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108.プラム

1週間が過ぎた。

ローゼッタがスカウトしたメンバーは、呪術師の危険性が想定以上だったため離脱させ、聖騎士隊の一部は5日も前に、グラスエスに侵攻しているコープスを止めるべく出発している。神殿を守りたいのは勿論、ダークエルフ側にも無益な損害を出したくはないとの話だ。


だが、ローゼッタは今いる貴族達と今後の話をする必要があったし、ママルはヴォヌエッタ王の治療があるため、毎日通う必要があったため動けなかった。

≪サニティ:正気持続≫で正気を取り戻す時間を定期的に作っていたが、ようやく、≪サニティ:正気持続≫をかける前後での会話に、完全に整合性が取れた。


今日で、ママルが出来る分の治療は終わりだ。

それでもヴォヌエッタ王は、この後も色々と苦しむのだろう。

心に負った傷と言うのは、簡単に癒えるものでは無い。



「ママル君達、すまないが、早速だがグラスエスに向かってくれないか」

「はい、ちゃんとその準備は出来てます。その、色々、ありがとうございました」

「こちらこそ。っと、これは報酬だ。ポーション代も、次の戦いの分も含めてある。わざわざ言うと鼻につくかもしれないが、君達を信用しての先払いだ」

「あ~!そうだった!すっかり忘れてた…」


「確かにのう…、でもまぁ、折角だ、有難く貰っておくで」

「そうですね、お金はいくらあったって困りません」

「いいの?こんなに…、なんだか悪いわ…」


「命をかけさせて、さらに実績まで出してもらったんだ、

ちょっと重いと思うから、そこはすまないがね。

それでは。私も、もし間に合えばグラスエスの王都、ロォレストに行く事もあるだろうから、再会した時にはよろしく頼む」


「色々大変だと思いますが、その、うまいことやって下さい…」

「ローゼッタさん。ありがとうございました」

「ロゼちゃん!またね!!」

「色々助かった。これからも大変だろうが、お主なら出来る。頑張るのだぞ」



「ありがとう……。特にテフラ君とママル君は、シーグラン国内で不快に思う事も多いだろう。今後は、出来るだけそう言った種族への偏見を無くしていきたいと思う。ここまで、そう言った事にも文句も言わずに付き合ってくれて、本当に感謝している」


「いや、いいんですよ。ヴェントは綺麗な街だし、良い国にしてください」

「むしろ傭兵なんかをやってる人達の方が素直に受け入れてくれていたのは、少し驚きました」


「はは、彼らは良くも悪くも実力主義だからね。

そういう訳なので、次の宿はジェイコフと言う街にしてくれ。

あそこは比較的偏見も少ないし、いい宿があるからね。紹介状を渡しておくよ」

「あ、ありがとうございます」


「それにテフラ君の村の者達は、この国のどこかにいる可能性があるとの事だが…」

「盗賊が、シーグランに売ったと言っていましたから…」

「心当たりがないか、色々聞いてみるよ…。本当にすまない。無事だと良いのだけれど…」

「……よろしくお願いします。私も探しに行きたいけど、ローゼッタさんに任せます…」

「あぁ…。任されたよ」


広大なシーグラン国内を、個人がしらみつぶしに探すと言うのは現実的ではないし、テフラはもう、ママル達と共に旅を続けることに迷いはない。




「あ、そうだ、すまない。もう一つ言っておかなければいけない事があるんだった」

「なんですか?」

「多分大丈夫だと思うんだけどね、グラスエスまでの道中、北に逸れた海岸に、

ストーンケイヴと呼ばれる洞窟がある。そこにはバジリスクという生き物が住んでいてね。たまに洞窟の外にまで出て来るらしいから、もし見かけたら絶対に近寄らないようにしてくれ」


「バジリスク?」

「あぁ、強力な野生モンスターさ」


(前世で名前は聞いた事があるけど、どんなのだっけかな…)

「えっと、どんな奴ですか?」


「毒蛇、と伝えられているが、実際は違うらしい。短いが4本の手足が生えていて、四足歩行する。トカゲに近い生物らしい。胴体と殆ど太さの変わらない長い首を、こう、湾曲するように持ち上げていて、体高は人間の倍程度。高所から見渡しているためか、眼球が大きくギョロギョロと動いていて、中々に不気味らしい。その首を伸ばし、大きな口と牙で獲物を捕食する」


