな」
そんなユリの声に続いて、テフラが答える。
「っふぅ…。そうですね。晩御飯でも食べましょう、用意してくれてるんですよね?」
「は、はい!ここの女将さんが作ってくれてるはずです!私は食べた事ないんですけど、知り合いが美味しかったって!」
「ほう、では早速下に降りてみようではないか」
「おっけ~、何食えるんだろ、結構楽しみだな」
「…メイリーさん。ありがとうございます」
「わ…私は、なんにも…」
「メイリー、あんがとな」
「いや、まじ助かった、暗い雰囲気での食事とか最悪だからね」
「え、えへへ……よかったぁ」
「ひょああああああっ!!!」
突然ママルが奇声を上げて、皆が注目した。
「バッ≪バニ!…でっ!でっ、でっ、でっかい蛾!!!そこ!!階段の上んとこォ!!た!!!たっけてぇ!!!」
すんでの所で、屋内で、しかも仲間が近くにいる時に攻撃魔法を撃つなどと言う事態を回避しながら、ママルはユリの背に身を隠す。
テフラが一応毒に気を付けて、気力を纏った手でその蛾を掴み捕ると、窓から外に放り出した。
「ぷっ…ふふふ………」
「お主、情けないのう……くくくくく…」
「ママルちゃん、蛾が苦手なの?」
「む、虫全般、無理…、最近、慣れて来たと思ってたのに!家の中であのサイズは反則だって!!」
「はっはっはっはっは!!」
「笑ってないで!ユリちゃん!寝る時は絶対に守静陣使ってね!まじ!お願いします!!」
皆のやりとりを見ていて、プラムは先程まで感じていた疑心や恐怖が、不思議と消えていくのを感じた。




