109.ジェイコフ
――ジェイコフの街が見えて来た。
「またデカい街だな~」
「ヴェント滞在中、多少情報は集めたのだが、ここはシーグランの旧王都だったらしいで。何十年前だったか、詳しくは解らんが」
2人のやりとりを聞いて、プラムが声をかける。
「た、確か、80年くらい前だった様な、気がします」
「ほ~」「へ~~」
ジェイコフの門へと近づき、プラムが門衛と何やら話すと簡単に中へと通された。
フローターを既定の場所へ停め、皆は数時間ぶりに地を踏みしめると、
テフラがプラムに問いかける。
「ローゼッタさんが用意してくれたと言う宿は、どの辺りなんですかね?」
「だ、大丈夫です…。私が案内しますので」
そう言って街中をプラムが先導し歩き始めた。
「お主は、この辺りに詳しいのか?」
「は、はいっ。いえっ。何度か来た事はありますが…。特に詳しいと言う訳では…」
「わ、私、お腹が減っちゃったわ…。先にご飯屋さんに行きたいな…」
「あ、えっと、宿で用意してくれると思いますよ」
「そうなのね!楽しみだわ!」
やがてたどり着いた宿は、ママルがこれまで避けて来たような、
やたらと豪華で大きな建物だった。
エントランスからして、やたらと広く、美術品の様な物まで飾ってある。
「お、おう…なんか凄いな…」
「なんと言うか、少し委縮しちゃいますね」
「ね」
「なんだかお姫様になったみたい!」
「ローゼッタの厚意だろう。折角の機会だで、楽しんでみよう」
「ユリちゃんもなんかワクワクしてない?」
「っ!……そ、そうかもな」
「お待たせしました。これが鍵で、皆さんの部屋は最上階です」
チェックインを済ませたプラムが、そう言って鍵を手渡して来る。
「最上階…」
「す、すみません!階段の昇り降りだって、大変ですよね!」
「え、あいや、それは全然大丈夫です」
「そ、そうですか。それでは、私はこれで…。明日、朝10時にここで落ち合いましょう」
「え?プラムちゃんもご飯食べてかないの?」
「えっ、いや、私は……」
「名案だで。これから何日か一緒にいるのだ、食事等は共にして、親睦を深めておいた方がよい」
「確かに。私もそう思います」
「だね」
「……し、承知しました…。で、では…」
「やった!行きましょう!」
館内のレストランに向かうと、とても広い空間にテーブルがいくつも並んでいたが、プラムは更に歩き続ける。辿り着いた先は大きな個室だった。
ママルはどうしたら良いのか解らず、とりあえず席について待っていると、
程なく、やたらとダンディな中年男性が現れる。
「ようこそおいで下さいました」
「あ、ど、どうも」
「私は当館のオーナー、チャールズ=タルボットと申します。
ローゼッタ様からの紹介状。確かに拝見させて頂きました。
ママル様たち御一行。丁重におもてなしさせて頂きます。お料理は勿論、お部屋でも、何かご不満等ございましたら、ご遠慮なく仰ってください」
「は、はい、ありがとうございます…」
「それでは……と、す、すみません……。4名様だと伺った気がするのですが…」
「あ、っと、その、俺達から1人誘ったので、食事も5人分でお願いします…」
「…成程。承知いたしました。それでは準備して参りますので、今しばらくお待ちください」
「ありがとうございます」
チャールズの言葉に硬直してしまったプラムが、ママルの応答を聞いて焦って答えた。
「す!すみません!!すみません!!」
「いや、大丈夫です。ふぅ。なんか緊張したな」
「ママルさん、ナイスアシストです」
「よう即座に察したな」
「な、なんとなくね。プラムさんも、慣れてるってワケじゃないんですね…」
「は、はい…。御者として、何度か聖騎士様達に付き添って来た事があるだけで…。そ、そもそも、私は貴族でもなんでもないですから…」
「私達も違うわよね?」
「そうだな、ここに貴族は1人もおらんで?」
「そ、そうなんですか?ローゼッタ様と仲が良かったみたいなので…」
程なく料理が順に運ばれてくる。
コース料理らしく、持ってくるたびに何やら説明しているが、ママルは大して意味も解らないので、料理名の一つでさえも右から左へと抜けて行った。
だが、味は確かにうまい。
前世で味わった事のある様な、一周回った様な妙な味付けのおかしな料理と違って、きちんと深みのある味わいがする。
「うわ~~うま。赤ワインも、かなりイケるよコレ」
「お主、あまり飲みすぎるなよ?」
「1人頭、ボトル1本で手を打とう」
「先ほどメニュー表を見せて貰ったが、普通のワインの5、6倍はするで?」
「まじ?……。ま、まぁ、今は余裕あるし…」
「その、と言うか、ローゼッタ様の紹介状ですし、出して頂けると思いますけど…」
「まじかっ!ありがたい~~、んだけど、逆に暴飲するワケにも行かなくなったな…」
「だからするなと言っとろうが」
「ローゼッタさん、ありがと~~」
「ロゼちゃん、ありがと~~」
「テフラさん、やっぱ酔うの早いですよ」
「ふふふっ。プラムさんは飲まないんですか?」
「い、いえ、私は…」
「好きじゃないとか?」
「い、いえ、ワインは、好きですが…」
「え~~、じゃあ勿体ないですよ~。美味しいのに」
「ユリちゃんもメイリーさんも飲まないから、今2:2だ。これはプラムさん次第でどっちが勝つか決まるな」
「か、勝ち負けなのか?」
「フルーツジュース、とっても美味しいわよ?」
「メイリーの言う通りだで」
「飲み仲間~!増えろ~!」
「じゃ、じゃあ、一杯だけ…」
「っしゃい!!」
「……勝手に負けを押し付けられた気がして、中々に腹が立つのだが」
「すす!すみません!!」
「いや、お主に言ったのではないで?ママルは時々、こんな感じでウザいのだ。
酒が入ると特に、相手にするだけダルいしのう。覚えておくのだぞ」
「ユリちゃん…、い、言いすぎじゃない?」
「えっと…」
(………この人達……、なんか変…)