ローゼッタは自身の腕をバジリスクに見立てて動かしながら説明する。



「おー…、なるほど。詳しいですね」

「以前、実際に遭遇した兵士から話を聞いたからね。

そしてこいつの一番恐ろしい所は、その体から生えている棘にあって、

それを獲物目掛けて飛ばして来るんだ。それが当たったら石化してしまう」


「石化?!え、棘で体が石になっちゃうんですか?!」

「いや、なにも本当に石になるわけではないよ。

棘が刺さった箇所から、その周囲の皮膚が硬質化していくんだ。

やがて白化していき、ひび割れ、割れ落ち、10分程で肉が丸出しになってしまう。被害に遭った兵士と話をしたが、中々に悲惨な状態だったよ」


「うげ……」


「…………まぁ、そういうわけだからね………」

「ありがとうございます」

「……………正直、友人としても、戦力としても、私は君達を手放したくはない」

「なっ、なんですか急に…」

「いや、すまない。君達は、何か目的があって旅をしていたのだろう?」

「まぁ、そうですね…。モンスターを出来るだけ減らしたいと思って…」

「そ…それは…っ。そうか…。素晴らしい…。尊敬に値するし、少し羨ましいよ」

「……いや、何て言うか、その、ローゼッタさんだって、沢山の人を守ってますよ」

「………ありがとう。そうだと良いと、心から思うよ。それでは、また、いや、直ぐに再開する可能性もあるが」

「はははっ、色々とありがとうございました。それでは」




――皆が別れの言葉を交わし、ママル達はローゼッタが用意してくれたフローターに乗り込むと、グラスエスを目指して出発した。



「ふぅ……、ついにヴェントともお別れかぁ」

「これから、もっとよい街になって行くのだろうな…」

「そうですね…」

「嫌な事もあったけど、皆と一緒で楽しかったわ!」

「はっはっは、メイリーは、そのままでいとくれ」

「?…ロゼちゃんと、また会いたいわ……」


「ロゼちゃんて…、一週間くらいで随分仲良くなったんだね」

「えへへ…聖騎士の皆、良い人達だったわ…。皆ああなったらいいのに」

「そうだねぇ…」


(聖騎士…、実際良い人ばかりだったけど、シーグランはその昔には、

グラスエスとサンロックに侵攻してるんだよな…。

彼女らも、ただ自国の強化と言う点においてのみの意味で、エルフ達を殺したりしたのだろうか。こんな世界だ、勿論、国を強くする事の重要さは解る。……でも、本当にくだらない。

…………いや、ローゼッタさんがあれだけ殺人へ忌避感を持っていたんだ…。

そんなくだらない事で、人を殺めたりはしていない筈…。

てか、グラスエスへの侵攻は18年以上前だったか、ローゼッタさんは今25だったっけかな…。とすると、前の聖騎士隊長、ローゼッタさんのお父さんがやったのか…?………この辺の話、もっと詳しく聞きたいけど、流石に踏み込みすぎた話で聞けなかったな…)



「一応、気になったので言っておくがの」

「えっ?」

「バジリスクの件だ。野生モンスターと言っておったが、

食うために攻撃する様なら、モンスター化しているかどうかは関係ない。

つまり、モンスターでなくとも十分な脅威になる」


「そうですね」

「…あ、あぁ、なんかややこしい奴ね。まぁ、熊みたいなもんだよね」


「だな。同じ言葉が別の意味で使われておるのだ、仕方あるまい。

と言うか、わしもそう思ったので、その辺りの認識を改めて話したかったのだが、大丈夫そうだな」


そんな話をしていると、メイリーはママルの尻尾にちょっかいをかけるようにして遊び始めていた。


「メイリーよ。一応、何よりお主に伝えておこうかと話しているのだが…」

「えっ!だっ!大丈夫よ!モンスター化してなくても悪い奴がいるって、もう解ってるもの!」


メイリーは鼻息も荒く胸を張るが、3人はなんだか解って無さそうだなぁと思った。


(ま、こんな言葉がどうのとか、関係ないっちゃないか)




「ってかアレだね、全然揺れないし、速いな。フローターってこんな凄い物だったのか」

「これは、御者が凄いのではないか?」

「確かに。以前乗った時は、もっとこう、グワングワンしてましたからね」

「ははっ、そうでしたね」


すると、メイリーが幌から顔を出して御者に話しかけた。

「私メイリーって言うの。あなたは?」

「え?あ、し、知ってますよ。あなた達の事は…。私は、プラムです」

「皆、あなたの事凄いって!」

「えっ!いや、あ、ありがとうございます…」


「プラム、お主は魔法士とかなのか?」

「え、は、はい。一応。水系統の魔法を扱えます…」

「ふむ…。水系統の魔法士とは、普段どのような仕事をしとるのだ?」

「えっと…、ウォータル。って解りますか?水が出る魔道具なんですけど…」

「普段から持ち歩いとるで。わしらは、基本は歩いて旅しとるからな」

「な、なるほど…、その、ウォータルを作って売ったりが多いですね。

…まぁ、私の場合は、下水の管理が主な仕事ですが…」

「なるほどのう、魔力の流れを見るに、随分と繊細な魔力操作が出来るのだな」

「そっ、その、慣れてますから…」


「プラムちゃん、どこまで案内してくれるの?」

「っ!…で、出来ればグラスエスの王都、ロォレストまで案内させて頂ければ…」

「ふむ…。数日とかかるだろうが、よろしく頼むで」

「は、はい!」

「じゃあ、仲良くしましょ?」

「は…はい…」


(私が指名されたのも、女性パーティーだからって話だったけど、良い人そうで良かったな…。私なんか目つきも悪いし、全然オシャレだって出来てないのに、見下すような態度はとられてないし…。

奥の、獣人の2人はちょっと怖いと思ってたけど、そう思っちゃうのも失礼だよね…。聖騎士様の方々と一緒にヴェントを守った人達だって聞いたし、きっと大丈夫………。何より、ローゼッタ様から直々のご指名なんだし。頑張らなきゃ!)

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