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110.妄想

「おわ~~!すっげ!」

泊まる部屋の中はママルがそう声に出してしまうのも頷ける程広く、

それこそ豪邸のような家具や調度品が小奇麗に並べ立てられている。

目に入る広いリビングからいくつかの扉が見えて、

それをメイリーが次々と開き、その度に感嘆の声を上げる。


「綺麗~~!広いし、凄いわよ!皆一緒に寝られるわ!」

「な、なんだこりゃ…ベッドが、縦より横の方が長い………」


「わ!!お風呂もおっきいわ!!すごーい!!」

「な…なんだこれは…。半分外ではないか……」


「結構よさそうですよ~っ、高いから、外の目とかなさそうですし」

「テフラさん。酔っぱらって風呂入るのは危ないですよ。溺れちゃうかも」

「皆一緒に入ればいいじゃないですか~、折角大きいんだし~」

「ふむ。よいな。シイズでは当たり前だったから、最近の1人用の浴室はどうにも狭く感じてのう」


(……………お、俺は、ラッキーイベントだなんて思わないぞ…。

だって、変じゃん。女風呂に俺が混ざるとか。

ルゥさんの時は、ほら、押し切られた形だったし……………)

「俺は…明日の朝にでも入ろうかな…、ね、眠いし…」

そんな事を言いながらベッドの隅の方で横になるママルを尻目に、プラムが皆に声をかける。

「そ、それでは、私はこれで…。今日はありがとうございました…」

「え?プラムちゃん!帰っちゃうの?」

「…え?っと……」


「お主は、別の部屋をとってあるのか?」

「あ、あの、今から、街のはずれの方に探しに行こうかなと…」

「であれば、ここで寝て行けばよかろう。5人でも十分な広さだで」

「………で、ですが」


「ぁ、プラムちゃんは…、ぃ…、一緒にいるの、嫌?」

「い…いえ…。その…、ご迷惑かと…」

「そうだったのね!じゃあ大丈夫よ!お風呂に行きましょ~!」


そう言ってメイリーはプラムの腕を引っ張って行った。



気がつけば、寝室にはママル一人だけになっている。

(さ、寂しくねーし……。さっさと寝ちゃお…)

ママルは、自分の尻尾を抱き枕にする様にして眠りについた。



――露店風呂で4人が湯に浸かっている


「ママルちゃん、どうして来ないのかしら…」

「まぁ、遠慮しとるのだろ」

「そうでしょうね~~、別にいいのになぁ」

「だな。以前どうだったとか、それ程気にする事なのかのう?そもそも事実としては女なのだし、よう解らんわい」

「ま、そこもママルさんの良い所だとは、思いますけどね~」

「なんだか、ちょっと寂しいわ……」


(…何の話をしてるんだろう…。ママルさんに、以前何かあった?…男とか女って、どういう…)

「っと、そうだった、すまんな、プラムよ。忘れとくれ」

「えっと…、は、はい」

「…隠し事をした感じになってすまんな。だが、お主を信用しないと言う事ではないでな。と言うか、別に話してもよいのだが…逆にめんどくさい感じになりそうな…」

「わ、解りました…あ、ありがとう…ございます…」


「そうだ!私プラムちゃんの事、もっと聞きたいわ!」

「わ…私、ですか?」


「それはよいな。共に話せる時間も限られているのだし」

「え、えぇっと……」

「普段、どういう生活をしとるのだ?仕事は聞いたが」

「そっ、その、……下水の管理って、馬鹿にしないんですね……」


「……………すまん。何故だ?立派な仕事だろう。王都等大きな街になるほど、

そう言った支えが無ければ成り立たん。それにつまり、ヴェントの街が運営する仕事だろ?信頼が無ければ任せられんはずだで」

「……た、確かに、今回の任に就いたのも、ローゼッタ様からご指名を受けたからですが…」


「ほれ見た事か。言うまでもないが、聖騎士と言うのは貴族だろ?

ローゼッタ等、さぞかし名家に違いないと言うに。

と言うか、何故フローターの御者をお主が行っとるのだ?」


「えっと…、以前、御者の数が足りないってなった時、求人が出されたんです。

ヴェントは魔法士自体はそこそこ多いですから…。そこで、運よく受かってからと言うもの、時々こうして、ローゼッタ様が仕事をくれるんです…」


「ふむ…下水の方は公務だからこそ、貴族ならば融通も利かせられると言った所か…」

「そ、そうかもしれませんね…」

「であれば、なぜ自分の仕事を誇らんのだ?」

「えっ…と…」

「………もしや、その、まさか見合った給金を貰っていないのか?」

「い、いえ…………………。その。私は、父親が病気で亡くなっていて…。

弟が5人いるんです……、弟たちはまだ子供だから…、私が、頑張らないと…」


「……ふむ、なるほどのう……。お主は立派だで」

「家族を大切にするのは、とても良い事だと思います」

「あ、ありがとう、ございます」



ユリとテフラの言葉を聞いて、メイリーが小さく呟く。

「……ごめんね…」

「…メイリー。お主よ」

「ごめん!ち、違うの…。解ってるのよ?皆はそんな事言わないの…。

ごめんね?変なこと言って………」



(今のも、一体どういう事なんだろう…。皆、色々あるんだな…)


暫く沈黙が続いた。



「あ!そうだ!プラムちゃん、水の魔法使えるのよね?今何か出来るのない?見てみたいわっ」

「…えっと…、そ、それじゃぁ…≪フォータン:噴水≫」



プラムは下水管理の仕事では全く使わない、幼い頃最初に覚えた水魔法を唱えると、4人の中心部に当たる湯が、水球となり、真上に向かって噴き上がった。

そして1、2メートル程度上がった所で、まるで花火の様に球状に散る。


「わっ!わ~~~!!すご~~い!!」

「実に繊細な魔力操作だのう~~」

「綺麗な魔法ですね…」


3人の感嘆の声を聞いて、プラムはぎこちない笑顔を見せた。

「ふ、ふへへ…っ」





――翌朝。

ママルは意図した訳ではないので、宣言通りという訳では無いが、

かなり朝早い時間に目が覚めたので、1人で風呂に浸かっている。



(……改めて思ったけど、気づけば女の子ばっかりのパーティーになってる。

だからってワケじゃないけど、普通に男の体で居たかったと思った事も何度かあったけど、何と言うか、今の方が良かったのかもな…。


考えてみたら、俺がこんな姿じゃなけりゃ、ユリちゃんも直ぐに付いて行くって言ってたか解らないし。ってなると、テフラさんやメイリーさんだって、パーティーに入ってたか解らないし。それに、いつ終わるとも知れない旅で。男女混合は普通に良くないしな。ゲームじゃあるまいし。

良い年齢の男女がずっと共にいれば、普通に恋愛が始まったりもするだろう。


例えばこのパーティーにイケメン勇者君なんかが入って来て、って考えれば解る。

そいつがどんだけ良い奴だろうとも、それは何か普通に嫌だ。

常に皆一緒にいる状況でそんなの、絶対に面倒事に発展するに決まっているし。


宿は毎回2人の部屋をとって、朝スッキリした顔で起きて合流してきて、

冒険に行くぞ!って言われてもさ。気分悪ぃわ。

2人パーティーなら全然良いよ?好きにしてくれ。

そんで別れたり、別の子と付き合ったりして、関係性がグチャるんだ。

俺だったらそんなパーティー、一刻も早く抜けたいね。


……………………………これは………ただの嫉妬か?

自分で空想したキャラクターに嫉妬て、我ながら馬鹿すぎる。


いや、でも、自分がその勇者君だったと仮定しても、やっぱ嫌だわ。…良いけど嫌だわ。パーティーメンバーなのに、守るべき優先順位を明確につける事になるし…。どの面下げて他の子に毎日顔を合わせるんだよ。


自分が、その立場……………………。

………なら、ハーレムパーティールートか…。

………………………………………………。


こういう妄想って前世では楽しかったハズなんだけど、実際に考えたらやっぱきちぃな……。恋人だったら、一番だと思われたいだろ、普通。

一夫多妻を否定するわけじゃないけど、俺が一妻多夫の夫側って考えると無理だわ………。

…いや、この世界の価値観って、その辺どんな感じなんだろ。

……てか……なんでこんな恋愛脳になってんだ俺は…。しかも、仲間達の姿を彼女みたいに仮定して………オワってるわ…マジ…やめろ………)



そしてふと、ママルは水面下の、自身の体を見つめる。



(そもそも、夫側。じゃないんだよな…俺は……。男と結婚……。絶っ対に無理だ。…じゃ、じゃあ俺って、独身のまま孤独死確定じゃん…!!

まぁ、前世の時点で、ある程度覚悟してたし、いいけどさ…………。

自分が可愛いと思うキャラの姿になって、そんな悪くない気分だったけど、やっぱ男に戻りてぇかもしんねぇ…、せめてあのキャラクリした日、男にしておけば…)



そんな妄想を続けていると、不意に、頭の片隅に、

人を殺しまくってるお前には、そんな普通の未来は来ない、と囁く自分がいた。

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